Re:STYLING MONO #35 日本独自の履物文化を彩った 愛すべき存在「福助」

#35 福助


日本人の洋装化が始まったのは明治時代だと言われているが、最初に洋服を着たのは上流階級の人々が主であり、一般庶民に洋装化が進むのは大正時代になってからのこと。明治期はまだまだ男性も女性も和装というのが庶民の間では一般的な装いだった。和装に欠かせない足袋は、草履や雪駄、下駄などが主流であった履物文化の中で重要な役割を果たしていた。防寒や足の保護だけではなく建物内で履物を脱ぐという独特の、清潔かつ合理的な日本文化の象徴的な存在でもあったのである。

おそらく日本人の誰もが知っている『福助』というブランドはそんな文明開化の明治期に誕生した。日本国内における木綿の生産は古くから関西地方が盛んであり、同社の前身もまた、河内木綿を扱う幕府御本丸御用の木綿商であった。当時の着物を主流とした装いにおいて帽子、手袋、下駄や草履などの中では、足袋が一番消耗の早い小物であり、その足袋を効率よく大量に生産することを可能にしたのが同社なのである。とくに時代の先鞭をつけた広告宣伝活動、ミシンの動力化に代表される生産効率の向上は、世の注目を集める事業展開だった。昔も今もモダンであり続ける『福助』の歴史を紐解いてみよう。

一人の職人が一日数足を作っていたこれまでの家内制手工業から、ミシンの開発・導入を決断した福助は文字通りの産業革命によって、飛躍的に売り上げを伸ばしていった、明治28年に同社によって特許申請された足袋縫いミシンの特許権は日本初だった。


2005年に登場するや、紳士靴下市場に革命を起こしたといわれる「シェーパーズ・フォー・メン」のロングホーズ。女性用ストッキングとしてはすでに市場導入され成功を収めていた“段階着圧設計”を、「締め付けを嫌う」というタブーに支配されていたメンズソックスの分野に初めて導入。この勇気ある決断が、メンズファッションにおける大きなトレンドを生み出す結果となった。その影には周囲の反対にも怯むことなく、この企画を推し進めた男性社員の熱意があったというが、創業当時には、武士の鎧の仕立て方にヒントを得た“コハゼの被せ縫い”を独自開発したり、商品パッケージや広告宣伝活動に強いオリジナリティを持っていたりと、進取の気性とも言うべき同社の社風が現代においても生きていたことの証左であろう。ファッション的には、たるんだソックスから見えるスネ毛の見苦しさを払拭し、靴下特有のずり落ちやたるみを軽減させてくれる機能性も備えていたことで、一躍ビジネスソックスの主役に躍り出たのである。2012年の注目はこの「シェーパーズ・フォー・メン」のゴルフ対応ソックス。ソックスにこれだけの機能を持たせた製品は、おそらくどこにもないはずである。

 

「シェーパーズ・フォー・メン」のゴルフタイプ・ソックス。アーガイル柄、ボーダー柄、ドット柄が揃う。左右非対称の着圧設計で長時間のラウンドを快適にサポート。拇指球部のクッションは、スウィング時の重心を安定感良く支えてくれる。

部位によって「ナイロンサポート」、「アーチサポート」、「メッシュ」、「拇指球パイル」、「パイル編み」など、さまざまな編地を配して機能的な設計がなされている。構造体としての機能が、体型の違いを超えてサポートしてくれるはず。


日本で最も有名な足袋および靴下のブランドである『福助』は1882年(明治15年)、大阪・堺区に足袋装束の卸問屋として創業した。創業者は辻本福松。その名にちなんだ「丸福」の屋号が始まりだった。当時の足袋製造販売業には卸問屋指定の原料で、指定された型の足袋を作って卸問屋に納める営業形態と、主人も店員も一緒になって足袋を手縫いし、自分たちの手で売る営業形態があり、丸福は後者の商売を行っていた。大きな商売はできないが、堅実で信頼性の高い商売を続けていたのである。同社にとって幸いだったのは、足袋作りにおけるクオリティ・コントロールが自分たちの手に委ねられていたこと。

明治20年代になると、ひも付きが主流だった足袋のコハゼが真鍮製に代わり始め、同社は独自のアイデアで“コハゼの被せ縫い”を開発。当時はまだ発明を保護する特許法がなかったために他社からも大いに模倣されたが、同社の創意工夫は足袋の業界に大きな足跡を残した。また、福助は小さな産業革命ともいえる足袋縫いミシンの開発でも有名で、明治28年には特許を取得している。同時に独創的な宣伝・広告展開にも積極的だった。明治33年には、丸福の商標権争いで敗訴して新たに『福助』の商標を取得。福助人形のキャラクターで一躍全国区のブランドへと伸張した。大正~昭和~平成と歴史を重ねた同社は、グローバルな衣料品ブランドとして今年130周年を迎えた。

明治28年の国産第一号足袋爪先縫いミシンから福助は専用ミシンを続々と開発。ただ、基本は輸入品のミシンを改良したものであり、部品からの純粋な国産品は昭和10年から発売。EMPIREミシンというブランド名だったが、昭和16年に福助ミシンと改称している。

福助ミシンの広告。同社のミシンは昭和33年にミシン業界では初のGマーク受賞。

ミシンを使った足袋製造の産業革命。割烹着姿の縫い子さんたちが産業を支えた。

流通がまだ人力に頼っていた時代の福助のロゴ入り大八車。

大正元年(1912年)に製作された北野恒富の筆による大ポスター。モダンな図柄だ。

おそらくノベルティの団扇だろうが、同社は早くから有名画家や作家を広告に起用していた。

常に品質の向上を目指し続けた同社の靴下製造から78年、高度な製造技術にはますます磨きがかかっているようだ。「インナー5本指ソックス」などというアイデアとクオリティの高さを実感できるソックスも福助らしい製品だ。

創業130年を迎えても変わらぬ福助の知名度の高さには脱帽である


明治時代に創業して、いまも変わらぬ業界第一人者としての知名度を誇る福助。その言葉から伝わってくるイメージはやはり福助人形のユーモラスな佇まいであり、高品質に対する安心感であろう。創業130年を迎える老舗のブランド力に揺るぎはない。圧倒的な高さを誇る製品のクオリティがそれを証明しているし、日本人の“足もと”を知り尽くした安心感がある。

明治15年創業当時の店構えを描いたものと創業者の辻本福松。

Fukuske for men BOLD
シューズイン・ソックス
こうしたソックスの欠点であった“ずり落ち”を防ぐために、内側に滑り止めのテープが。素晴らしい機能である。

Fukuske for men BOLD
足袋型インシューズ
夏のソックスの定番として根強い人気のインシューズ・ソックスだが、親指を離すことで得られる足袋型の快適さはまた格別。

Shapers for men
着圧ロングホーズ
吸水・速乾の性能に長けたタイプ。

着用する前のフォルムは、足首の部分をぐっと絞り込んだスタイリング。“シェーパーズ”というブランド名が表すスタイルと機能は、ビジネス・ソックスの分野に革命を起こした存在である。

Fukuske for men BOLD
リブストライプ・ソックス
カジュアルなスタイルに欠かせないカラーリングが魅力。

Fukuske for men BOLD
ドット・ソックス
お洒落なドット柄は定番の安心感。

Fukuske for men BOLD
ボーダー5本指ソックス
アウトドアなスタイリングにきっと似合うはず。履き心地も最高。

Fukuske for men BOLD
メランジ・ソックスや、フェアアイルなど、豊富なバリエーションが揃っている人気のシリーズである。


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』 2012年9月16日号


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土居輝彦(teruhiko doi)
  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。