Re:STYLING MONO #30 照明器具の存在感を愛でたいならば「アングルポイズ」を選ぶべき

#30 アングルポイズ


島国である英国は日本と同じように、資源に乏しい国である。資源が無ければそれを利用した製造技術を発展させる方向で、国家としての基盤を築いていった。世界のどこよりも早く18世紀に蒸気機関を開発し、工場制機械工業の発達、いわゆる産業革命を興した。ダ・ヴィンチの運動力学、ガリレオの弾性力学など、産業革命以前からヨーロッパではバネの研究が盛んであり、その仕組みをスプリングとして効果的に利用したのが18世紀末に誕生した自動車だ。以降、スプリングは工業製品に欠かせないパーツとなり、その構造は“知恵”を体現したものとして扱われた。1932年登場のデスクランプ『アングルポイズ』もまた、スプリング構造の傑作品だった。

小説家ロアルド・ダールの博物館に設置するために特注された巨大な照明器具ジャイアント・アングルポイズは当初3台が製作され、その中の1台を映画監督のティム・バートンがオークションで落札。大変な話題となりその後ジャイアントは定番商品に。


スプリング式のデスクスタンドには郷愁に似た思いを抱くことがある。アンティークのデスクランプと較べて明らかにスプリング式は科学的な構造をしているし、古さという点では装飾されたシェードや手作り感の漂う木工が施されたアンティークランプのほうが歴史を感じさせてくれるが、この『オリジナル1227』のレトロモダンな佇まいを見るとより身近な20世紀の懐かしさがこみ上げてくるのである。このデスクランプをデザインしたのはジョージ・カワーダイン。19世紀末創業で、自動車や自転車用サスペンションを製造していたテリー社のスプリングを用いて重量バランスの技術的な理論を考案したカワーダインは、それを基に最初のアングルポイズ・ランプを誕生させた。この初期モデルには4本のスプリングが採用されていたが工業用照明のイメージが強かったのでよりシンプルでエレガントなスタイルの3本スプリングタイプのデザインを1935年に発表。これが名機『1227』である。完成されたアイデアとスタイリングでその後に登場したデスクランプのデザインに大きな影響を与えた。

自動車工業の発達があったからこそその技術開発の副産物として生まれたといってもいいアングルポイズのデスクランプ。オリジナルランプをデザインしたジョージ・カワーダインは自動車会社のデザイナーであった。

ANGLEPOISEオリジナル1227写真のモデルはアイボリークリーム。その他、シグナルレッド、コバルトブルー、ジェットブラックの4色に、クローム仕上げのタイプが用意されている。インテリアの雰囲気に合わせて選びたい。

世界クラスの技術で出来たスプリングから生まれた照明


 アングルポイズの歴史は、1885年に設立されたハーバート・テリー・アンド・サンズ社から始まる。17世紀後半に発表された「ばねの力」とそれを基に確立された弾性理論、いわゆるフックの法則はその後の英国における産業革命技術に大きな影響を与えた。バネの理論で作られたスプリング技術は自動車の発達にも寄与し、日の出の勢いで伸張する自動車産業の中でサスペンション・システムを支えるスプリング専門の製造業者も数多く誕生した。ハーバート・テリーが息子3人と共に設立した会社も、そうしたスプリングを製造する会社であった。

20世紀に入ると、彼らのテリーブランドは自動車のサスペンションパーツや自転車のサドルなどで順調にセールスを伸ばしていた。ジョージ・カワーダインが考案した、スプリングの特性を生かした新しいランプの仕組みは、このテリーブランドのスプリングを用いた重量バランスの技術的理論が基になっている。カワーダインが考案したランプは当初、サスペンション会社を経営していた彼の会社の、工場労働者のための照明器具として想定されていた。その初期モデル「1209」には4本のスプリングが採用されていたが、当然のごとく工場のイメージが強かったため、テリー社のデザイナーと共に一般家庭用として洗練された3本スプリング、3本アームの『オリジナル1227』をデザインしたのである。この革命的なデスクランプ「オリジナル1227」は1930年代になると、ノルウェーで織物機械用の照明に採用され、第二次世界大戦が始まると夜間空襲を避けるための理想的ランプとして活躍し、軍事オペレーションのテーブル用としても使われるようになる。戦後は品薄になったスチールの代替品としてアームをアルミニウムに変更。「モデル50」として発売された。

