Re:STYLING MONO #14 世界最高品質と評されるワークブーツ「ウェスコ」

#14 ウェスコ


アメリカのいくつかのブランド史を調べていくと、創業者の視点にちょっとした共通項があることが判る。たとえばゴールドラッシュに沸いたカリフォルニアやコロラドで、金を掘り当てて大金持ちになったような人が、歴史に残るような偉業やブランドを設立した話は耳にしないが、金鉱に殺到する人を見て、その人たち相手に商売をして成功した人は少なくない。

リーバイ・ストラウスやクアーズの創業者アドルフ・クアーズがそのいい例だ。金を見るのか、金に群がる人を見るのかで、人の人生は大きく変わっていく。一足のブーツを作るのに大量生産という手法で大きな利益を取るのか、それとも丁寧な手作りの姿勢を守るのか、そんな創業者の他とは異なる視点の置き方にちょっとした共通項が見出せるのだ。ウエスコという世界最高品質のワークブーツにもまた、同じような視点を持つ創業者の血が流れていた。

西洋の苗字にはその職業が由来になったものをよく見かける。たとえばスミスは鍛冶屋、テイラーは洋服屋、シューマンは靴屋など。そしてウエスコの創業者はシューメイカーという、その名の通りの姓を持つ男であった。

若者は西へと旅立ち、広大な森で働く男たちの足元を見つめた


 ヨーロッパからの移民の子であったジョン・ヘンリー・シューメイカーは、16歳のときに靴工場で働いていた。そこで取得したブーツ・メイキングの技術を活かして1903年に西部へと向かう。現オレゴン州ポートランドで靴製造の仕事を見つけ、1918年に独立。『ウエスコ』ブランドの歴史はそこから始まる。作っていたのはロッガー・ブーツ。

アメリカの産業全体がフォード式の大量生産で飛躍的な伸張を遂げ、世界に向けて米国産製品が発信されていた同時期に、シューメイカーは手作りの堅牢なブーツを作り続けていた。産業の礎となる林業に従事する人々の仕事の現場は苛酷で危険に満ち溢れており、彼らの足元を安全に固めるためのブーツは、手作りの確実な製品でないと信頼されなかったからである。

だが、1929年10月の大恐慌の影響がウエスコに容赦なく降りかかる。この苦しい時代を家族経営で乗り切ったシューメイカー一族の商売は、やがて大戦の勃発でブーツの需要が急増する。特に造船要員用エンジニア・ブーツのオーダーが急増した。それまで日産8足程度の生産量だった彼らの会社は事業を拡大し、戦後になっても変わらぬ目まぐるしさだった。同時に新たなサービスとして“ブーツ・リビルド”を開始。頑丈な作りのブーツだからこそ生まれた視点ではなかろうか。

デザイン性の良さとスタイルの汎用性の広さで最も人気のあるワークブーツ「JOBMASTER」シリーズ。定番モデルの他にこの写真のようなカスタムも充実しているのでチェック!

ウエスコのブーツに採用されるソールは主にビブラム・ソールとこのARMORTRED CUSHION/トラクションソール。トラクションソールは見た目が柔らかくなるのでタウンユースに適したデザイン。ただし、オイルレジストなど機能は完璧である。

ミッドソールからヴァンプにかけての丁寧な作りに注目。一足のブーツに費やされる作業はハンドクラフトによる155もの工程。他のメーカーに先駆けて採用したスティールシャンクは最高の信頼性と履き心地を実現した。

ウエスコ・ブーツ最大の特徴であるカスタム・フィット・オーダーシステムは十数か所にも及ぶ採寸や履き心地などをチェックして自分だけの一足を完成させる。同時にパーツごとのレザーのカラーや糸の色、レースの色なども好みで選ぶことができる。


 ウエスコのブーツ・リビルドがスタートしたのは戦後まもなくのことだった。大量生産・大量消費の社会的風潮に背を向けるようなこの「有効利用」のコンセプトは、履き古してはいるけれど愛着のあるブーツが甦ることを喜ぶ、ウエスコの愛用者たちに大きく支持された。単純なリペアではなくリビルドというスタンスは、以降の同社の製品に決定的な信頼感をもたらすことになる。

 1952年にはスパイク・パンチマシーンを独自に開発。ジョン・シューメイカーによって開発されたこの機械は、それまでヒールとソールに職人が力を入れてハンマーで打ち付けていた102個のスパイクを、機械で行えるようにした発明。ブーツ製造の上で時間がかかっていたこの作業が機械化されたことで、生産力を伸ばすことが出来るようになった。同時に品質が安定したことは言うまでもない。その後のロッガー・ブーツのプロダクションはこの発案以降、画期的に変化することになる。

