Re:STYLING MONO #8 世界最高の双眼鏡、スワロフスキー・オプティック

#8 スワロフスキー・オプティック


世界最高の双眼鏡をご存知か?
しかもそれが巷間知られる光学メーカーの品ではなくクリスタルガラスやジュエリーで知られるあのスワロフスキー製だということを。そう、スワロフスキー・オプティック社製の双眼鏡は創始者ダニエル・スワロフスキーの息子、ウィルヘルム・スワロフスキーが1935年からその製造を始めた、名品中の名品である。オーストリアという、ヨーロッパの中でも洗練された気風を持つ土地が大事に育て続けたブランドであり、精緻さと美しさを備え持つ、世界の傑作品だ。

「クリスタライズ」と呼ばれるスワロフスキーのクリスタルガラス。ベルサイユ宮殿を始めとするシャンデリアで一躍その名を知られる存在になったが、実はクリスタル加工技術を活かした双眼鏡製作の歴史は意外に古い。

最上級の腕を持つ職人たちによる、確信犯的超難易度のモノ作り


結論から述べよう。『スワロフスキー・オプティック』の双眼鏡がなぜ世界最高品質と言われるのか。それはまず“品質はあってもコストの概念は無い”と言い切る同社の企業理念が、すべてに優先されたモノ作りだからだ。たとえば対物レンズや接眼レンズの焦点距離は、ある程度の誤差が生じるものだがそれ以上の精度を出そうとすると、とてつもなく高い製品価格になってしまうのである。その光軸のズレのまま双眼鏡を5~10分見続けると眼球の疲労や頭痛を感じてしまうこともあるほど。

ところがスワロフスキーは、その精度を限界まで追いこんだ、長時間レンズを覗いても疲れない双眼鏡なのである。また、双眼鏡のデザインで初めて、片手でのホールド感を高めた「ラップ・アラウンド・グリップ」を完成させた。寒冷地でもグローブをしたまま操作できるという実用的なデザインは、スワロフスキーの双眼鏡だけだ。こうした高いレベルの製造工程に従事する同社の人材は機械式腕時計が組めるくらいの精密作業に長けた職人揃い。確信犯的に難度の高いモノ作りを行っている。

だからこそ、世界最高の双眼鏡が生まれるのであろう。“双眼鏡としての総合力は他の追随を許さない”そこが世界一の理由である。もうひとつ、スワロフスキー所有者だけが知りえる秘密。それは、肉眼・裸眼で見た色と、レンズを通した色が同じであるという点だ。大きく見えるだけではなく、正確に認識できる、あるいは同じ質感で見えることの当たり前のようでいて、他の双眼鏡では決して望めないレンズの向こう側に広がる景色は、最高の喜びを与えてくれるに違いない。視覚的にも触覚的にも「最高の名品」の佇まいである。

ラップ・アラウンド・グリップが双眼鏡の理想的な形であることは他のメーカーも判っているはずだが、ピント調節のためのメカをすべてブリッジの部分に入れなければならず技術面でもコスト面でも、難易度の高い設計であるために敬遠されている。


スワロフスキー・オプティックの創設者ウィルヘルム・スワロフスキーダニエル・スワロフスキーの息子。1935年に自らの手で野鳥観察のための8×30双眼鏡を作り上げた。1949年に本格的な光学機器専門の工場「スワロフスキー・オプティック」をスワロフスキー社と同じくチロル州のアブサムに設立。60年以上にわたり最高級の光学機器を提供し続けている。

1895年、旧チェコスロバキア・ボヘミアからの移民であるダニエル・スワロフスキーは、オーストリアのチロル州ヴァッテンスでクリスタルガラスの製造会社を設立した。彼自身が、それまで手作業で行っていたクリスタルのカットを、より精密に行える機械を発明してから3年後のことだった。高度な生産技術により作られたスワロフスキーのクリスタルは、着実に市場に受け入れられ、ファッション・アクセサリーのデザインに新しい可能性を切り開いた。

同時に、精度の高いクリスタルの技術は他分野への応用へと広がり、たとえば道路のリフレクターでは交通安全用製品に革新的な技術を提供した。ダニエル・スワロフスキーの息子、ウィルヘルム・スワロフスキーの時代になると、双眼鏡を始めとする精密光学機器の製作を開始(1935年)。

