
フィルムを愛する人たちをリサーチしていて出会ったGAKUさん。なんでも「フィルムを作っているらしい」とのウワサ。一体どういうことなのか? 直撃取材した。
写真・文/鈴木 誠

クリエイター
photos+videos+campaigns
GAKU(岳)さん
28歳。さまざまな海外ブランドの映像・写真制作をメインに手がける。もともと弁護士を目指していたが、クリエイティブ系の仕事が増えたため「弁護士は後からでもできる」と考えクリエイター業に専念して6年。
Instagram @gakuyen
GAKUさんをひと言で表現するのは難しい。使い切りカメラをかたどった名刺には「クリエイティブ」と書かれていた。現在28歳。日本を拠点にしつつ、英語圏のクライアントを相手にクリエイターとして活躍している。メインの仕事は、さまざまなブランドから依頼を受けてプロモーション用やSNS用の映像や写真を制作すること。クライアントはスポーツウエア、テック系、ライフスタイル系など幅広い。
デジタルとフィルム、自由なカメラチョイス
仕事の写真撮影では、デジタルカメラとフィルムカメラの両方を使う。写真用には「キヤノンEOS R5」と「富士フイルムGFX100S Ⅱ」、映像用には「ソニーFX3」を愛用する。


フィルムカメラは、スタイリッシュなチタン外装で人気の高いコンパクトカメラの「コンタックスT3」と、レンズ交換できるAFレンジファインダーカメラの「コンタックスG2」がメイン。ほかにも愛用するカメラはさまざまで、このところ中古カメラ店でも人気が高いオリンパスの「μ-Ⅱ」は、ケースが一体になった流れるようなデザインのコンパクトカメラ。また、中判カメラとしては軽くて持ち歩きやすい点がお気に入りという「富士フイルムGA645W」。これも1990年代のプロダクトらしいスタイリングに味がある。
オフの時間は小さなバッグにフィルムコンパクトカメラ、撮影に出かけるときはGFXとフィルムカメラという組み合わせになることが多いそうだ。バッグは吉田カバンのPORTERが好きで、普段使いしているのは旧製品のワンショルダーバッグ。取材当日も「タンカー」の横型ヘルメットバッグをベースにしたと見られるコラボバッグにカメラとフィルムを詰め込んできてくれた。カメラ機材は自由なチョイスでありながら、バッグは大小ともにPORTERというところに“芯”を感じた。



普段のお出かけスタイルは、PORTERのワンショルダーバッグにカメラ1台を収納。ジッパーポケットの部分に、まるで狙ったかのようにコンパクトカメラが入る点がお気に入り。「もう売ってないバッグですけど、また作ってほしいですね」 Photo/GAKU
フィルムを自分で作るってどういうこと?
取材前にこんな情報が届いていた。「GAKUさんは、自分でフィルムを作っているらしい」。フィルムを作るなんて、何かの聞き間違いだろうか? するとバッグから、綺麗にパッケージングされた35㎜フィルムが出てきた。「フィルムで撮りすぎて、フィルム代が掛かりすぎてしまいました。なので自分でフィルムをプロデュースして大量に作れば1本あたりは安くなると考えました」。
聞けば、比較的安く手に入る映画用のカラーネガフィルムに手を加え、写真屋さんで現像できる写真用フィルムに仕立て直したという。それを大量に作れば市販品を1本ずつ買うより割安になる仕組み。「でも、たくさん作ったので、それはそれでお金を使いました」と笑うGAKUさん。パッケージデザインも自分で手がけ、名前はフィルム感度の400をあえて “399” とユーモラスに記載した。一時は都内のカメラ店に並んでいたこともあるのだとか(現在はオンライン直販のみ)。

その「Odyssey 399」フィルムの写りは、明るさの強い部分に見られる赤い滲み(ハレーション)が特徴的。まさしく映画用フィルムからカーボンのバックコーティング(レムジェット)を取り除いたフィルムといった雰囲気で、GAKUさんもそのテイストが気に入っている。ただ、仕事の撮影では王道的な写りを求めてコダックの「UltraMax 400」を使うという。いわゆる “エモい” とされるフィルムだと色が転んで服の色が正確に出ないなど、仕事には使いづらいとのこと。とはいえ、新しいカメラやフィルムは今でもいろいろ試しているそうだ。
フィルムライフの理想郷を構築中
中学生時代にホルガのトイカメラに触れたことをきっかけに、さまざまなカメラに接してきたGAKUさん。4つのレンズで3D撮影できるニムスローのフィルムカメラを使い、その3D映像を動きのある動画としてSNSに投稿したことも思い出だ。
GAKUさんにフィルムの魅力について尋ねると、「フィルムで撮ったかどうかより、それでどんな新しいことができるかを考えたり、実際にトライするのが楽しいです」と、自然体でありながら力強い回答。つい筆者のような“カメラ人類”は手段にこだわってしまうところがあり大いに反省した。
フィルムで撮影したら、現像とデータ化を馴染みの写真店に依頼。富士フイルムの現像機「フロンティア」と業務用スキャナー「SP3000」の色が好きで、家を建てたらSP3000を手に入れて設置するのが夢だと語る。フィルムが当たり前だった時代より、むしろ今の若い世代のほうがフィルムに対する思いは強そうだ。
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次回はGAKUさんがフィルムコンパクトカメラで撮影した写真をたっぷり紹介します。お楽しみに!