Re:STYLING MONO #21 圧倒的なクリエイティビティで憧れのスタイルを表現し続けている「トイズマッコイ」

#21 トイズマッコイ


映画にしろ、私生活にしろ、一人の俳優がそのスタイルをこれほど研究されているのはスティーブ・マックイーンをおいて他にいないのではないだろうか。それも出自のアメリカではなく、遠く離れた日本において、その研究がなされていることを考え合わせると、映画史の中でも特異な俳優といえるだろう。いまほど映画やその他メディアのコンテンツが豊かではなかった60~70年代、映画「大脱走」の中でマックイーンが着ていた軍用ジャケットのスタイリッシュさに感化された一人の小学生が愛知県にいた。名を岡本博という。

画才に恵まれていた岡本少年はその観察眼の良さで、映画の中の衣装にしかすぎなかったフライトジャケットの細部までを記憶し、同じものを探し求め始める。しかし「マックイーンと同じジャケットが着たい」という欲求は入手困難であった当時は満たされることがなかった。

やがてイラストレーターとして名が売れ、1978年に渡米。約1年をかけ全米各地でフライトジャケットを求めた旅を敢行する。大量の知識と現物を手に帰国後会社を設立。雑誌ポパイ誌上で手作りした300着のA-2は大反響となった。現『トイズマッコイ』社は、銀幕の中の男スティーブ・マックイーンへの岡本少年の憧れを、いまも正確に表現し続けている。

高校時代の岡本氏が横須賀で出会った軍用ジャケットはG-1だったという。米軍の革ジャンということで憧れのA-2を期待していたが、お店の主人が出してきたのは襟元にムートンが配されたG-1だった。NAVY仕様というのもそのとき知ったそうだ。


ミリタリー・ファンのツボを押さえたクリエイティビティと圧倒的なクオリティの高さで知られるトイズマッコイ社のアイテムの中でも特に完成度が高いと編集部がお勧めするのが『G-1 WILD GADGET』である。「プライベートで飛行機に乗るときにマックイーンが着ていたのがG-1だった」と語る岡本氏の言葉からも、その思い入れの深さがうかがえる逸品。またテレビドラマ「傷だらけの天使」の中でショーケンが着ていた姿も印象深いという。特に襟元の茶色いムートンが、光の加減やカメラのレンズを通すとゴールドに見えたりするのが面白いのだそうだ。MILスペックではG-1のムートンは赤茶色で統一することになっているが、軍で実用されていた当時の製品は、経年変化で色が飛んでしまっており、その色褪せた感じがまた、たまらない魅力。トイズマッコイのG-1に使用されているムートンは、一部をわざと脱色、さらに染め足すことで経年で焼けた感じを演出している。本体に使用されているのはゴートスキンのレザー。すべてMILスペックに準じ、鞣しも含めた作りが徹底的に追及されている。その文化までも精密に再現したマニアックさは、現代のブランドが行う雰囲気だけの古着加工など、足元にも及ばない。

いま、ムートンといえば豪州産を使用するところが多い。ただ、その大雑把なゴワゴワした手触りは敷物としてなら問題ないが、衣料用としてはあまり適さない。本来G-1に使用されているのは北米産のムートンで、ベースの毛が細くて柔らかく、その肌触りの違いは、実際に着用すれば実感できるだろう。細部にこだわった作りはさすが、としか言いようがない。

MILスペックに準じて採用されている米TALON社のファスナー。フェリックス・ザ・キャットのイラストの経年変化具合は、岡本氏の真骨頂。一枚一枚プリントしたものをエージングして、レタッチを行い、きちんと手を入れて作られている。この“エージング感”こそがトイズマッコイの凄さであり、時代を経たモノの歴史を文化として感じ取ることが出来るのである。


インナーは質のいいネルで仕立てられたコットンチェックワークシャツ、ボトムはコーデュロイ素材のマックヒルトラウザーズシューズはアイアンクラッドワークブーツ・レイルマンすべてトイズマッコイ。50代後半とは思えぬ岡本氏のスマートさ!