1949年には『スワロフスキー・オプティック/Swarovski Optik』社を正式に設立し、同じチロル州のアブサムに本社を構える。このアブサム村は18世紀後半くらいまで、ヨーロッパで最も探し求められていたバイオリン、名工ヤコブ・スタイナーが誕生した土地でもある。隣町のハル(HAL)はヨーロッパで初めてコインが鋳造された町。モノ作りの職人の育つ土壌があったのかもしれない。

ただ、スワロフスキーがここチロル地方に拠点を構えたのには、大きな理由があった。それは、クリスタルを加工する工場に欠かせない水が、豊富な土地だったのだ。1964年と1976年の2回、冬季オリンピックが開催されたほど雪深いインスブルックの郊外に位置するこの地は、アルプスの清冽な水が絶え間なく湧き出し、潤沢な水を必要とするクリスタルや光学レンズの研磨・洗浄、そして急峻な地形による水力発電からの電力供給には最適な場所である。

つまりアルプスの水で磨かれたクオリティがスワロフスキー製品を支えている、といっても過言ではないほど、同社にとって水は重要な存在なのである。1980年代以降、スワロフスキー・オプティック社では自然環境への配慮からレンズの洗浄方式を変更し、洗浄水の再利用など環境保全とリサイクルへの高い意識を、生産の現場で実践している。水に対する高い意識は、これから同社の基軸のひとつとなっていくことだろう。スワロフスキー・オプティックのスコープや双眼鏡は、最新の機材と最良の材料、そして最高の技術者たちによって生み出されている。技術革新は日常的に進められ、たとえば同じ機種が1年の内に2度、3度とマイナーチェンジされるようなことも、決して珍しいことではないという。低コスト・高効率といういまのアメリカ的な株主重視のコスト追求型経営ではありえない話だ。

だがそのスタンスを曲げないことで、最高の評価を得るに至る製品を生み出しているのである。双眼鏡を手にとってみると、その素晴らしい重量バランスの良さに感動するだろう。長時間の使用でも身体への負担を軽減し、レンズを通して再現されるありのままの色は、まるでそこにガラスレンズなど存在しないかのように自然で、目にも優しい。世界のバードウォッチャーたちの間では鳥の羽の質感、再現力で、スワロフスキー製光学機器の評価が圧倒的なのだという。

また、ある建築家は、歴史的建造物の細部をスワロフスキー双眼鏡で観察し、自分の設計による建物の経年変化を、高いところに登って危険を冒すことなく知ることができた。誰もが口をそろえて言うことは「もうスワロフスキーでないとダメ」。いつの時代でも、愛用者たちの声は正直である。ちなみに、同社の光学機器は英王室のロイヤルワラントを賜っている。それも女王陛下のワラントだ。スワロフスキーなら当然だろう、と、普通に思えるところが、このブランドの凄い所かもしれない。

SLC8×42HD
2010年発売の人気モデル。
低分散ガラスを使った対物レンズでこの価格帯では飛び抜けた機能。

EL12×50 SWAROVISION
2011年発売の超最新モデル。
フィールドフラットナーレンズを
採用した新世代の50㎜双眼鏡。

Pocket 8×20B Tyrol(革張りボディ)
レギュラーモデルと同じく光学設計は16枚のレンズを使った贅沢な設計。オペラグラスにも。

オーストリア・インスブルック郊外、アブサム村にその居を構えるスワロフスキー・オプティック社の工場。アルプスを背にしたチロル地方は豊かな自然と水に恵まれた土地。


ここでは『スワロフスキー・オプティック』の中でも高い完成度を誇るモデル「EL8・5×42SV」を中心に、その優れた製品作りについて解説してみよう。

まず型番の後に付くSVという文字は“SWAROVISION”の略。これは同社のビノキュラー(双眼鏡)の高級機に採用されているスワロビジョン・テクノロジーを有するモデルにのみ冠されている。人気モデルだったEL42を昨年、10年ぶりにフルモデルチェンジしたのがこの「EL8・5×42」(倍率8・5倍)と「EL10×42」(倍率10倍)。スワロビジョン・テクノロジーとはフィールドフラットナーレンズを使った新設計の光学系、旧型以上に分解能が高くて明るい像を見せるさらに進化したSWAROコーティングに代表される新技術のこと。

