Re:STYLING MONO #10 オーディオのダイナミズムと洗練された次世代のデザインを融合させた「オーラデザイン」

#10 オーラデザイン


オーディオ製品における“音の良さ”の基準は音の経験値も含め多分に恣意的だ。でも、デザインの良さは誰でも解る。音楽を再生する装置としてオーディオが自分の部屋の中でどういう存在感でいてくれるのか、それはデザインによるところが大きい。ブラックとクロームメタルが印象深い英国製オーラデザインのオーディオは巨大なスピーカーや、100㎏を超す大型のアンプとは対極のスタイリッシュでスマートな世界観。オーディオがプロダクトであることを改めて実感させてくれるデザインである。ケネス・グランジによる造形は音楽と共にある毎日の生活が、人生を豊かに彩ることを教えてくれる。

ケネス・グランジ

世界的に有名なロンドンのデザインスタジオ「ペンタグラム」の主宰デザイナー。数えきれないほどの英国デザイン賞やエジンバラ公賞を受賞。オーラデザインの他に英国のパーキングメーターやパーカーのペン、インターシティの列車デザイン、B&Wのオーディオ、アングルポイズ、そしてマーガレット・ハウエルとのコラボレーションなど多彩な活動。現在は独立して活躍中。1929年生。

世界的に有名なロンドンのデザイン・スタジオ「ペンタグラム」でも活躍した、ケネス・グランジの代表的なデザインといえば、このAuraのオーディオや英国インターシティの列車、そしてデスクランプ「アングルポイズ」が有名。

マニアックな音の追求よりも、いい環境で音楽を聴きたい世代のオーディオ


イギリスはデザインに対して真面目な国である。たとえば19世紀ヴィクトリア朝期の産業革命では工場の生産力が飛躍的に伸びて、大量生産時代の礎を築くことになったが、反面、それまでの職人たちがプロレタリアートとなった。その結果失われた手作業や職人技の再興を図るべく起きた運動が、ウィリアム・モリスらによるアーツアンド・クラフツ運動であり、それが以後20世紀のモダンデザインの源流になった。工業プロダクトとデザインの関係性について19世紀からその重要性に着目していたのである。

一方で、こうしたデザインへの真摯なスタンスや伝統的なスタイルへの反動も、他では見られないほど大きいムーブメントを起こす国でもある。オーディオの世界で1989年に登場したAuraはトランスの大きさや重量がいい音への絶対条件と信じられていた中で、筐体わずか55㎜の厚さの薄型インテグレーテッド・アンプだった。しかも鏡面仕上げのクローム・フィニッシュ・フロントパネルという斬新なデザインでフロントに配置されたボタンは、ボリュウムとセレクタ、パワースイッチのみという潔さだったのである。

だが、この異色ともいえるシンプルさに、新しい世代のファンたちは反応した。なぜならば、いい音を徹底して追求することよりも、いい環境で音楽を聴きたいと願う人たちが、オーディオを購入する中心世代になりつつあったからである。1997年にはいったんイギリスでの製造が終了したが、2006年にAura noteで復活を果たし、いままた新生代の『neo』と『groove』が注目されている。

すべてを集約した一台のレシーバーにスピーカーケーブルを接続するだけでよかったnoteのスマートさをほぼ残したまま、セパレート化された『neo』と『groove』。さらなる音質の追求とパワーを得てAuraデザインのオーディオは進化の階段を着実に登っている。

ケネス・グランジのデザインによる名品Aura noteは、8㎜厚のガラスリッドをスライドさせてCDをセットしクローム・フィニッシュのウエイトで固定する。その一連の動作はまさに、デザインの一環であり使うスタイルまで考えられた高度な意匠。オーディオの次世代を体現したモデルだ。


オーディオの世界の常識で考えれば「スマートなデザインの筐体からはいい音は期待できない」というのが長い間の揺るがない見識だった。アンプは重厚でトランスは巨大なほど音が良く、プリとパワー部はセパレートにし、しかもパワーアンプはモノラルでマルチドライブ。スピーカーといえば、屈強な大人でも一人では絶対に運べないほど巨大で重いのが常識とされていた。

そんなオーディオは豪勢なマニアのための装置であり、限られた居住スペースの中で普通に快適な生活を楽しみながら音楽も楽しみたい、という一般人には無縁の存在なのである。だが、そうは言っても、やはりいい音で音楽を聴きたいのは誰もが考えること。

