Re:STYLING MONO #23 「オールデン」が生み出した、美しく艶やかな名靴たち

#23 オールデン


紳士靴の世界で名靴と称されるブランドは英国製やイタリア製に多いという印象が強いが、実はアメリカ製にもこの世界で“名靴”の称号を欲しいままにする靴がある。それが『オールデン』である。オールデンの靴を称する上で、誰もが最初に思い浮かべるのは「コードバン」であろう。そう、馬のお尻の部分にある最上級の革の部分を指す素材の名である。
この限られた量しか生産されない丈夫で上質な革の最大の特徴は“艶”だ。専用のクリームで磨き込んでいくと革製品を所有することの喜びを心の底から愉しむことが出来るのである。ただし、繊細なこの革は使い込むことで美しく育て上げていかなければならない。上手にコードバンを履きこなしているのか男が問われる靴でもあるのだ。

オールデン・オリジナルの木型は1930年代に製作され、現代に至るまでそのスタイルはほとんど変わっていない。オーソぺディックシューズ・デザインの分野を開拓し、快適で履き心地のいい、歩くことに重点が置かれた作り。不変のシェイプに魅了されてしまう。


コードバンの伝統的な製革技巧はドイツ系移民によってニューヨーク市の革工街に持ち込まれたのが始まりとされている。非常に特殊なこの技巧は、その後のアメリカの発展を支えた大量生産とは真逆の、職人的製法であったために、現代まで少数の革なめし工によってのみ大切に受け継がれてきた技巧なのである。

この昔ながらのなめし方法と仕上げは、純天然植物タンニンでなめし、手作業で着色、つや出し、仕上げが行われる。製革に適しているのは農作業用の馬だが、今日ではそのような大きなバッツのとれる馬は減っており、コードバンは希少な素材になっている。純粋なこの革なめし技巧はまさに「幻の技」。アメリカ国内でも最高級のコードバン製革を行う職人は数名を残すだけとなっている。オールデンのコードバン(シェルコードバン)は全作業を完了するまでに約5ヶ月を要する。その希少な素材を丹念に縫い上げる同社の職人たちによって、いつまでも履き続けることができる名品が生まれるのだ。

同社のモデルで有名なのはコードバンチャッカブーツの『1339』。スーツスタイルからカジュアルまで幅広いファッションに似合うシューズとしていまも人気のアイテムである。いつまでも大切に履き続けるためのアフターケアが整っている点も評価される。

オールデンの定番モデルに採用されている木型はモディファイドラスト、バリーラスト、ミリタリーラスト、バンラストの4種。特にハンディキャッパー用の靴のデザインから生まれたコンフォートラストであるモディファイドラストは有名。木型の歴史はオールデンの矜持なのだ。

コードバンチャッカブーツ『#1339』
グッドイヤーウェルト製法による名作シューズ。メジャープロセスは150~180工程、コードバンに関しては200工程を経て完成する。オールデンのシューズはアッパー素材に世界中から集められた最高品質のベジタンまたはアニリンカーフを採用。ライニング~中底~本底~ウェルトに至るまで純天然植物タンニン仕上げ。コードバンはシカゴのホーウィンレザー製。

オールデンの靴を評するのに忘れてはならないのは、シャンクの優秀さ。特にオーソぺディックシューズからの影響を受けた幅広のシャンクは、履き心地のよさを最上級のものにしてくれる。また、ライニングとアッパーの間のすべての部分には“ダブラ”と呼ばれる素材が入っており、これが型くずれを防ぎ、皮革の強度を助ける役割を果たしている。特殊な製造工程の中底、本底のクッション性は絶品、という評価が寄せられる。

通称ナンバー8と呼ばれるバーガンディはオールデンのコードバンの顔、ともいうべき存在。この微妙な色合いはまさにオールデンだけのものといえる。長年履き込むことで、育てていく楽しみを味わえる靴なのである。


ールデン・シューカンパニーがマサチューセッツ州ミドルボロウに設立されたのは1884年のこと。創業者はチャールズ・H・オールデン。初期はカスタムメイドブーツや品質の高い紳士靴を受注生産していた。
チャールズが退職する1931年頃に提携したTARLOW家がその後、同社の経営を引き継ぎ、現代に至っている。最高品質の紳士用トラディショナルシューズと共に同社を有名にしたのは、問題のある足でも適宜にフィットし、均整回復を可能にする整形法のデザイン分野を開拓したこと。いわゆるハンディキャッパー用の靴という、高度な専門分野の先駆者として知られているのだ。

この研究は本来的な目的以外に、トラディショナルシューズそのものの履き心地を良くすることにも貢献し、オールデンの名を不動のものにした技術開発でもあった。フィッティングの基本である木型とすべてのパーツに天然素材を使用するこだわりは、ミドルボロウでの創業当時から変わらない。

ハンガリー出身の俳優であり、映画黎明期のハリウッドで名脇役として名を馳せたポール・ルーカスが発注したタッセルが、オールデンによって独創的なデザインを施されて、革紐やタッセルが飾りとして付いているスリッポンが生まれたといわれている。

このタッセルモカシンの美しい完成度を見よ! 1950年代にオールデンが作り上げたシューズはやがて、有名靴店によってアメリカ全土の伝統的な洋服店に紹介されアメリカンスタイルを作り上げた。

トラディショナルな革の靴底。中底と本底の間には天然コルクがびっしりと塗り詰められ、特殊な液をかけてクッション性を高め、長期間の使用でも疲れにくい構造になっている。

その履き心地の良さと均整の取れた美しさ。世に知られるようになってから60年の歳月を経たタッセルモカシンはやはりオールデンのデザインを超えるものはないと断言できるだろう。一足はシューズコレクションに加えておきたい、名品中の名品である。コードバンタッセルモカシン『#563』

オールデンによって基本デザインがなされたタッセルモカシンは、1957年にブルックス・ブラザーズがタッセルローファーをコレクションの中に加えた。オールデンは特別にブルックス・ブラザーズのために、靴のかかと部分に装飾品をつけたタッセルローファーを製造。それはブルックス・ブラザーズだけの特別限定品として今日まで残っている。アメリカンスタイルの基本のひとつがオールデンによって生み出されたのだ。


1884年、マサチューセッツ州ミドルボロウで設立された。1892年に同州のノースアビントン、1931年に同州ブロックトンと移転を行い、1970年に創業の地であるミドルボロウに近代的工場を建設。現在に至っている。

コードバンタンカーブーツ『#4540H』バーガンディ
コードバンの醍醐味を最大限味わうにはこのモデル。

コードバンVチップ『#54321』バーガンディ
オールデン・フラットバランスシステムの履き心地。

コードバンプレーントゥ『#9901』ブラック
最もオーソドックスでスタイリッシュな一足。

クロムエクセル6インチPトゥブーツ『#45960H』
クレープソールで軽快な履き心地を楽しめるモデル。

コードバンローファー『#99162』バーガンディ
クラシックなアメリカンスタイルの名靴。


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2012年1月2日/16日合併号


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土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。