Re:STYLING MONO #9 サングラスの歴史そのものと言える稀有なブランド「レイバン」

#9 レイバン


「光を遮る」という意味のRAY-BANをブランド名に冠した『レイバン』はミリタリー・テクノロジーのスピンオフという実態を持ちながらサングラスという新しいカテゴリーの構築と、その愛用者たちによる新たな文化のアイコンにまでなった稀有なブランドでもある。

“サングラスの歴史”というキーワードで検索をかけてみると、その発祥には北極圏に住むエスキモーから、ローマ皇帝ネロまで諸説があり、正確な史実は記録されていない。ただ、現在のようなスタイルを初めて完成させたのは「RAY-BAN」である。

レイバンが時代の文化に与えたさまざまな影響について考察してみる


レイバンが米空軍からの依頼により誕生したことはよく知られた話である。1937年の創業と同時に同社は市場モデルを導入し、軍や警察、アウトドアのスポーツシーンなどで徐々に人気となっていった。サングラスをファッションとして最初に着用したのは誰か?という言及はあまり意味をなさない気がする。ただサングラスを、というかレイバンを、ファッションとして上手に取り入れることが、反社会的とは言わないまでも、メインストリームにはない新しい個性の象徴になったことだけは確かである。サングラスで目元を隠すことによって演出されるクールさは、いまの時代では珍しくはない。

だが初めてサングラスがファッションのアイテムとして登場した頃の時代の価値観では、受け入れられ難い部分もあったのではなかろうか。それが徐々に融解し始めるのには、60~70年代のたとえばロックに代表される音楽シーン、映画の世界ではニューシネマなどを始めとするカウンターカルチャーの台頭による従来あった価値観の変貌が大きく影響していった。レイバンをかけてステージに立つボブ・ディランは間違いなく時代のヒーローであり、勧善懲悪がお約束だった映画のスクリーンでは、サングラスをかけたアウトローたちが主役へと躍り出た。“クール”の定義が大きく変換したのである。

そして、その影響はファッションの世界にも多くのインパクトを与えた。たとえばサングラスをかけることで完成する“ミステリアス”なスタイルは間違いなく、60年代以降に誕生した新しいファッションの価値観ではないだろうか。

1961年公開の「ティファニーで朝食を」ではオードリー・ヘップバーン、1980年公開の「ブルースブラザース」ではジョン・ベルーシとダン・エイクロイドという二人の主役がウェイファーラー・モデルを着用。近年では「セックス・アンド・ザ・シティ」のサラ・ジェシカ・パーカーがアビエ-ターを着用。

ブルースブラザース=レイバンのウェイファーラーというイメージは鉄板。映画ではレイバンのサングラスが顔そのものだと言ってもいいくらいのレイ・チャールズも出演していた。
オリジナル・デザインのモデルRB2140は永遠の定番といえるだろう。

「ウェイファーラー」の登場


「ウェイファーラー」の登場は1952年。メガネの世界に革命を起こしたデザインであるティアドロップ型の「アビエーター・モデル」とは異なり、プラスティックフレームを採用したウェリントン・スタイルのサングラスだった。発売当初から安定した売れ行きであったが、大ヒットとなったのは映画「ブルースブラザース」が公開されてから。ブラックスーツにブラックタイ、ハットもブラックで、目もとを「ウェイファーラー」でキメたジョン・ベルーシとダン・エイクロイドのスタイルは、スクリーンを通して圧倒的な存在感をわれわれに見せた。

2007年のコレクションで『WAYFARER/ウェイファーラー』はファンの要望によって完全復刻された。とはいっても人気のデザインはそのままで、素材やフレームの構造、アームとヒンジの関係といった構造面と、輪郭やディテール、レンズの位置などに少しだけ手を加えて、より完成度高く生まれ変わった。アームとレンズに刻印された「RAY-BAN」のロゴはまぎれもなくウェイファーラーの顔であり、全体的なクオリティがすごく上がっている。いまの時代のスペックへグレードアップしつつも、オリジナルへの敬意が伝わってくるリファインである。

レイバン・ブランドは1999年にイタリアのルックスオティカ社の傘下となり、新しいデザインセンスで2004年にリムの天地が狭いモデル「ニューウェイファーラー」を発表。従来のモデルは生産終了となったが2007年に再リリースされた。

