Re:STYLING MONO #34 「オニツカタイガー」のレトロなデザインは時代を超えた名品の証

#34 オニツカタイガー


戦後日本の復興を全世界に知らしめたオリンピック東京大会から4年後の1968年、メキシコシティにおいて第19回目のオリンピックが開催された。走高跳の金メダリストになったアメリカの選手が見せた背面跳びが、スポーツ史に残る出来事として記憶されるが、日本国内ではいまも語り草になる男子サッカー銅メダルや、マラソン君原健二の銀メダルなどそこそこの盛り上がりは見せたが東京オリンピックほどの強烈なドラマは起きなかった大会だった。

しかし、競技とは別のシーンで密かにその歴史を刻み始めたモノがあった。オニツカタイガーが’68 年のオリンピックに向けて’66 年に開発したオニツカタイガーストライプである。オニツカタイガーのスタートはバスケットボールシューズの製造販売から。当時日本には多くのシューズブランドが存在していたが、同社は創業時はスポーツシューズ専用メーカーとしてさまざまなアイデアと技術を生み出した。


“本物の日本”をテーマに2008年からスタートしたオニツカタイガーの『NIPPON MADE』シリーズ。今年のモデルも日本の職人の手により高い技術と感性で生産されている。「MEXICO 66 DELUXE」は一足ごと職人の手による加工が施され機械生産では表現しにくい風合いを実現した。写真のモデル(Dyed type)はマスタード×マスタードのカラーで、「製品染め」と「オイル加工」が施され、独特のヴィンテージ感、クラフト感を演出している魅力的な一足。『NIPPON MADE』シリーズではデザイン+クオリティを高い次元で融合し、スタイリッシュな完成度を実現。日本人がオニツカタイガーを履くことの意味を、改めて教えてくれる存在である。現代の日本が忘れかけている“矜持”がそのシューズ作りを通して伝わってくる。

『MEXICO 66 DELUXE』定番の「MEXICO 66」をベースに作られた。足当たりのいい、柔らかなゴートレザーを使用し、さらに職人の手仕事による加工で細部までこだわりに溢れた仕上がりとなっている。

スエードを使用して丹念に縫いつけられたオニツカタイガーストライプ。ミシン目の細かさがクオリティの高さを表す。

シューズのスタイルを判断するのに大切なポイントは踵からのディテール。クロスで補強されている。

製品染めで着色されているソールにはオニツカタイガーの刻印。「タイガー」の名はアジアで一番強い動物であることに由来。

成型後の後染めであるためソールの色も着色されている。見えない部分の個性というのがいい。

『NIPPON MADE』シリーズのインナーソールに印刷されている同社ロゴマークの下には、堂々と「日本製」の文字が。高度経済成長期に誕生し、世界を席巻したジャパン・クオリティを彷彿とさせるデザインである。

アッパーに採用されている素材はゴートレザー。スムースレザーとスエードのコンビが、センス良くまとめられている。

このレトロなデザインが時代を超えた名品の証


 オニツカタイガーの歴史は1949年に神戸で創業した鬼塚株式会社からスタートした。創業者は鬼塚喜八郎。バスケットボールシューズの製造販売を皮切りに、品質のいいシューズを製作。現場の声を製品改良に反映させ、質のいいスポーツシューズとして人気となっていった。同社が初めて作ったバスケットボールシューズは、ソールの土踏まずの部分にトラの顔がデザインされていたが、これが後の「オニツカタイガー」のトレードマークになっていく。

 創業理念は「スポーツを通じて青少年の健全な育成を」。敗戦から立ち直りつつあった当時の日本は、1950年代後半から60年代にかけて高度経済成長期に入る。敗戦の痛手を癒すように日本国民はスポーツの楽しみを実感し始めていた。運動用のシューズは特殊なスパイクなどを除いて、多くのものが日常で履けるような作りであったため、学校での部活動以外に、登下校時に運動用シューズを履くことが流行する。中でも団塊の世代の子供たちにとって、オニツカタイガーは洒落者のアイテムだったのである。特に東京オリンピック以降、スポーツが社会の中で市民権を得る存在になったことも見逃せない事実である。

 ちなみに、1956年のメルボルン・オリンピック日本選手団用のデレゲーションシューズとしてオニツカタイガーのシューズが初めて正式採用された。製品を通してのオリンピック参加で同社の知名度は飛躍的に高まり、8年後の東京オリンピックではオニツカタイガーのシューズを履いた選手が大活躍。マラソンなど、国内外を合わせて47個のメダル(金メダル21、銀メダル16、銅メダル10)を、オニツカタイガーを履いた選手が獲得した。

 90年代になると、スポーツシューズのストリート進出は珍しいものではなくなっていたが、ハイテクシューズ大ブームの一方で、レトロなシューズへの注目度が高まっていた。オニツカタイガーが2002年に復活し、現在も同社の定番商品である「メキシコ 66」のレトロなデザインが、ストリート・キッズたちの目に留まったのはある意味、必然だったのかもしれない。60年代当時のハイテクが時を経てレトロフューチャーな価値観を生み出し、オリンピックという日本人が大好きなスポーツイベントにそのルーツを持ち、いくつかのモデルチェンジで過去のアイテムに新たな価値が生まれたことなどがその理由。現在「メキシコ 66」は定番モデルとして安定した人気を誇っているが、デザインだけでは語れない、履き心地のよさも人気の秘密だ。オニツカタイガーは1977年に「アシックス」に社名変更した同社の、愛すべきブランドラインである。

 オニツカタイガーといえば、クエンティ・タランティーノの映画「キルビル」を思い出す人も多いはず。映画の中でユマ・サーマンが戦いのシーンで履いていたのは、同社の「TAI-CHI」だが、普段着のシーンは「MEXICO 66」を履いていたそうだ。

メキシコ・オリンピックの2年前に発表されたカタログ。この年、初めてオニツカタイガーストライプ(当時はメキシコライン)が生まれた。

「MEXICO 66」のインナーソールにはブランドのロゴマーク。

踵を補強するためにデザインされたMEXICO 66のアイコンともいえるクロス補強。

薄底・細身に代表されるオニツカタイガーのスタンダードなシルエットである。

オリジナルスポーツファッションブランドとしてのポジション


 オニツカタイガーのブランドポジションはシューズブランドではない。総合的なスポーツファッションブランドとして、シューズ以外のアイテムにも「おっ!」と思わせるモノが多い。同社のキーワードにもなっている「レトロ」な雰囲気がウエアにも反映されており、ヴィンテージ系のウエアとの相性がいい。シューズ+アウターに1アイテム、という取り合わせが新しい。

機能素材のウエアだが、全体的なデザインはレトロなムードのお洒落なウインドブレークジャケット。


1949年に「鬼塚株式会社」として創業。優秀なシューズを作るために、早くから画期的な最新技術を積極的に導入していた。創業当時から科学的なテクノロジーでスポーツを考えていたブランドである。写真は創業者の鬼塚喜八郎。


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2012年8月16日,9月2日合併号


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土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。