新設計の2枚構成フィールドフラットナーレンズは、視野を平坦にして視野周辺部の像を補正し、高いコントラストを確保してくれる。対物レンズに採用された素材はフローライト系HDガラス。自然の色を忠実に再現し、色収差を限界まで補正する。

またハイ・アイレリーフで観察時の疲れを大幅に軽減。メガネ使用時の視野のエッジまで見やすい設計だ。独自のレンズ・コーティングは光学性能をアップ。表面のレンズには汚れや水滴を付きにくくするSWAROCLEANという撥水コーティングが施されている。こうした圧倒的な技術力と職人たちによる完璧な製造力が世界最高の逸品を生み出しているわけだ。

ところでビノキュラーといえば遠くを見ることばかりに気を取られがちだが、実は同機の最短合焦距離1・5mは世界最小。足元の植物や昆虫などの観察も可能にしている。近くであっても遠くであっても、スワロフスキーのレンズを通して見る景色は、見えないものを見る楽しみや、見落としていたものを発見する喜びに溢れている。品質はあってもコストの概念は無い、と言い切るブランドだからこそ、極上の製品を通して最上の愉しみを与えてくれるのだろう。

スワロフスキー・オプティックのトレードマークはこのイーグルのモチーフ。バードウォッチングをする人に とっては、この鳥の種類が気になるところだが、実際には猛禽類をモチーフにしたデザイン上のマークであり、特定の鳥ではないらしい。ラップ・アラウンド・グリップによってハンドリングのしやすさを格段に向上し、ピント調節のためのすべてのメカがブリッジの部分に集約されている。実際に触るとよく判るが、ピント合わせのフィーリングや微妙な調整、実使用時のスムーズな使用感など、とにかく触覚に訴える操作性の良さに、ほれぼれするほど感動する。

世界中のユーザーから絶大な信頼を寄せられるスワロフスキー・オプティックの修理メンテナンス。同社の考え方は「修理をすることで職人のスキルが上がるのだから、そこで儲けようという発想はない」というもの。だから他のブランドと比較しても修理代は安くて早い。製品の修理はすべてチロルの工場で行われる。微妙なタッチやコントロールなど、生命線のクオリティは自分たちが守るという考えだ。

機械式腕時計を組めるくらいのレベルの高い職人が揃っている。モノ作りを楽しむ社風は創業当時からあったそうで、いまではその技術力は軍用スペック(ミリタリースペック)を遥かに超えるほどだという。生産工場の職人というだけではなく同社には研究者も多い。面白いのは部品に使われるネジなどもすべて自社生産のオリジナル品。ということは当然、それらに適合する工具類もオリジナルということになる。だが、部品や工具類の持ち出しは禁止されており、海外のブランチにも置かれていない。修理はすべてチロルのこの工場内で行われている。

デジタルカメラなどをマウントして撮影が楽しめるスナップショットアダプターは付属品。貴重な生き物や植物、風景などを記録する楽しみもある。










光学機器だけではなくスワロフスキー本体の最新アイテムも話題作が多い。まずは初のクロノグラフウォッチが新作コレクションに登場。今年のバーゼルで初公開されたばかり。ジュエリーブランドらしい品格のあるスタイリングだ。

また、ファセット・セラミック製のOCTEA SPORTの注目作。クリスタル加工で培われた技術が、セラミック加工にも充分に活かされた逸品。ウォッチコレクションにおける12時の位置のスワン・ロゴが、魅力的なデザインとなっている。

アクセサリー系では何といっても大ヒット映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」とのコラボレーションに注目したい。ジャック・スパロウや女海賊アンジェリカたちが身に付けているジュエリーのレプリカなど、ファンには見逃せないアイテムが多数発表される。

スワロフスキーのウォッチ&ジュエリー、話題沸騰の最新作。

OCTEA CHRONO-PURPLE

OCTEA SPORT ULTRA WHITE

パイレーツ・オブ・カリビアンとのコラボレーション・ジュエリー
HIGH SEA:NECKLACE COMPASS

コラボ・ジュエリー。
こちらはペネロペ・クルス演じる
アンジェリカが着用品のレプリカ。
ANGELICA:PENDANT CROSS









初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2011年5月2日号

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土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。