韓国からの刺客?
個性的でオモシロくかつ、ヒトと被らないクルマをお探しの皆様、確実にツボにハマる1台があります! それは韓国のヒョンデがリリースするアイオニック5Nでーす! 何を隠そうJAIAの試乗会で筆者はツボにハマってしまったのだ。


5Nはアイオニック5の高性能モデル。高性能と一括りにしてしまうけれど、メルセデスにおける「速いクルマはAMG」といった立ち位置と思えば間違いない。特長的なエッヂの効いたエクステリアデザインはベビーランボとして人気を博した「ガヤルド」などをデザインした元ランボルギーニのデザイナーが手がけたといわれる。
5Nはノーマルモデルをローダウンしてエアロパーツ装着車と思ってはイケナイ。すべては性能を発揮するための、いわばアーマーなのだからして。どのくらいの「備え」かというとアイオニック5(ベース車)に対して全長で60mm、全幅にいたっては50mmも大きくなっている。今流のコンパクトカーで50mmの全幅拡大は相当なモノだ。
そのメカニズムは前後にモーターを載せたツインモーターのAWD。モーターのスペックだがフロントは238PS/370Nm、リアは412PS/400Nm。トータルの出力は650PS/770Nmとパワフル。このサイズで600PSオーバー! という数字の響きだけを聞くとスーパーカー並。このボディサイズを考えると途方もない数値に思えてくる。ちなみにこの数値は通常のアイオニック5の2倍以上。5Nのメーカー発表最高速は260km/hという。

良識ある読者の皆様、そんな一時だけのパフォーマンスでしょ、というなかれ。一般的にEVってサーキットを走らせるとパワーが長続きせず最初だけの場合が多いのも事実。確かにハイブリッドカーでもバッテリーに余裕があるときはめっぽう速いけれど、バッテリー残量がなくなったらただのウェイトハンディ搭載車になってしまう。もちろんサーキットなどでの話だけれど。
しかし、なのだ。アイオニック5Nは難攻不落として知られるドイツのニュルブルクリンクを2周は全開走行可能という。え〜2周だけ〜? いやいや。1周約20km、高低差約300m、172ものコーナーを数えるクルマへの負担が尋常ではないサーキットにあって2周、40kmは全開可能なのだ。
テンション上げ上げなインテリア
エアロパーツの迫力に押されつつ、室内へ。インテリアのデザインはノーマルモデルと同じなのだが、センターコンソールは違う。ノーマルモデルは駐車時には左右に動くことも視野に入っているっぽいけれど5Nはニーパッド付きのセンターコンソールが鎮座する。このアイテムがあるだけで、なんとなくただモノではない雰囲気がツボを刺激する。ホンモノのオーラってやつか。

シートはバケットタイプ。生粋のスポーツモデル然という雰囲気ながらもシートヒーターやベンチレーションといった快適装備は用意されているのは韓流いや、イマ流。後席はノーマルモデル同様にリクライニング、スライドが可能で快適度はかなり高い。足元スペースはセンターでもフラットだし、絶対的な空間にも余裕があるので大人も十分快適。なお後席サイドウィンドウには手動式だけれどブラインドがあるので西陽が強い時や夏場の強い日差しを感じる時はありがたい。


沼りそうなセッティング
輸入車ながらもウィンカーは右側にあることを確認してセンターパネルのスイッチで起動させる。シフトはウィンカーレバーの手前下にある。

そしてステアリングには各種スイッチが並ぶ。並ぶなんてモノではなく萎えた記憶力の筆者には覚えるハードルが高そうな雰囲気。しかしながら。コレらのスイッチは物理的で押したかどうかもわかるので、その点は大歓迎したい。
ステアリングの奥には回生ブレーキの強弱を操作するパドル。コレは昨今のクルマに多く装備されているのでなんとなくわかるけれど、その手前にも似たような形状のスイッチがある。向かって左がドライブモード。そして右側には……怪しげな赤いボタン。そのボタンにドクロマークでもあった日には名作タイムボカンシリーズよろしく自爆ボタンに見えてしまう。いやいやそれはアニメの世界だ。ジツはこの一際目立つ赤いボタン、いわゆるブーストモード起動スイッチになる。
この触る者に意を決させるような赤いボタンは、最高出力は上回らないけれど、今の出力に対して10秒間だけパワーが50PSも上乗せされる仕掛け。牛丼大盛りに肉の部分だけもっと! 的なモノだろうか。否。例えるならば、次原隆二先生の名作「よろしくメカドック」のキャノンボール編で活躍したセリカXXのニトロや映画「ワイルドスピード」のNOS(コチラもニトロ)のようなモノ。ボンクラな筆者は50PS上乗せされたところで何がどうスゴイのか、はわからない。なんせ最高出力は650PSもあるし、トルクも有り余っているほどあるし、モーターによる超絶なレスポンスもある。わかるのはカラダがシートにめり込むような加速Gを味わえることくらい。