ヨーロッパでの成功を踏まえてLUXO社によるアメリカ市場への導入が始まり、アングルポイズの照明器具は大成功を収める。1979年にはザ・ソフトボーイズの楽曲で「I want to be an Anglepoise lamp」と唄われたほど、世界で知られるブランドとなった。2003年にはケネス・グランジのデザインによるシリーズがスタート。2003年の「タイプ3」、2004年の「タイプ75」、2008年の「タイプ1228」などで注目を集めた。

アングルポイズの発売元であったテリー社は当初「Equipoise」(均衡)というそのものズバリのネーミングで商品登録を申請したが、残念ながらすでにその名は申請済みであり、「ANGLEPOISE」という造語を採用することにしたのだという。

作家ロアルド・ダールが執筆室で愛用していたANGLEPOISEの3倍サイズの「Giant1227」の広告写真。

名品オリジナル1227復刻と英国を代表する10のデザイン
2009年に発売されたロイヤルメールの記念切手「英国を代表する10のデザイン」に、コンコルドやミニスカート、2階建てロンドンバス、ミニなどと共にオリジナル1227が選ばれた。同年オリジナル1227が復刻発売されて話題に。

ジョージ・カワーダイン
GEORGE CARWARDINE


自動車会社のエンジニアとして活動後、サスペンション・システムを開発する会社を設立。スプリングの特性を生かした新しいランプ「アングルポイズ」のデザインで知られる英国人デザイナー。1948年61歳で没。

ケネス・グランジ
KENNETH GRANGE


ロンドンのデザインスタジオ「ペンタグラム」の主宰デザイナーを経て独立。数多くの英国デザイン賞を受賞。ロンドンタクシーや高速列車インターシティ125、英国のパーキングメーター、英国の名門B&Wのオーディオなどが有名。

創業者のハーバート・テリー。

1885年創業のハーバート・テリー社。3人の息子と共にスプリングを製造する会社として設立。息子たちはそれぞれ財務、セールス、製造の役割を担っていた。

照明器具の存在感を愛でたいならば
アングルポイズを選ぶべき


「Type75 mini」
ポップでキュートなカラーリングの新アイテム。レギュラータイプよりもコンパクトな設計で、省スペース。価格(全6色展開)

「Original 1227」
1934年にジョージ・カワーダインがデザインしたモデルの復刻版。クラシカルなディテールは活かしたまま、電気系統は現代仕様に変更。

「Type 1228 Wall」
2008年にケネス・グランジがデザインした「Type 1228」の壁付けモデル。自在な可動が壁の演出に最適で、カラーも10色展開と豊富。

「Type75」
2004年にケネス・グランジがデザイン。英国でベストセラーとなり映画やTVなどのメディアにも度々登場するスタンダードなモデル。


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2012年5月16日,6月2日合併号


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過去の記事のバックナンバー
#21〜#30まで

●#30 照明器具の存在感を愛でたいならば「アングルポイズ」を選ぶべき

●#29 70年代以降のビーチカルチャーをリードした「クイックシルバー」

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●#27 スタンダードなデザインながら当時のディテールと現代のトレンドを持つ「ファイブブラザー」

●#26 足首を保護する斬新なデザインで歴史に残る傑作シューズとなった「コンバース」のキャンバス オールスター

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●#23 「オールデン」が生み出した、美しく艶やかな名靴たち

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#11〜#20まで

●#20 最も理想的なハイキング・ブーツと評され一躍注目を集めた名品「ダナー・ブーツ」

●#19 戦後の日本で「天童木工」が生み出した、美しく洗練された名作椅子

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●#17 アメカジ不朽の定番ウェア「チャンピオン」

●#16 “鉄馬”と呼ばれたバイク、ハーレーダビッドソン

●#15 ビクトリノックスが生み出した世界一コンパクトな道具箱

●#14 世界最高品質と評されるワークブーツ「ウェスコ」

●#13 歴史的な衣料品としての道を歩み始めたアロハシャツ

●#12 都会的で洗練された味覚のバーボンウィスキーI.W.ハーパー

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●#0 Re:STYLING MONO始動!


土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。