
「Benetton Formula Ltd B189」は、FIA Formula One World Championship(以下、F-1)1989年シーズンの第7戦フランスGPから投入された、当時としては画期的な新開発軽量V8エンジンとエアロダイナミクスボディを武器に、日本GP(鈴鹿)で劇的な勝利を飾ったF-1マシンだ。そんなB189winning carがSpark Gallery Tokyo(以下、スパーク)に展示してるとのことで、取材に行ってきた。

Spark Gallery Tokyo
スパークは、マカオのMINIMAX社が展開する世界的ミニチュアカーブランド。特にル・マン24時間レースやF1などのレースモデルに強いメーカーだ。ココ新橋ギャラリーには常時約1500台(1/8〜1/87スケール)が展示されてあるぞ。
B189日本人F-1メカニック「津川哲夫氏(以下哲爺)」

1976年のF1日本GPを観戦し、「自分もF1メカニックになりたい」と決意した哲爺。翌年、英語もコネもないまま単身で渡英するという無謀とも言える一歩を踏み出した。当時のメカニックは、少人数でマシン全体を把握しなければならず、現代の分業制とは異なる “総合力” が求められた時代を生き抜いた人物である。このベネトンB189は、そんな哲爺が創り上げ、「俺のクルマだ」と言い切るほど熟知し、いや、もはや体の一部と化していたマシンだ。優勝が決まったパドックで彼が漏らした「勝ちたかったもんね」という一言は、今も忘れられない。
その哲爺が、37年ぶりにB189と再会し語ってくれたのだ。
空力マシーンB189

B189は、名エアロダイナミシスト/デザイナーであるローリー・バーンの手によって設計された。彼はエアロだけでなく、車体全体のパッケージング思想にも優れ、「シンプルで効率的な空力」を徹底する設計哲学を持っていた。エンジン配置、冷却レイアウト、サスペンション位置、重量配分、フロア形状、そしてフラットボトム。それらすべてが一貫した思想のもとでまとめ上げられ、B189という完成度の高いマシンを形づくっている。
特徴的なフロントウイング(カイトウィングと呼ばれる)

フロントで十分なダウンフォースを得ながら、後方に乱気流を生じさせず、きれいな気流をつくり出す設計になっている。ワイヤーで固定されているのは、走行中に強いダウンフォースがかかった際、翼端がねじれるのを抑えるためだ。当時は、路面すれすれまでしなるグラウンドエフェクトをスキッドスカートでカバーし、気流を逃さずに維持していた。
ダウンフォースは流速の二乗に比例して増加していく、この原理を徹底的に活かしたマシンだった。
フロントサスペンション

プルロッド式フロントサスペンションは、モノコック内部にコイルスプリング/ダンパーユニットを収める構造になっていた。これにより車体剛性が高まり、外側に配置するアームを細くできたことで、空力面でも大きなメリットを得ていた。
コクピットのバルジ



モノコック側面のミラー下にあるふくらみは「バルジ」と呼ばれる。
このバルジは、狭いコクピットでドライバーがシフト操作を行う際、拳が壁に当たらないように確保されたスペースだ。もちろん、空力に悪影響を与えないよう綿密に設計されている。
Dシェイプステアリング

F1のレギュレーションでは、ドライバーは5秒以内にコクピットから脱出できなければならない。しかし体格の大きいドライバーは、ステアリングが引っかかって離脱できないという問題を抱えていた。この課題を解消したのが、哲爺が発案した「D型ステアリング」だ。ステアリング下部を切り落とし、アルミで溶接して成形することで、脱出時のクリアランスを確保したのである。その発想力と実行力は、まさに職人ならではの凄みだった。
エアインテークとラジエターインテーク


B189では、前作B188に比べてサイドポッド全高が高くなり、ラジエーターインテークもより縦長の形状へと変更されている。自然吸気(NA)エンジンを搭載するB189には、ターボ時代のような巨大なエアスクープは不要で、全体としてスリムなパッケージングが可能だった。
その特徴は、忠実に再現されたスパーク製限定モデルのベネトンB189ミニチュアカーを見てもよくわかる。
リアサスペンション


リアには、フロントとは逆のプッシュロッド式サスペンションが採用されていた。プッシュロッドは上方向へ伸び、ギアボックス上に配置されたロッカーへと力を伝え、ダンパーとスプリングはギアボックス上に横置きされている。このプッシュロッド化によってロアアームの位置を最適化でき、ディフューザー上を流れる気流をよりクリーンに整えることが可能になった。さらに、メカニックである哲爺にとっても整備性が大きく向上していたという。
哲爺の「スクリュードライバー」

哲爺が渡英して初めて購入したのが、このプロト製スクリュードライバーだ。
木製の六角形グリップは、長い年月の使用で角が取れ、丸みを帯びている。
そして哲爺は、そのドライバーをおもむろに取り出した。リアカウル「えっ? 開けるの?」



さすがB189を知り尽くしたメカニック、哲爺。彼はドライバー1本だけで、あっという間にリアカウルを外してしまった。そもそもF1マシンの展示自体が希少だが、展示車両のリアカウルが外される光景など、まずお目にかかれない。その瞬間は、まるで時代が巻き戻ったかのようだった。
Ford Cosworth HB 3.5 V8 エンジン



ベネトンB189を支えた心臓部が「Ford Cosworth HB 3.5 V8」だ。
F1の歴史を塗り替えたと言っても過言ではない名機である。1989年、F1はターボ時代が終わり、自然吸気3.5リッター規定へと大転換を迎えた。その混乱の中で静かに姿を現し、やがて「F1の標準エンジン」とまで呼ばれる存在へ育っていった。このB189は本来フォード・コスワースHBを搭載していたが、ワークスエンジンであったため返却され、現在はクラシックレースで定評のあるコスワースDFSに載せ替えられている。実走行可能な状態にあり、実際にクラシックレースへ参戦している個体である。

ベネトン・フォード B189。
時が経っても語り継がれる、この伝説のマシン。哲爺 × スパーク小林さん
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Benetton Formula Ltd B189(1989年鈴鹿GP)
主要諸元
デザイナー:ロリー・バーン
エンジン:フォード・コスワース HB シリーズI-IV (V8 / 75°)
排気量:3,493cc
最高出力
約630ps〜
ギヤボックス:ベネトン製 6速MT
ドライバー:アレッサンドロ・ナニーニ
監督:ピーター・コリンズ
メカニック:津川 哲夫 他


Spark Gallery Tokyoショップ限定で、「ベネトン・フォード B189」が発売中だ。数量限定のため、気になる人は早めにチェックしてほしい。
Spark Gallery Tokyo
「ベネトン フォード B189」
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