Re:STYLING MONO #28 世界の誰もが認めるピアノの最高峰「スタインウェイ」

#28 スタインウェイ&サンズ


海外で開催される世界的なピアノコンクール、あるいはピアノコンサートなど開催者や演奏家が選ぶ、ステージ上のピアノの多くは『スタインウェイ』が使われる。この選択はもう、サッカー選手がアディダスを選んだり、バスケットボールのプレイヤーがナイキのシューズを選ぶのと同じように、正統かつ間違いのない音楽界の常識だ。一流の音楽家が一流の楽器を選ぶのには大きな理由がある。それは一流の楽器が奏でる音は本物の音がするからである。ここで言う本物の音の定義はコンサート会場やCDなどの音源に使われているということ。世界の誰もが認めるピアノの最高峰スタインウェイ。この西洋文化が生んだ奇跡の楽器の魅力を探ってみよう。

“一台一台がオリジナルの芸術品”と称されるスタインウェイのピアノ。その理由は、このテクノロジー全盛の時代においても、いまだ工程の80%がマイスターたちの手によって組み立てられているから。まさに名品の佇まいなのである。

スタインウェイ社の創業者であるヘンリー・E・スタインウェイだが、その名前はドイツからアメリカへと移民した1851年に改名したもので、ハインリッヒ・エンゲルハート・スタインヴェグというのが誕生時の名前である。NYでの生活に溶け込むため、改名までした彼はその後、1853年に「スタインウェイ&サンズ」を設立した。そのエンゲルハート青年は若干20歳で初の弦鳴楽器を製作し、28歳になった1825年には楽器修理の工房を開いている。1836年には自宅キッチンで自作のピアノを作り上げた。

この通称、“キッチンピアノ”と呼ばれる、「第1号」のスタインウェイピアノには、響板の駒に継ぎ目のない木材を用いるなど、当時としては先駆的な技術が取り入れられていた。彼は、早熟の職人だったのである。その創業者の情熱とクラフトマンシップは、いまなおピアノ製作の原点として脈々と受け継がれている。より良いビジネス環境を求めてアメリカに移住したスタインウェイ一家は、新天地で近代ピアノ製造における基礎を築きまたたく間に名声を獲得した。可能な限り最高のピアノを作り上げるという情熱は、ゆるぎない品質を追求し、スタインウェイの響きを愛する人々に「イニミタブルトーン(比類なき響き)」と称される名品を生み出していったのである。

鋳鉄製のフレームにブランドネームが。この堅牢なフレームは約20トンもの張力が弦によってかかるピアノ全体の堅牢性を安定させる、非常に重要なパーツ。ピアノの響き自体にかかわってくるものだけにスタインウェイ社では独自の鋳造工場を保有しているほど。

創業以来の歴史の中でスタインウェイ社が取得したピアノ製造の特許件数は実に125以上にものぼる。そのことはすなわち、現代のピアノ製造の規範を同社が作り上げたということ。1857年に最初の特許を取得してから、現代ピアノの歴史が始まったのである。

全ピアノ製造工程の8割を担うマイスターたちの作業は緻密で厳格。継ぎ目のない板を曲げて成形したリムは同社によって考案された革新的な技術であり厚みに変化を持たせた響板や、すべて手作業で削がれる駒(ブリッジ)などなど、あらゆる面で職人の息吹を感じる作りである。

ああ、あの名曲「イマジン」もスタインウェイの響きから…


 ソロ活動に入ってからのジョン・レノンは、ビートルズ時代の内省的な歌詞、しばしば複雑なスタイルに傾倒した曲調よりも、シンプルなロック・スタイルへと向かっていった。もちろん、独特の繊細で美しいメロディーを捨てたわけではなく、それらはさらに熟成されて数々の名曲を生み出していく。特徴的なのは演奏する楽器にピアノが増えたことで、もちろんビートルズ時代にもピアノ演奏(オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダのイントロなど)がなかったわけではないが、ポール・マッカートニーの情感たっぷりのピアノとはまた違った、シンプルで美しいピアノ演奏がソロ活動のジョン・レノンのイメージを作っていった。その代表的な曲が1971年発表の「イマジン」である。
 ご存知のように「イマジン」は全米、全英、そして日本のヒットチャートでも1位となった大ヒットアルバムであり、タイトル曲である。ヘッドホンを装着して、白いスタインウェイ・ピアノを弾くジョンの姿は、圧倒的なドライブ感と熱気によって支えられていた当時のロック・ミュージック・シーンに、静謐さとクールさで大きなインパクトを与えた。