オーラデザインはそんなジレンマに苦しむオーディオ界にあって、頂点にあるオーディオのスケールダウンではなく、独自の視点で音楽を聴くスタイルからの発想でモノ作りを始めた。北欧モダンやイタリア系の現代的なインテリアにも決して負けないデザイン力でありながら、オーディオ製品としての音のダイナミズムも決して失わない、そんなブランドなのである。

CD Player|オーラデザイン初のCD専用機『neo』は、シンプルなデザインながらハイエンドな回路とメカ

『Aura neo CD PLAYER』
AK4117デジタル・オーディオ・レシーバーと、AK4125 96k㎐/192k㎐サンプリングレート・コンバーター、高性能DAC CIRRUS LOGIC CS4398を内蔵し、完全バランス回路で構成されたXLR出力を搭載。デザインだけでなく回路やメカの充実ぶりに、各方面から高い評価を得ている逸品(リモコン付属)。

『Type75シルバー』
1932年にジョージ・カワーダインによりデザインされた『アングルポイズ』は、デスクスタンドの元祖といわれる存在。2003年にケネス・グランジはそのリデザインを手がけた。人気モデルTypeシリーズの「Type75シルバー」。

Amprifire|オーラデザイン久々の本格的なインテグレーテッドアンプ『groove』。見た目も美しいアンプである。

『Aura groove INTEGRATED AMPLIFIER』
オーラデザインのスタートとなった初代モデルから継承されるMOS-FETをパラプッシュプルに配して75+75Wの出力を確保している。アナログのアンプらしい温かくて繊細な音でありながら、その表現力は現代的なクリアでスピード感あふれる音でも耳を疑うほどの能力でドライブしてくれる(リモコン付属)。

ANGLEPOISE/アングルポイズ「Type75ブラック」
アングルポイズについての詳しい情報は、リビング・モティーフのHPで。

10年間眠っていたデザインに光りが射す


 オーラデザイン社は1989年にマイケル・トゥという一人のオーディオ好きな若者が立ち上げたオーディオ・ブランドであったが、すぐに資金難に陥り、当時のB&W社のロバート・トゥルンツに拾われることになった。以降10年間はB&W傘下のブランドとして、シンプルでミニマムなデザインのアンプを発表し成功を収めていく。その後、親会社の意向で会社が閉鎖される憂き目に合うが、日本の輸入オーディオ商社である「ユキム」がブランドを継承し『オーラデザインジャパン』を設立した。

実は大ヒット商品『note』はその当時にはデザインも終わってモックアップが製作されていたのだが、会社委譲の騒ぎの中でずっと忘れ去られていた存在になっていた。それが後年、一枚の写真で発見され再び製品化への動きとなったのが2006年のこと。つまり、約10年越しの熟成期間を経て世に出たという珍しいオーディオなのである。変化の激しい現代でも“完成されたデザインは古くならない”ということを図らずも実証したわけだ。ケネス・グランジとオーラデザインの凄さが伝わる逸話である。

現在のAura noteの主力機は「Aura note Premier」という。新しくなくて、でも決して古くならないデザインはそのままにメカニズムを一新したモデル。一体型でありながら、往年のVA50アンプに近い暖かいぬくもりのある音質を実現した。


上のモノクロ写真は、Auraデザインの初期に撮影された主力モデルの写真。当時からマシンエイジを彷彿させるようなアナログなデザインが特徴だった。ミッドセンチュリー以降のデザインの温かさをいまも保ち続けているが、雰囲気は決して古くならない。隠されたメカや回路のハイテクさと半世紀前のクラシックさのギャップがこのブランドの面白さである。


3人いる人物写真の中央が、オーラデザイン創業者のマイケル・トゥ氏。

Aura Designに息吹を与えた元ペンタグラム主宰ケネス・グランジのサイン。

オーラデザインの
CDプレーヤー『neo』
/インテグレーテッド・
アンプ『groove』

オーラデザインの
『note premier』/
スピーカーシステム『Aura polo』/(ペア)


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2011年6月2日号


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#0〜#10まで

● #10 オーディオのダイナミズムと洗練された次世代のデザインを融合させたオーラデザイン

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●#0 Re:STYLING MONO始動!


土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。