Re:STYLING MONO #20 最も理想的なハイキング・ブーツと評され一躍注目を集めた名品「ダナー・ブーツ」

#20 ダナー・ブーツ


アウトドア・スポーツという概念を初めて体系化したコリン・フレッチャーの著書「コンプリートウォーカー」の中に印象的な言葉がある。それは“クワイエット・スポーツ”という表現で、アウトドアに対する解釈としてこれ以上のものはないと思える言葉だ。この“静かなスポーツ”には他の競技には無い独自のルールがある。それは審判が自分自身であるということ。自然に対する畏敬の念を持ち続けることが最も大切な参加者のスキルでありこうしたスタンスから多くの道具や方法論が生み出され、伝えられてきた。アウトドアがスポーツとして捉えられ始めていた60年代のアメリカ、ジョン・F・ケネディが大統領に就任するとハイキングやバックパッキングや登山などが新しいスポーツとして注目され国民の健康に対する意識が高まっていった。『ダナー』はそんな時代に一躍注目を集めたアウトドア・ブーツの名品である。

「ウォークアメリカ」と題されたニューヨークのウォーキングイベントで6ヶ所のリペアステーションのスポンサーとなったダナー社。5000以上のクーポンが、同社社長のエリック・マークとボランティアが乗り込んだこのワゴンから分配された。年代は明確ではないが、80年代の写真。(Danner Japan提供)

いわゆる安全靴と呼ばれるヘヴィな作りのワークブーツを創業以来、生産し続けていたダナー社は、1960年代に始まったアウトドアブームに乗り初めてワークブーツ以外の靴を生産する。その最初のモデルが「エルクハンター」という山歩き用のシューズだった。


大恐慌の真っ只中であった1932年に創業したダナー社は、低価格のワークシューズを作るメーカーとしてスタートした。高品質な靴の市場開拓を目標としていた同社は時代の波に翻弄されながら紆余曲折を繰り返し大戦中から戦後にかけて“造船所の靴”と呼ばれた樵の作業靴のメーカーとして名を馳せた。やがて60年代のアウトドアブームに乗ってハイキング・ブーツを作るようになり、第18回のアメリカデザイナー賞も受賞した同社のモデル『マウンテントレイル』は、当時のバックパッカーマガジン誌上で「最も理想的なハイキング・ブーツ」と絶賛され一躍トップブランドの仲間入りを果たしたのである。

1920年代のアメリカは大戦による戦争景気、つまり重工業への投資や、ヨーロッパの疲弊による競争力の向上と輸出の増加、モータリゼーションのスタートによる躍進など「永遠の繁栄」と呼ばれる好景気を手にした。この時期に重工業を始めとする作業の現場で広く求められたのがワークブーツである。

1960年代に「最も理想的なハイキング・ブーツ」と呼ばれたマウンテントレイルの後継モデルがこの「マウンテンライト」。1990年代の日本で大流行したアウトドア・ファッションの足元の定番として名品「ダナーライト」と共に、DANNERというブランド名はこのブーツと共に有名になった。


1980年に発売された世界初のゴアテックス使用ブーツ「ダナーライト」。ソールの交換が可能なダナー式ステッチダウン製法は、愛用のシューズと末永く付き合える魅力がある。ビブラム・ソールは、実はこれもアメリカで最初に採用したクライミングシューズを作ったのがダナー。1952年のことだ。

重量と通気性という、おそらくアウトドア用のブーツやトレッキングシューズを愛用する多くの人が直面する問題を初めて解決したダナーライト。同社の代表作であるこの靴はフルグレイン防水レザーと1000デニールのコーデュラナイロンをアッパーに使用し、防水・透湿性能に優れたゴアテックスをライナーに採用した画期的な機能性のブーツである。素材やデザインがマイナーチェンジされたダナーライトⅡも現行商品として展開されている。アウトドアシューズとしてのさまざまな機能を“新素材の採用”という発想でクリアした姿勢はその後のアウトドア用品の世界における技術開発に大きな影響を及ぼしたことを忘れてはならない。まさに、歴史に残る名靴といえるだろう。

革、合皮、あるいはゴムやコットンといったシューズ素材に、ゴアテックスという新素材を導入した記念碑的モデルが「ダナーライト」である。シューズの通気性と軽量化という2つの難題を、アウトドア用のシューズで初めてクリアしたことは特筆すべき事項。


写真左の人物が、創業者一族のビル・ダナー。創業から50年目の1983年、ビル・ダナーは創業以来の経営方針の継承を条件に同社をエリック・マークに譲渡。その後、アメリカ第一のラバーシューズのメーカーであるラクロス社と合併。現CEOはジョー・シュナイダーとなった。

ダナーを代表する名作シューズ「ダナーライト」。
ビブラム・クレッターリフトソールを採用。

ダナーのもうひとつの名品「マウンテンライト」。
こちらもビブラム・クレッターリフトソール採用。

履きやすさとデザイン性を追及したモデル「VERTIGO NATURAL RUBBER/バーティゴナチュラルラバー」。
ナチュラルクレープソールを採用。

ショートブーツの「マウンテンリッジ・ミッド・クリスティー」。
ビブラム・クリスティソール採用。カラーは6色展開。
(写真のモデルはダークブラウン)

デザイン性の高いエンジニア「RIVERTON TWEED/リバートンツイード」。
アッパーはヌバックレザーとハリスツイードのコンビ。

ナチュラルクレープソールを採用した「DEPOE/デポエ」。
アッパーはフルグレイン、ライニングはナチュラル・レザー使用。


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2011年11月16日号


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土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。