Re:STYLING MONO #31 四輪駆動の価値観はすべて「ジープ」から生まれた

#31 ジープ


オフロードを専用の乗り物で疾駆する喜びは格別だ。整備された道路を走るためのオンロード・カーとは違いオフロードあるいはラフロードを走るための乗り物は、男の冒険心を掻き立てる存在である。その代表的存在がジープであり、『ジープ』とわれわれが普通に呼ぶ四輪駆動車は、れっきとした製品名である。そう、クリネックスやコークがそれぞれティッシュペーパーとコーラを指す一般名詞として使われるのと同じことである。SUVを始めとする、似たようなクルマを『ジープ』と呼んでいることは、実は間違いであり『ジープ』はクライスラーのジープのみを指すべき呼称なのだ。登場時からその強烈な個性で他の追随を許さなかった名車、“リアル・ジープ”に迫ってみよう。

『ジープ』の名前の由来は諸説ある。ひとつは「汎用」を意味する「ジェネラル・パーパス」の頭文字GPを早口で発音したという説。もうひとつは漫画ポパイに出てくる万能な架空動物「ユージーン・ザ・ジープ」から取った、という説。この二説がメディアでもよく語られているが、その謎もまた魅力だ。

軍用車からスタートしたジープだが1987年からジープ・ブランドで発売された、本格的なクロスカントリーカーが『ジープ・ラングラー』である。開発はジープCJの後継車として行われ、延長されたホイールベース、四角いヘッドライト、大型化され視野の広くなったフロントグラスなど、大幅なデザイン変更がなされた。2007年には従来モデルよりもさらに大型化されたジープJKが発売され、新たに4ドアモデルが追加されるなどSUV化が進められた。

しかし何といってもこのモデルはチェロキー、グランドチェロキー、コマンダー、パトリオットといった車種とは異なり、1941年登場のオリジナルジープの直系という点がジープファンにはたまらない魅力。以前のモデルに比べて後部座席や荷室のスペースを拡大し、使い勝手が良くなっている。さらに「ラングラー アンリミテッド」というモデルは4ドア仕様となり定員も5名になってさらなる世界観が広まったジープとなった。リアルなジープの血脈を受け継ぐ名車の魅力に溢れている。

ラングラーと並んで存在感を発揮したチェロキーのデビューは1984年。初代XJ型は1990年代の日本で年間1万台以上のヒットを記録した。2001年以降は本国では“リバティ”と名称変更されたが、日本ではKJ型もKK型も親しみを込めてチェロキーと呼ばれる。

アウトドア・イメージが強いジープではあるがコンセプチュアルなスタイリングは都市生活のシーンにおいてもなんら違和感はない。写真は「ラングラー アンリミテッド」(写真はUS仕様)。


第二次世界大戦前までの戦場における乗り物の主役は、サイドカー付きバイクだった。しかし、1941年にアメリカ陸軍のオファーによって誕生した『ジープ』の機動力は、戦場における軍のあり方そのものを変えるほどの存在となった。その機動力とは、小型で軽量、4WD、ドアや屋根(幌)が簡単に取り外しが出来る。また修理も容易で部品調達や代替品の利用も可能というフレキシビリティに溢れていた。

当初、米軍のオファーに応えて試作製造を実行したのはフォード社、アメリカン・バンタム・カーマニュファクチュアリング社、そしてウィリス・オーバーランド社の3社。その中でウィリス・オーバーランドの「クオード」というモデルが大量に発注を受け、改良型のMA、その進化系のMBを製造し、伝説のブランド『Jeep』が誕生することになった。いかなる悪路であろうと、瓦礫の中であろうと、あるいは地雷でタイヤが1~2本吹き飛んだ状況であろうと、ジープは走り続けた。その機動性の高さは戦後になっても他の追随を許さず、やがてアウトドア・ビークルの代名詞的存在として『ジープ』は世界中の人に認識されるクルマとなった。その認知度の高さは、ジープに似た他社のクルマも「ジープ」と呼ばれるようになったことからもうかがい知れよう。ジープはリアルなジープにのみ使われるべき呼称である。

現代では多様化したSUVが、それこそ世界中の自動車ブランドから発売されているが、その起源にジープのコンセプトがあることを感じさせるクルマは少なくない。ジープのノウハウを基にライセンス生産されたものは「ジープ」という呼称を許されているが、しかし、間違ってはならない。ジープとはオンリーワンの存在であり、7スロットグリルのデザインだけが、ジープと呼べる存在なのである。現在ラインナップされているジープは「ラングラー」「パトリオット」「コンパス」「チェロキー」「グランドチェロキー」である。どうせ乗るなら本物に乗りたいものだ。

日本の自動車メーカーがジープをライセンス生産していたことがある。ひとつはトヨタのBJ型ジープで製造は1951年~1955年。もうひとつは1953年以降、1990年代まで作られた三菱のジープ。ランクル、パジェロの萌芽といえるだろう。

第二次世界大戦でデビューしたジープは軍用車両の代名詞でもあった。Photo / US.ARMY→戦場での機動力はコンシューマー向けの宣伝効果があり、農地や森林における主役の座は完全にジープのものになった。

リアルでなければ味わえない、本物の
パフォーマンスとスタイリングに酔いしれよう。


Jeep Compass
パトリオットとは兄弟車のような関係。デザインのモチーフはグランドチェロキーであり、ジープ・テイストのシティクルーザー。

Jeep Cherokee
現行のKK型は洗練された快適SUV。ラングラーのオフロード性能を受け継ぐ本格派でもある。

Jeep Patriot
モノコックボディに四輪独立懸架式サスペンションやエンジン横置きのレイアウトなど乗用車的パッケージングを採用した入門モデル。

Jeep Grand Cherokee
時代の要請から誕生した圧倒的ラグジュアリー性を誇るSUV。オフロード性能はもちろん、オンロードの性能も向上させた快作。

Jeep Wrangler Unlimited
初代ジープの血統を受け継ぐ正統の後継車。オフロードの雄でありながら、都市生活での存在感を最近、楽しむ人が増えつつある。


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』2012年07月2日号


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  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。