電気仕掛けのサソリ見参!
アバルトといえば、排気量の少なさをカリカリチューンで補ってライバルと渡り合ったメーカーでその甲高いエンジン音とレース戦績で名を轟かせた。いわゆる硬派で尖ったブランドなのだが、対面した500eはやる気のあるような、なんとなく眠たげな印象のフロントフェイスだった。

試乗車アバルト500eTurismoカブリオレ(以下、ツーリスモ)はEVでは数少ないカブリオレモデル。リアウィンドウを残して開くキャンバストップとフルオープンは任意で選択できる。ただしフルオープンにするとルームミラーの半分は格納されたルーフになるので、自分でミラーを調整するなりの対策を求められる。しかしながら「そこがイタ車っすよォ」と根がアナログな筆者はこの不便さに萌える特異体質でもある。なおフルオープン時でもCピラーが残るので後席にいても風の巻き込みは耐えられるし、会話の声がデカくなる。コレが楽しいのだ。



さてアバルトであるからしてベース車両は当然フィアットになる。インパネデザインは基本的にベースとなった500eに準じるモノ。シフトセレクターはボタン式だし、その上にあるフィアットゆかりのトリノの街並みがデザインされた棚状のQi規格の充電器も500e同様。ただしレザーとアルカンターラを豊富に使ったシートやステアリングなどは専用品でブランドらしいスポーティさが演出される。


痛快な走りはEVでも
ツーリスモの運転席に座ってスイッチ類をポチッとして走り出す。適度に重いステアリングにクイックな挙動はEVになってもアバルトのそれだ。内燃機関をEV化しました、よりもアバルト流の味付けを電気仕掛けにしてみました、といった印象が言い得て妙。違うと感じるのは乗り心地の良さで、重量物のバッテリー搭載位置が床下のEVレイアウトが効いていると思う。
エンジン、いやモーター搭載位置は500e同様フロント。モーターの最高出力は155PS。このパワーを伝えるタイヤもフィアットの17インチに対して18インチを採用する。モーターはフィアット版のそれをチューニングしたモノと思いきや型式も違うことにびっくり。500eは118PSなので出力3割アップのアバルトスペシャルになっている。

車重はガソリンエンジンを積んでオープンになる695Cよりも200kg以上重いけれど、EVとして考えればライトウェイト級の1380kg。
ドライブモードはスコーピオントラック、スコーピオンストリート、ツーリスモとまるで戦隊ヒーローの必殺技のようなモノが3つ。トラックはサーキットユースも視野にいれたスポーツモード、ストリートは街乗りからちょっとしたイケイケまで。ツーリスモはエコモードに相当。ストリート、ツーリスモは完全停止まで対応するワンペダルモードにもなっていて、トラックは回生ブレーキがほぼ効かない味付けだ。
筆者が強く慣れが必要と感じたのは車庫入れ。トラックモード以外だと微速でもアクセルを緩めたり、全オフにしたりすると、当然ながら強力な回生ブレーキが介入してくる。にわかツーリスモ乗りは周りから見てもギクシャクとしていたはず。
しかしながらイケイケで走る時のメリハリ加減はさすがアバルトで、特にトラックモードでクネッた道を走ろうモノならば頬が緩みっぱなしのニヤけっぱなし状態。モーター特有の抜群のトルクレスポンスでコーナーを立ち上がる。
しかしながら。モードを切り替えるだけで航続距離が減る。ツーリスモモードからトラックモードにしただけで10kmは減った。筆者はこのわかりやすさもイタ車の魅力と考えているので、ヨヨヨっと思うだけだが、EVということを考えるとハラハラしてしまう。最大航続距離はカタログ値で303km。今回の短時間の試乗で精神衛生的なことを考えると220〜240kmくらいと思うのがベターかも。
聞いて聞かせてナンボの擬似音
ツーリスモのもう一つのお楽しみがある。それはエグゾーストノートだ。なぬ? EVでしょ、と思うのだが、同ブランドのエグゾーストシステムの代名詞とも言えるレコードモンツァのエクゾーストノートを再現したという擬似音を聴ける。これはエンジニアたちが6000時間以上もかけたというこだわりのシロモノ。しかも、このエレクトリカルなエンジンサウンドは車内だけでなく車「外」にも聴かせるのだ! 加えて大ヒットした往年の2代目チンク、ヌオーヴァ・チンクの如くリアから、つまりはリアにエンジンがあるかのように演出してくれるオマケ付き。
この擬似音はアクセルに敏感に反応するのも特長。オンの時、オフの時、全開からの全閉、旋回中のチョコチョコっと踏んだり離したりなどなど、後ろから聞かせることを考えても芸が細かい。そういえばフィアット500eの車両接近音はニーノ・ロータが手掛けていた。さすがイタ車。無味乾燥的な警告音とは違うのだよ、と言われているようだ。こだわるところはクルマ好きのツボをついてくる。「またぁ、大袈裟な」と良識ある皆様は思うかもしれないが、早朝深夜に「ヨシ! 走りに行こう!!」という時は、結構な音量を覚悟したい。超神経質なご近所さんがいたら三角形な目つきで見られそうなくらいだ。そんな時は冷静に音をオフにしてニッコリとさせればよろしい。
ネックはこの音を出すのためにはクルマが停止状態にあってステアリングのスイッチを何度も操作しないとイケナイコンピューターゲームの裏技か何かの隠れ儀式みたいなところ。車両設定、表示、電気機能、外部音とたどり着くまで道のりは遠いとなるとやはりご禁制のお楽しみなのかも。
もちろんこの擬似音、EVなんだからイラン! という趣の方はJBLのプレミアムサウンドシステムが標準装備されているのでこちらで音楽を楽しめる。EVって静粛性がウリの一つだけれどツーリスモは違う。やはりアバルトだ。熱いクルマ好きが作ったクルマに仕上がっている。
楽しさ>実用性がイタリアン!
話は変わって、その昔フィアット500Xに乗った時のこと。インパネにはオシャレなパネルがあしらわれていた。このパネルが若干左右に長く、エアコンの吹き出し口を5分の1ほど塞いでおった。デザイン優先のクルマ! さすがであった。
そしてこのツーリスモも同様でラゲッジルーム下には擬似エンジン音を出すためにLLサイズのピザもびっくりなスピーカーが収まっている。このスピーカーのおかげ(?)で充電用のアダプター、ケーブルなどが床下にしまえず、荷室の一角を占領してしまう。

まぁSAなど出先の充電設備を駆使すれば大丈夫といえば、大丈夫なのだが、急速充電を使う時は付属のアダプターを使う。コレが意外に大きくて重い。クルマに傷をつけないように気をまわす必要があると思う。このあたりも細かいことは気にしない。その方が楽しいじゃない、なやっぱりイタリアン。
甲高いサウンドを心ゆくまでワインディングで楽しむのがアバルト。そのEVってどうよ、と思っていたけれど、なかなかどうして。街中からクネッた道まで熱い血、いや電流が流れているのだ。ロゴもビリビリ系な雰囲気でコイツぁただモノではないゾ、な雰囲気だし、クルマの楽しさを知っている人間が作っているから乗ればニッコリ間違いなし。


アバルト500eTurismoカブリオレ
| 価格 | 645万円 |
| 全長 × 全幅 × 全高 | 3675 × 1685 × 1520(mm) |
| モーター最高出力 | 155PS/5000rpm |
| モーター最大トルク | 235Nm/2000rpm |
| 最大航続距離 | 303km |


































