スタイリングはあの名車
どうも巷のSUVブームについていけない、あるいはクルマは個性でショーブでしょ、とこだわりの皆様、グッと刺さるニューモデルがデビュー。ドイツの老舗ブランド、フォルクスワーゲンのID.Buzz(以下バズ)だ。オヨヨ、新しいけれどどこか懐かしさを感じるゾ、的な優しいスタイリングは往年のタイプ2と呼ばれるモノをオマージュしたといっても過言ではない。

都内で開催されたお披露目会ではデザインのオマージュ元ともいうべき元祖タイプ2も展示された。ファンの皆様には説明の必要がないほど人気のモデルだが、一応解説を。
世界的国民車の代名詞的存在の初代ビートル(タイプ1)のコンポーネントを使ったワゴン/バンモデルがタイプ2になる。タイプ2はトランスポーターともいわれ、シリーズ名には「T」が入る。初代のトランスポーター、すなわちT1は1950年にデビューした。ビートルのコンポーネントを使っているのでコチラもリアにエンジンを載せるRRレイアウト採用。T1というよりもワーゲンバスの愛称の方が言い得て妙なモデルでもある。なおワーゲンバスの由来は1964年のアメリカ市場で人気を博した8人乗りのサンババスからとされている。

正反対の魅力満載
上記のようにタイプ2の系譜で数えると7代目、T7になるのが今回のバズ。デザインは間違いなしのアイコニックなモノだし、昨今のミニバンにありそうな「見上げるような風格」や「ヲラヲラ、文句あっか」的なオーラが感じられないのが新鮮に感じられることも。ヘッドライト間のV字型のパネルやフロントフェイスの大きなVWマークはやはりT1に通じるデザイン上のアイデンティティだ。

クルマ自体の雰囲気も思い浮かぶ競合他車(社)は流行りのデザインで、より豪華志向でテック感を前面に打ち出し、ステータス性を求める傾向だが、バズは違う。飽きのこないシンプルなデザイン、ちょっと見入っちゃいそうな親近感、普段着でもスーツではなくセーターやジャケットなどと同じようなファッション性を持つ。そう、まるで正反対に仕上がっているのだ。
胃もたれしない大盛り感
日本へ導入されるのはノーマルホイールベースの6人乗りとロングホイールベースの7人乗りの2つ。いずれのモデルも3列目シートは脱着可能。


スライドドアとテールゲートは電動で両手が塞がった状態でも開閉が可能なイージー・オープン&クローズ機能を搭載。ロングホイールベースモデルにオプション可能なパノラマガラスルーフはスイッチ一つで調光とクリアが入れ替わる電気式の賢いモノ。開閉はしないけれど天井面積が広いので自然光を使って車内のコントラストを調整できる。
スライドドアに設けられたサイドウィンドウも「スライド式」で、しかも電動式! なのだ。気になるシートアレンジはシート面を上にしたフラットはできないけれど、完全にフラットにはなる。むしろ車中泊を考えるとこの方が何かと便利そうなほど。簡易ベッドセットでも載せてしまえば快適な就寝スペースの誕生で、エアコンをかけたままでもエンジンがかかるわけ(最初からエンジンはない)でもなく、静かなので仮眠的車中泊はバズのアピールポイントになるはず。またラゲッジスペースも素性は商用モデルだけあり、大きく使いやすいのはさすが。



ドカベン的ワゴン
さてバズは純電気自動車、BEVである。クルマの基本骨格はMEBと呼ばれるBEV専用のモノ。BEVの方程式通り、バッテリーは床下に。そして前述の通りホイールベース(前後の車軸間の距離)が異なれば、バッテリーを積む量も異なる。何が言いたいのかとお叱りを受けそうだが、一充電あたりの可能走行距離はノーマルホイールベースが524km、ロングホイールベースのそれは554kmと多くなっている。もちろんフォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェの急速充電サービス、PCAが使えるので長距離もさほど不安は感じないで済むのもバズの強みだ。PCA体験はコチラ。
駆動方式は往時のT1のようにリアに1つのモーターを積み後輪を駆動する。そのスペックは286PS/560Nm。特にトルクはかなりあるので、重量級EVでも動的な質感に不満はないはず。またマニアック的な話になってしまうけどこの最高出力はホイールベースの違いで発生回転に違いがあるのだ。286PSの最高出力自体は変わらないが、ノーマルホイールベースは0-3581rpm、ロングホイールベースは3581-6500rpmと微妙に違う。2.5tオーバーのクルマを走らせる力強さはまさに山田太郎(編集部注:水島新司先生の名作「ドカベン」の主人公)。気は優しくて力持ち的な走りを披露する。
バスの愛称はダテじゃない
発表会当日、パッセンジャーシートに試乗できる機会があったので迷わず3列目に。決して押し込まれた、とかではない。試乗モデルは7人乗りのロングホイールベース仕様。

プレミアムサウンドシステムやパノラマガラスサンルーフがオプションされていた。3列目へのアクセスは身長175cmの筆者でも悠々。シートの幅も合格点どころか大人でも十分な広さ。試乗時は多人数(全6名)だったので、イヤイヤ何もそんなに気を遣ってシート位置を前にしていただかなくても、と思ったがよくよく見ると2列目は足を伸ばせるほどのスペースがある。ということは純に3列目のスペースが広いのだ。さすがバスの愛称を引き継ぐ正統派。ただしこの状態での荷室の広さは未確認。非常に恐縮でゴザイマス。
当日は梅雨休みの日差しが強い日だったが、サンルーフから受ける熱は少ないだけでなく、限られた車内空間をより開放的な印象にしてくれた。モネ的文学的な表現ならば光芒と残影を車内で表現できる、となりそうな雰囲気。また試乗車標準装着(ノーマルホイールベース車にはパッケージオプション)の3ゾーンエアコンが3列目でもなんとなく蒸し暑い、とならなかったのもご報告。

乗心地は後輪の上にシートがるから突き上げ感はやむなし、と構えていたけれどそれも気にならない。2.7tの重量級な車重(ノーマルホイールベースは2.5t)と、リアにモーターを搭載するなど安定した車重が良い意味に作用していると思う。スペースやシートの出来はまったく苦にならないのだけれど、唯一の不満はシートの背もたれが固定されており、リクライニング機能がないことくらい。長時間、長距離移動は適度な休憩が必要そうと感じた部分だ。
さて、今のところ日本市場で購入可能な唯一無二のEVミニバンの価格はノーマルホイールベース車が888万9000円、ロングホイールベース車が997万9000円となっている。補助金を使えばもう少し安くなるはず。ヲラヲラ系やそこのけそこのけ系なゴツいミニバンは数あれど、柔らかい雰囲気のほんわか系ミニバンはバズりそうなのだ。
ID.Buzz
価格 | 888万9000円〜 |
全長×全幅×全高 | 4715(LWB:4965)×1985×1925(mm) |
モーター最高出力 | 286PS |
モーター最大トルク | 560Nm |
一充電走行距離 | 524km(LWB:554km) |