1935年にVF-1Bとして創設されたVF-6シューティングスターズ。1944年1月に配属された空母「イントレピッド」の艦名とパイロットウイング章がプリントされている。

2つの部隊章に使用されたキャラクターを合わせたバックペイント。その擦れたエージング具合は芸術的作品と呼ぶに相応しい。

TYPE G-1 SPEC 55-J-14WILD GADGET
インナーのファブリックの張り方を是非とも実際に見て欲しいもの。MILスペックに準じた細かな作りは本当に感動もの。

これもMILスペックに忠実に準じた作りとなっている、袖口と裾のリブ編み。共に先のほうが根元よりも細い編みが施された、凝った作り。当時からネイビーは贅沢であり「他とは違う」というのを見せたくて贅沢な作りになっているらしい。海軍航空隊に制式採用されたG-1ならではの魅力といえる。

岡本博氏のサインと
シリアルナンバー。

IMG_6934

第二次世界大戦中のアメリカ海軍機に実際に描かれていたフェリックス・ザ・キャットと牛のマークを忠実に再現したデザイン。2つのマークを機体に描いたアレキサンダー・ブラシウ搭乗機は例外的な存在だったという。シリアルナンバー。

岡本コレクションG-1

M422A/岡本氏が23歳のときに米国で購入。40ドルだったらしい

J7823E/アクリル襟。岡本氏が最初に日本で購入したG-1である。サイズ42で新品だったらしい。

55J14/80年代後半に手に入れた新品のデッドストック。

J7823B/マックイーンが着用したモデルに似たタイプ。以前、本誌で紹介されたものを購入。


岡本博/トイズマッコイ代表イラストレーターとしての活動の他にアメリカのミリタリーウエアなどを手がける「トイズマッコイ」を運営。またバイクへの造詣も深く、BUCOのヘルメットは岡本氏の手によって再脚光を浴びる存在となった。写真は23歳の岡本氏。当時から本物のA-2を愛用。

N-1デッキジャケット 
フェリックス・ザ・キャット“テキサスレンジャー”

フェリックス・カウチンセーター
トイズマッコイのアイテムとしては珍しいカウチン

USネイビーセーターCV-37 プリンストン
着回しの利く便利なセーターはマストアイテム。

デッキバッグ フェリックス・ザ・キャット
デッキパンツを解体してリメイク、がコンセプト。

USネイビー ニットキャップ
NAVAL CLOTHING FACTORYのラベル!


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2011年12-02号


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#21〜#30まで

●#30 照明器具の存在感を愛でたいならば「アングルポイズ」を選ぶべき

●#29 70年代以降のビーチカルチャーをリードした「クイックシルバー」

●#28 世界の誰もが認めるピアノの最高峰「スタインウェイ」

●#27 スタンダードなデザインながら当時のディテールと現代のトレンドを持つ「ファイブブラザー」

●#26 足首を保護する斬新なデザインで歴史に残る傑作シューズとなった「コンバース」のキャンバス オールスター

●#25 イタリア家具の歴史を変えた 「アルフレックス」

●#24 最高級英国綿製品の文化は 「ジョン スメドレー」の歴史

●#23 「オールデン」が生み出した、美しく艶やかな名靴たち

●#22 250年を過ぎた今でも進化し続けるビール「ギネス」

●#21 圧倒的なクリエイティビティで憧れのスタイルを表現し続けている「トイズマッコイ」

#11〜#20まで

●#20 最も理想的なハイキング・ブーツと評され一躍注目を集めた名品「ダナー・ブーツ」

●#19 戦後の日本で「天童木工」が生み出した、美しく洗練された名作椅子

●#18 筆記具の世界的な名門ブランド「カランダッシュ」

●#17 アメカジ不朽の定番ウェア「チャンピオン」

●#16 “鉄馬”と呼ばれたバイク、ハーレーダビッドソン

●#15 ビクトリノックスが生み出した世界一コンパクトな道具箱

●#14 世界最高品質と評されるワークブーツ「ウェスコ」

●#13 歴史的な衣料品としての道を歩み始めたアロハシャツ

●#12 都会的で洗練された味覚のバーボンウィスキーI.W.ハーパー

●#11 ボルサリーノは単なる帽子ブランドではなく、イタリアの文化と認識せよ。

#0〜#10まで

● #10 オーディオのダイナミズムと洗練された次世代のデザインを融合させたオーラデザイン

●#9 サングラスの歴史そのものと言える稀有なブランド「レイバン」

●#8 世界最高の双眼鏡、スワロフスキー・オプティック

●#7 ギブソンのギターが“伝説”と称される、書ききれないほどの理由について

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●#1 シューズボックスから始まる一日。名品POSTMANのスタイリングに迫る。

●#0 Re:STYLING MONO始動!


土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。