それまでのサングラスが機能を最重視した作りだったのに対し、ファッション性を意図した作りがこのサングラスの特徴である。

工業製品において“R”、つまり曲線部の処理は最もクオリティの良し悪しが現れる部分である。

アーム内側にプリントされたWAYFARERのロゴ。
ハンドメイドの証もきちんと刻印されている

実はウェイファーラーの装着時において最も敏感に感じるのはこのしっかりしたヒンジが保護する快適な装着感なのである


根強いファンが多いフォールディング・ウェイファーラー

1
2
3
4
5
6
7
8

モデルRB4105 Col.710/写真を見て判るように、フォールディング(折りたたみ)タイプのウェイファーラーは、実は根強いファンが多い。夏場のファッションでは、身のまわりの小物をポケットに入れて膨らませるのは敬遠されるので、こういうコンパクトなデザインがありがたいのだ。もちろん、トラベル用としても便利なことこの上ない。折りたたみ部分など、レイバンらしい丈夫な作りで安心。


自身のワードローブの中に最低1本は入れておきたい最もスタンダードなシャイニーブラックのレイバン・ウェイファーラー。抜群のコーディネートのしやすさとかけ心地の良さである。(RB2140 A Col.901)

空軍のパイロットがその必要性を感じた


 サングラスの歴史はメガネに比べると浅い。何しろ、この特集のテーマである『レイバン』の歴史が、そのままサングラスの歴史といえるからである。レイバン・ブランドを生み出したのはアメリカのボシュロム社。ドイツ系移民であったジョン・ジェイコブ・ボシュとヘンリー・ロムが19世紀に設立した眼鏡メーカーである。当時の眼鏡は動物の骨を削ったフレームが主流だったが、衝撃に弱いという欠点があった。彼らはそこで硬質ゴムのバルカナイト(エボナイト)を使ったフレームを考案して、爆発的なヒットを生み出した。同時に光学機器の製造にも進出して優秀な製品を次々に開発。20世紀に入ると光学機器の優良メーカーに成長していた。そんなとき、パイロット用遮光眼鏡の開発依頼が舞い込んできた。同社は6年の歳月をかけてその開発に着手する。

 遮光眼鏡の開発を相談してきたのは、1923年に北米大陸無着陸横断飛行を成功させた米国陸軍航空隊のジョン・マクレディ中尉だった。彼はパイロットとしての経験上、空の上の紫外線対策は急務だと考えていた。彼が考えていたのは、目に有害な紫外線を高レベルで遮断できる機能。そして苦心の末にボシュロム社が完成させたのが紫外線99%、赤外線96%をカットするレンズだった。後に“レイバングリーン”と呼ばれるようになるこのレンズを装着した眼鏡「アビエーター・モデル」が米空軍に制式採用されたのは1930年。サングラスの歴史のスタートである。

 1936年頃になるとサングラスの存在は一般の人にも知られるようになり、ボシュロム社はアビエーターを「クラシックメタル」という名で一般発売。翌年には“光を遮る”という意味の『Ray-Ban/レイバン』ブランドを発足させた。遮光レンズの開発がそのままブランド名になったのである。1999年よりレイバン・ブランドはイタリアの「ルックスオティカ」社の傘下となり、より洗練された製品を発表している。

機能とファッションサングラスの定義

 レイバンといえば、古くからのファンはアビエーター・モデルで採用されていた“ティアドロップ”のデザインを思い浮かべるだろう。このデザインは人間の目の動きと同じ範囲をカバーしつつ最大の視野を確保することを目的として設計されていた。その独特なフォルムは、ファッションにおける重要なポイントとして一世を風靡することになる。だが、多くの模倣品を生んだにもかかわらず、レイバンのサングラスが他の追随を許さなかったのは、光学メーカーとしての優秀な技術力が生んだレンズがあったからである。

 20世紀の工業化社会は豊かな恩恵を生み出したが、反面、地球環境という面では自然破壊による負の要因も生み出した。その代表的なものがオゾン層の破壊である。オゾン層が薄くなることによって、地表へ降り注ぐ紫外線の量は急激に増えた。1920年代のパイロットが雲の上で感じた目への負担を、いまわれわれの時代は地表で感じているのである。
 サングラスがファッションのアイテムとして捉えられるようになって久しいが、現代ではまたレイバンのブランド・スタート時の思いに教えられることも少なくない。機能とファッションの二つが揃っていなければこれからの時代のサングラスは成立しない。レイバンはそれを70年以上も前から謳い続けていたのである。