 いまもウエスコの本社には、近隣のロッガーたちが立ち寄ってブーツの修理を依頼していく光景が見られるという。また「ウエスコを履いていたおかけで大きなケガをしないで済んだ」といった内容のお礼状が世界中から届くそうだ。スパイクのパンチマシーンなど、一部機械化された部分もあるが、それでもハンドクラフトの工程は155にも及ぶという。靴に足を合わせるのではなく、足に靴を合わせるというこの単純なことが、実は世の中の多くのワークブーツでは実践されていない。カスタム・フィット・オーダーシステムという販売方法を頑なに守ることがブランドのアイデンティティ。タフな環境の中で仕事に従事する人々の足元を守るためには、決して譲れない同社のスタイルなのだ。それが世界最高のブーツと呼ばれる所以である。

世界最高のモーターサイクル・ブーツと評価される「BOSS」は同時に、現代のファッション・ブーツとしても人気を博す。カジュアルスタイルには欠かすことの出来ないアイコンともいえる。

頑丈なダブル・ステッチ、最高級のレザー、そして美しいシルエット。型崩れを防ぎながらも土踏まずを保護。それでいて、足への負担を軽減するスティールシャンクの採用で丈夫さと履き心地の良さを実現。これがウエスコを履いた人が夢中になってしまう履き心地を生む。

黒いレザーとニッケル・バックルの絶妙なコントラストはファッションにおける足元のスタイリングの重要性を改めて教えてくれるデザイン。これがファッションを意図したデザインではなく機能の延長線上にあるデザインであるところを評価したい。

ビブラム・ソールの安心感はこのブーツを履いた人にしか実感できない。ヒールベースがレザーであることが確認できる。


創業者のジョン・ヘンリー・シューメイカーと1920~30年代のアメリカの街並み。WEST COASTSHOE COMPANYの看板が見える。


※初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2011年8月2日号


すべてのRe:STYLING MONOの記事一覧はこちらから


過去の記事のバックナンバー
#21〜#30まで

●#30 照明器具の存在感を愛でたいならば「アングルポイズ」を選ぶべき

●#29 70年代以降のビーチカルチャーをリードした「クイックシルバー」

●#28 世界の誰もが認めるピアノの最高峰「スタインウェイ」

●#27 スタンダードなデザインながら当時のディテールと現代のトレンドを持つ「ファイブブラザー」

●#26 足首を保護する斬新なデザインで歴史に残る傑作シューズとなった「コンバース」のキャンバス オールスター

●#25 イタリア家具の歴史を変えた 「アルフレックス」

●#24 最高級英国綿製品の文化は 「ジョン スメドレー」の歴史

●#23 「オールデン」が生み出した、美しく艶やかな名靴たち

●#22 250年を過ぎた今でも進化し続けるビール「ギネス」

●#21 圧倒的なクリエイティビティで憧れのスタイルを表現し続けている「トイズマッコイ」

#11〜#20まで

●#20 最も理想的なハイキング・ブーツと評され一躍注目を集めた名品「ダナー・ブーツ」

●#19 戦後の日本で「天童木工」が生み出した、美しく洗練された名作椅子

●#18 筆記具の世界的な名門ブランド「カランダッシュ」

●#17 アメカジ不朽の定番ウェア「チャンピオン」

●#16 “鉄馬”と呼ばれたバイク、ハーレーダビッドソン

●#15 ビクトリノックスが生み出した世界一コンパクトな道具箱

●#14 世界最高品質と評されるワークブーツ「ウェスコ」

●#13 歴史的な衣料品としての道を歩み始めたアロハシャツ

●#12 都会的で洗練された味覚のバーボンウィスキーI.W.ハーパー

●#11 ボルサリーノは単なる帽子ブランドではなく、イタリアの文化と認識せよ。

#0〜#10まで

● #10 オーディオのダイナミズムと洗練された次世代のデザインを融合させたオーラデザイン

●#9 サングラスの歴史そのものと言える稀有なブランド「レイバン」

●#8 世界最高の双眼鏡、スワロフスキー・オプティック

●#7 ギブソンのギターが“伝説”と称される、書ききれないほどの理由について

●#6 60年以上経ったいまでも、人々はなぜイームズ・チェアに美しさを感じるのか

●#5 大工道具の最高峰「千代鶴是秀」

●#4 米海軍の艦船内で使う実用的な椅子として開発された「エメコNAVY 1006」

●#3 チマヨベストの源流はオルテガ。ここからすべてが始まった。

●#2 100年を超えて途切れ目もなく続いてきたフィルソンの森の仕事着と男たち。

●#1 シューズボックスから始まる一日。名品POSTMANのスタイリングに迫る。

●#0 Re:STYLING MONO始動!


土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。