基本ドライブモードはエコ、ノーマル、スポーツの3つ。そこに自分でカスタムできるNモードが2つ用意されている。センタースクリーンからもクルマのセッティングが行える。例えば擬似エンジン音のバーチャルサウンドでは音質も3つあるだけでなく、そのボリュームや音を車内だけか車外にも発するか選択可能。
そして特別な「N」の称号を持つモデルらしくNの付くセッティングが多く見られる。さすがに短時間の試乗ではすべてを試せはしないのだが、クルマの本気度がわかるセッティングも。
例えば、サーキット走行をメーンに考えて、あらかじめバッテリーの消費を計算しつつ、それらの冷却を含めて、常にパフォーマンスを発揮できるようにするトラックSOCなどは、らしいモノ。さらにレースの予選を考慮したような1周だけのアタックに最適なスプリントモードや決勝の周回を想定したエンデュランスモードなど、コレ市販EVですかい!? となることは間違いない。そういえば発表会の時に「直線が速いEVはたくさんあるがWRC由来のEVは、アイオニック5N以外にはない」と言っていたことを思い出した。短時間の試乗ではすべてを試すことはできなかったし、こっちのセッティングはこうで、アッチはこうして、そうするとコレは……と「沼」になまりそうな雰囲気濃厚。
ほとんどナマ寸前?
前述のようにセンタースクリーンによる車両のセッティングは奥が深い。試しにN e-Shiftを選択。すると、フロントスクリーンにタコメーターが現れる。へ? タコメーター? EVですよね、コレ。さらに野太いエンジン音まで聞こえてくる!!

アイオニック5Nは間違いなくEVである! という常識からすればナンダナンダナンダ? となる。しかもその状態で軽くブリッピング(空ぶかし)をするとアクセルの開度に応じてエンジン音も高まるではないけ。運転席でなんとなくニヤける筆者。これを走らせたら8速ミッションを載せたエンジン車のような印象で、自分でパドルを使ってシフト操作をしないとギアが上がらない。しかも加速しながらパドルを引いてギア(?)を上げると変速ショック(!)まで感じる。もちろんその逆もある。減速するタイミングでシフトを数段落とすとブリッピングをかましてくる。ナンダナンダナンダ。
逆に低いギアでレッドゾーンまで引っ張ると車両が震えてオーバーレブでっせと難波節のように震えて教えてくれる。し・か・も! 切り返しの続くコーナーでは超絶気持ちいい走りを体感できる。このEVは一体ナンダナンダナンダ!?
乗りながら筆者は「ナンダナンダナンダ」教に入信してしまった。もちろんすべてがダミーであり、バーチャルなのだがこれがもう、ホンモノに限りなく近い。このモードを選択してクルマに何の興味もないヒトを乗せたら間違いなくガソリンのV8エンジンが吠えていると思う。
コーナーでは4輪を制御してくれるトルクベクタリングの恩恵で自分がプロドライバーにでもなったような錯覚まで体感できる。このトルクベクタリングはFFっぽくもFRっぽくも自分で選択可能。これも色々試したかったが時間の都合上、両極端なモードでしか走っていないが、ドリフトモードでは狭いクローズドコースでも簡単にリアがスライドするだけでなく、そのコントロールも鼻歌まじりで楽しいモノだった。
双子座の乙女!?
かようにハイパフォーマンスを披露できるけれど、日常使いも難なくこなせる。しかもクルマの流れにのってクルージングする時はEVらしく超絶静かなモノ。Nはヒョンデの開発オフィスのある韓国・ナムヤンとテストをするドイツのニュルブルクリンク両方の頭文字「N」に由来する。この言葉の響きにはスパルタンな印象を持ちそうだが、個人的には日常使いの「N」を加えたいくらい。星座占いで言うところの双子座の女性っぽく2面性がたまらない魅力なのだ。パフォーマンス系EVで走りを楽しみたいなら5Nに注目!!

ヒョンデ アイオニック5N
価格 | 858万円〜 |
全長×全幅×全高 | 4715×1940×1625(mm) |
フロントモーター最高出力 | 175kW/4600-10000rpm |
フロントモーター最大トルク | 370Nm/0-4000rpm |
リアモーター最高出力 | 303kW/7400-10400rpm |
リアモーター最大トルク | 400Nm/0-7200rpm |