高高度の上空では紫外線の影響が大きい。当時のパイロットたちは飛行中に浴びる強烈な太陽光線によって、視力の消耗、頭痛や吐き気といった症状に悩まされ続けていた。こうした問題を解決するために生まれたレイバンのサングラスは当時のミリタリースペックを大幅に上回る機能を備えた画期的な製品だったという。

おそらく、というか間違いなく日本人が初めてサングラスという存在を意識したのは、ダグラス・マッカーサーが日本領土へ上陸したその日だったはずだ。そのサングラスがレイバンというブランドであることはやがて人々の知るところとなり、1960~70年代には若者の間で大流行することになる。Photo/US ARMY


ファッションの極意は内側から……を体現するようなデザイン。サングラスを外したときに鮮やかなインサイドが見えるが、着用時にもチラ見せが意識できるデザインといえるだろう。

赤を基調としたRay-Banのロゴがフレームの内側にあしらわれた
ウェイファーラーRB2140 Col.1016

白を基調としたRay-Banのロゴがあしらわれたモデル。
ウェイファーラーRB2140 Col.1017

表裏で2種類の異なる
プラスチック素材を合わせた
斬新なモデル。
RB2140 col.1059 51

アームの内側に刻印された
Hand Made in Italyの文字が
イタリア製レイバンを表す。
RB2140 col.1058 28

シックなプラスチック生地は
これまでのウェイファーラーでは
あまり見られなかった上品さ。
RB2140 col.1056 32

大胆な赤をフレームの外側に
デザインしたモデル。
ちょっと新しいレイバンである。
ウェイファーラーRB2140A Col.955


初出:ワールドフォトプレス『モノ・マガジン』2011年5月16日号


すべてのRe:STYLING MONOの記事一覧はこちらから


過去の記事のバックナンバー
#21〜#30まで

●#30 照明器具の存在感を愛でたいならば「アングルポイズ」を選ぶべき

●#29 70年代以降のビーチカルチャーをリードした「クイックシルバー」

●#28 世界の誰もが認めるピアノの最高峰「スタインウェイ」

●#27 スタンダードなデザインながら当時のディテールと現代のトレンドを持つ「ファイブブラザー」

●#26 足首を保護する斬新なデザインで歴史に残る傑作シューズとなった「コンバース」のキャンバス オールスター

●#25 イタリア家具の歴史を変えた 「アルフレックス」

●#24 最高級英国綿製品の文化は 「ジョン スメドレー」の歴史

●#23 「オールデン」が生み出した、美しく艶やかな名靴たち

●#22 250年を過ぎた今でも進化し続けるビール「ギネス」

●#21 圧倒的なクリエイティビティで憧れのスタイルを表現し続けている「トイズマッコイ」

#11〜#20まで

●#20 最も理想的なハイキング・ブーツと評され一躍注目を集めた名品「ダナー・ブーツ」

●#19 戦後の日本で「天童木工」が生み出した、美しく洗練された名作椅子

●#18 筆記具の世界的な名門ブランド「カランダッシュ」

●#17 アメカジ不朽の定番ウェア「チャンピオン」

●#16 “鉄馬”と呼ばれたバイク、ハーレーダビッドソン

●#15 ビクトリノックスが生み出した世界一コンパクトな道具箱

●#14 世界最高品質と評されるワークブーツ「ウェスコ」

●#13 歴史的な衣料品としての道を歩み始めたアロハシャツ

●#12 都会的で洗練された味覚のバーボンウィスキーI.W.ハーパー

●#11 ボルサリーノは単なる帽子ブランドではなく、イタリアの文化と認識せよ。

#0〜#10まで

● #10 オーディオのダイナミズムと洗練された次世代のデザインを融合させたオーラデザイン

●#9 サングラスの歴史そのものと言える稀有なブランド「レイバン」

●#8 世界最高の双眼鏡、スワロフスキー・オプティック

●#7 ギブソンのギターが“伝説”と称される、書ききれないほどの理由について

●#6 60年以上経ったいまでも、人々はなぜイームズ・チェアに美しさを感じるのか

●#5 大工道具の最高峰「千代鶴是秀」

●#4 米海軍の艦船内で使う実用的な椅子として開発された「エメコNAVY 1006」

●#3 チマヨベストの源流はオルテガ。ここからすべてが始まった。

●#2 100年を超えて途切れ目もなく続いてきたフィルソンの森の仕事着と男たち。

●#1 シューズボックスから始まる一日。名品POSTMANのスタイリングに迫る。

●#0 Re:STYLING MONO始動!


土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。