 ジョンは名曲「イマジン」をスタインウェイのピアノで作曲した。その歴史的な名曲へのオマージュとして、2010年にジョン・レノン生誕70周年を記念して、限定モデル『イマジン・シリーズ』が発表された。その原型となったのは、1971年にジョンがオノ・ヨーコ夫人の誕生日に贈ったスタインウェイの白いグランドピアノである。この『イマジン・シリーズ』は音楽史におけるジョン・レノンの伝説に捧げられたピアノで、その音楽への情熱やクリエイティビティ、そしていくつかのメッセージがピアノ本体に刻まれている。素晴らしいのは「イマジン」の楽譜や歌詞の一説。たとえば鋳鉄製のフレームには「イマジン」の4小節の譜面が描かれている。鍵盤蓋の高音側にはジョンのサイン、天屋根を開くと側板の内側に「YOU MAY SAY I’M A DREAM
ER」の文字が。もちろんこれが「イマジン」の歌詞の一部であることは、この曲をご存知の方であれば判るはず。

さらに、この限定モデルのピアノが世界で唯一の存在である証として、それぞれのピアノにはシリーズ名とシリアルナンバーが入っている。これは日本滞在時に作ったとされるレノン自作の落款「如雲玲音」(雲の如く、透き通るような音)の文字と共にメダリオンに刻印されており、リミテッド・エディションとしての存在感を際立たせている。譜面台には、ジョン自身がメッセージを込めたイラストが描かれている。


 世の中には限定品と呼ばれるものは数多くある。また20世紀という時代を彩ったアーティストやクリエイターへのオマージュとして作られた製品も少なくない。しかし、このスタインウェイの「イマジン・シリーズ」ほどの圧倒的な完成度は他に比較できるものがない。まさに限定中の限定。これだけのプロジェクトを創造できるのは、世界に冠たるピアノメーカーだからこそ、ではないだろうか。

 ちなみに「イマジン・シリーズ」は、スタインウェイ&サンズ社のニューヨークとハンブルク両工場での限定生産。グランドピアノはM-170からD-274までの6モデル。アップライトピアノはK-132モデルのみ。

スタインウェイ社によると、現在、コンサートピアニストの10人に9人が同社のピアノをステージで演奏。あらゆる音楽ジャンルの1600人を超える「スタインウェイ・アーティスト」たちが、自らの意思によってスタインウェイピアノを選択しているのだ。

アップライトピアノ(K-132モデル)。
譜面台イメージは5点から好きなものを選べる(限定数)。

高音部の鍵盤の上に記されたサイン。ピアノを弾くたびに、敬愛するジョンのサインが見守ってくれることになる。ファンにとってはたまらない魅力。

上のイラストは響板に描かれたジョン自作のイラスト。ピアノの心と呼ばれる響板は、ピアノ自体の豊かな響きが精巧に形作られたこの部品が振動することによって生まれるもの。まるでジョンの魂が共鳴してるかのようだ。


「イマジン・シリーズ」グランドピアノ(6モデル)
価格1150万円~

「D-274」モデル
(黒色艶出塗装仕上)
価格2026万5000円

「アクアマリン」
厳選された美しい銘木で作られる
クラウンジュエル・シリーズ。
最高級のアイス・バーチ材を使用した逸品。
価格(アップライト)556万5000円~

こちらもクラウンジュエル・シリーズ「トパーズ」
最高級のポメラ・マホガニーを
採用したエレガントな一台。
価格(グランドピアノ)1248万4500円~


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2012年04月16日号


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土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。