Re:STYLING MONO #18 筆記具の世界的な名門ブランド「カランダッシュ」

#18 カランダッシュ


スイスといえば精巧な機械式腕時計の職人的なイメージだが、実は彼の国には時計以外にも優秀な職人が多分野にわたって活躍している。歴史ある刃物や究極ともいえるオーディオ製品、そして芸術的な装飾が施された筆記具ブランド。『カランダッシュ』はそうしたスイスの精密機械産業の伝統を脈々と受け継ぐクラフトマンシップで知られた筆記具の世界的な名門ブランドなのである。

鉛筆と同じ六角形の軸に彫金加工を施した筆記具がカランダッシュの特徴的な造形。シンボルマークともいえるそのフォルムは現代に続く同社の製品にも脈々と受け継がれている。持ちやすいホールド感に優れた同社の筆記具は、他とは一線を画した存在だ。


フランスとの国境に接するジュネーブの地に1915年、エクリドール鉛筆製造所という鉛筆会社が設立された。そこを買収した創業者アーノルド・シュバイツァーによって1924年に創立された『カランダッシュ』社。ちょうどパリ・オリンピックが開催された年であり、ヨーロッパが第一次世界大戦後の好景気に沸いていた時代だった。その社名はロシア語で「鉛筆」を意味し、ロシア系フランス人の風刺画家エマニュエル・ポワレの雅号に由来するものだという。

創業当初から洗練されたセンスを発揮していた同社の筆記具だが、スイス職人の真面目な気質と、地理的な文化条件に恵まれていたことで、芸術性の高いクラフトマンシップが製品の基本的な考え方になったようだ。設立から5年後の1929年には、現在のノック式(チャック給芯式)シャープペンシルの原型である自動給芯機構を持つ「フィックスペンシル」を開発した。同社によって特許取得されたこのペンは、世界初の完全金属性メカニカルペンシルだった。ボディデザインは鉛筆と同じ六角形。六つの平面には手作業による彫金加工が施されており、やがて「エクリドール」として発表された。

創業当初の社名に由来するこの六角形のペンは現在も定番モデルとして続いている。人間のコミュニケーション手段として最も基本的な文字を伝える道具としての筆記具に、洗練されたセンスを与え続けるブランド、カランダッシュ。製品にはゴールドやシルバーを始め、ロジウムやプラチナなどの希少金属、中国漆やカーボン繊維といった特殊素材が採用されている。筆記具に粋と品格を追求し続けている名門中の名門だ。

日本ではあまり知られていないが、カランダッシュは鉛筆のブランドとして長い歴史をスタートさせている。ヨーロッパでは同社の鉛筆は知られた存在である。いまでは工芸品とも呼ぶべき高級万年筆が良く知られているが、ボールペンやメカニカルペンのコレクションに万年筆が加わったのは1970年のこと。1974年にはライターもコレクションとして発表された。

カランダッシュの筆記具の素晴らしさはその職人性を感じるホールド性の良さとインダストリアル・デザインとしての評価も高い品格のある流麗なフォルムだろう。円筒の軸が多い万年筆を始めとする高級文房具に角柱のデザインを知らしめたその功績は大きい。


2011年6月に発表された「RNX.316」ニューコレクション。丸と6角形の2つのシェイプが融合した斬新なフォルムでボディに使用された素材は酸化や腐食に強く、スイスの高級腕時計分野でも良く知られた評価の高い高強度素材、ステンレススチール316Lを初めて採用した。カラーはブラックコーティングとスチールの2タイプがある。

「RNX.316スチール」
万年筆:スチール316ペン先PVDコート(F/M/B)両用式。
「RNX.316スチール」ボールペン。磨き上げられたボディに繊細な彫刻の仕上げが目を引く逸品。無駄を省いたシャープなデザイン。

RNX.316 PVDブラック・モデル。
精悍な印象のデザインで、PVDコートによって耐摩耗性、耐熱性、耐食性がより強化され、末永く使える耐久性の高いモデル。従来の高級カランダッシュのイメージであった宝飾的なデザインから一変、現代的なインダストリアル・デザインとなった。

RNX.316 PVDブラック
万年筆:スチール316
ペン先PVDコート(F/M/B)両用式。
RNX.316 PVDブラック
ボールペン。
ステンレススチール316LボディにPVDブラックコーティング
を施したタイプ。特徴的なストライプが目を引く。

腕時計に限らず、スイスの職人は伝統的に妥協のない厳格なモノ作りの姿勢なのだという。文化的な大国に囲まれた小国だからこそ、勤勉な国民性が国の財産として育ったのである。カランダッシュの隙のないモノ作りと完成度を見ると、スイスの職人気質が見えてくるようだ。

1974年、ジュネーブ郊外に移転した本社工場。同工場では万年筆、ボールペン、ローラーボールペン、ペンシルなどの筆記具から、ライターやアクセサリー、画材製品まで生産されている。21世紀の企業意識をきちんと踏まえて、排水浄化処理など、徹底した環境対策を行っている工場である。


1924年当時のジュネーブの同社工場
創業者アーノルド・シュバイツァー

上/エクリドールコレクション タイプ55万年筆(スチールペン先、両用式)。
下/エクリドールコレクション タイプ55 ボールペン。
このコレクションは’67年式マスタングのエアーインテークパネルをイメージして誕生したモデル。自動車産業が世界的に躍進し、斬新なデザインの車が各社から発表された60年代のイメージへのオマージュとなった。従来のエクリドールに比べて彫刻が深いのが特徴である。

上/レマンコレクション バイカラー ターコイズブルー万年筆(18金ペン先ロジウムコート、両用式)。
下/レマンコレクション バイカラー ターコイズブルー ボールペン。
画材の分野でも広く知られた同社の色彩表現力を使い、レマン湖のほとりに広がる色鮮やかな自然をボディに表現したコレクション。新たに爽やかな色彩のターコイズブルーが新色として加わった。

上/エクリドールコレクション キューブリック万年筆(スチールペン先、両用式)。
下/エクリドールコレクション キューブリック ボールペン。
6角ボディのシンプルなデザインながら、筆記具の世界で革新的なフォルムを確立したカランダッシュのベストセラーモデルに、新たに加わったのがこの「キューブリック」。見る角度や光の反射で浮き出てくる独創的な柄の彫刻を楽しみたい逸品である。

上/バリアスコレクション アイバンホー ブラック ボールペン。
下/バリアスコレクション アイバンホー ブラック万年筆。(18金ペン先ロジウムコート、両用式)。
カランダッシュに在籍する職人の技術力を駆使したアイコン・アイテムに「ブラック」が加わった。イメージは中世の騎士の名誉と成功を示す鎧。ステンレススチールが一本一本編み込まれた芸術的仕上がり。


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2011年10月16日号

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土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。