Re:STYLING MONO #27 スタンダードなデザインながら当時のディテールと現代のトレンドを持つ「ファイブブラザー」

#27 ファイブブラザー


考えるに、アメリカの西部開拓の歴史は自然との闘いであった。先住民以外のヨーロッパ人にとっては未知の土地を開拓していったわけで、基本は森林や荒野に住まいや農地を作り上げるという国作りだった。そのときのウエアは、現代に続くアウトドア・ウエアの原型となるものでそうした衣料品の機能性からワークウエアも進化していったはずだ。シャツがボロになったから新しいものを買いに行く、という現代の流通など存在するはずも無かったので、とにかく丈夫であることが、生活用品全般に求められる最大の条件であった。

そうした開拓者たちの要求に応える機能的で丈夫なウエアが、その後数多く誕生したが、その労働着の歴史はそのままアメカジの歴史でもある。現代にも伝えられるオールド・アメカジのひとつとして知られる『ファイブブラザー』もまた、歴史の証人としてカウントされるブランドだ。

ファイブブラザーが創業した1890年という時代は、アメリカでは工業化と都市化が急速に進んだ時代。そんな世の中のワークウエアは広大な農地だけではなく、都市の工場でも着用できるデザインが次第に求められるようになった。


1890年にニューヨークで始まった『ファイブブラザー』は創業当初からワークウエアやアウトドア・ウエアを手がけており、21世紀のいまも100年以上の歴史を持つ老舗ブランドとして知られている。その着心地の良さと耐久性の高さで当時の労働者に爆発的な人気となり、瞬く間にアメリカ全土へと広がっていった。特にコットン100%のヘビーフランネルシャツには定評があり、アメリカ中のワーカーたちに愛用されてきた。現在ではアメリカンカジュアルの総合ファッションブランドとして知られ、当然タフな作業着から、街着としてのテイストを持つウエアに変化していったわけだが、随所に創業当時からの作りをファッション・アイコンとして残しているところに好感が持てる。

たとえばこのチェックのワークシャツには3ラインで縫製された頑丈なステッチや当時、生産効率を上げるために採用されていた補強用の空環(ガラカン)、マチも残されている。トリプル・ステッチや空環はワークシャツではお約束、というのが最近のアメカジの風潮になった観があるが後付のディテールではなく、創業当時からの製造方法をきちんと再現しているというデザインは、本物としての意味性があるのだ。

ワークウエアだけではなくアウトドアやウエスタンなどアメリカンカジュアルのカルチャー全般をファッションのテイストとして提案する『ファイブブラザー』。単なるリメイクでは終わらないオリジナルブランドの強みが人気である。

実にオーソドックスなバランスのいいデザインのワークシャツ。古典的なチェックはアウターとの合わせや、ボトムとのコーディネートに最強のアイテム。

アメリカン・ワークウエアは
必要から生まれた衣料


19世紀後半から20世紀初頭にかけてアメリカの農業や農業労働者の人口は約2/3に減少したといわれている。多くが工業生産品の増加による工業労働へ移行したためだ。農業・工業の違いはあれ、そこで働く労働者たちは、農地だけではなく都市部にも進出するようになり気候や作業現場の状態によって、さまざまな機能やデザインが施されたワークウエアを着るようになっていった。労働環境の変化である。これは職人的な技能を持った労働者の代わりに、機械が安定した生産能力を発揮し、それまで特化されていた古い様式の職人の技能が、作業者や技師に置き換えられるようになったからである。

この時代で面白いのは、それまで歴代大統領はすべて農業社会から出てきた人物が就任していたが、この19世紀後半から20世紀初頭には実業界など都市部を代表する人物がほとんどで、アメリカの産業におけるパワーバランスに変化が生じている。そうした社会的な変革と共にワークウエアも都市の洗練された影響を受けたのだ、と想像するのは決して牽強付会な説ではないだろう。

『ファイブブラザー』はそんな時代にニューヨークで誕生したワークウエアのブランドのひとつである。時代は移り、労働者のために作られたウエアはいつしかストリートにおける重要なファッションとしてすっかり定着した。誕生時に必要とされた機能や作りが、ストリートで重要な価値判断の基準になっていることに、文化的な興味は尽きない。

シアーズローバックが通信販売を始めたのは19世紀末。個人商店や行商では価格設定がまばらであったので、定価でカタログから選べるスタイルは瞬く間に全米に広まった。20世紀初頭のカタログを見ていくとワークウエアの扱い点数は非常に多い。

チェックのワークシャツにダックカラーのパンツの王道組み合わせ。シューズのセレクトに夢が広がるカラーバランスである。パンツはペインターパンツで着まわしの利くスタイルである。

シャンブレーのワークシャツとT/Cワークパンツの組み合わせ。デニムよりもカラーのバランスが落ち着いて見える。年齢を問わず楽しめるコーディネートといえるだろう。


スタンダードなデザインながら当時のディテールと現代のトレンドを持つファイブブラザー。1890年にアメリカNYで創業。いまも多くのアメカジ・ファンから愛され続けている老舗ブランド。

チェック・ワークシャツ
オーソドックスで着回しの利く
万能ワークシャツ

シャンブレー・ワークシャツ
洗いざらしのシャンブレーは
最高の着心地の良さを実感できる

ダックペインターパンツ(左)
T/Cワークパンツ(右)

T/Cワークシャツ
レッドストライプの生地は
ヘビーなウエアのインナーにいい。

T/Cワークシャツ
レッドストライプの生地は
ヘビーなウエアのインナーにいい。

シャンブレー・ウエスタンシャツ
Wフラップポケットやボタンなど
ウエスタンシャツの正統といえるデザイン


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2012年03月16日号


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土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。