帰ってきたトライトン
SUVブームの中、キラリと個性派なモデルが2024年にデビュー。さて、果たしてSUVとくくっていいモノか悩むところで、その昔のクロカン(クロスカントリー)系、しかも本気組御用達と言ったクルマなのだ。え〜い、控えおろう! その名は三菱のトライトンなのだ! と思わず水戸黄門的に始まってしまったがトライトンはピックアップトラックスタイルのSUVなのだ。

三菱のピックアップといえば1978年のフォルテから始まるのがその歴史で、1980年代前半くらいまではドアに「自家用」と書いたこの手のクルマが走っていた。ご記憶のオヂサマ世代もいらっしゃるのでは? しかしながら。トライトンと名乗るようになってからはイバラの道でジツは2006年から国内でも初代モデルが販売されていたが、販売が伸びずにひっそりフェードアウトした暗い過去がある。そして2014年にモデルチェンジした2代目はついに日本では販売されなかった。
カッコイイSUV=トライトン
ところがトライトンは帰ってきた! 日本市場、少なくとも都内の駐車場事情は場所を選ぶ5m超えの全長と190cm超えの全幅という堂々たる体躯を持って。しかも、トライトンは売れている! それは国内どころか世界では三菱自動車のおよそ2割りを占めるほど。用途が限られるようなニッチな市場にもかかわらず(失礼)。国内での販売上位の3エリアには東京都も入っているという。ちなみに1位は北海道だそうです。かの地はでっかいどーだからこのサイズでも問題は皆無と思うが、渋滞も多くクネッた路地も多い東京とは、一体? これは、昔のパジェロブーム的なモノなのか。普段乗るにはオーバースペック過ぎる本モノのマシンが600万円しないのは確かにお買い得。余談だがトライトンの価格帯は498万800円からで、試乗車のGSRは540万円からのプライスだ。
売れている理由はおそらくヤングなハートを持つ筆者同様にSUVの中でも斬新なデザインでカッコイイからで、性能ウンヌンはそのオマケ的要素なのかも。事実、トライトンは2024-2025のデザイン•カー•オブ•ザ•イヤーにも選ばれている。なるほど、悪路を絶対走らない六本木のGクラスや行っても週末川原BBQっすよ的なランクル、250ランクルと都内でも爆売れ中。その中で個性的なデザインは確かに優位かもしれない。なるほど、である。しかも東京での顧客は20代、30代の初三菱の若い世代が多く、上位グレードをオーダーするとか。ギスギスしがちな東京砂漠を乗り越えていけるのはおしゃれなクロカン、ってことなのかもしれない。
筆者、一時ピックアップブームが来るかと思った時がある。それは2014年のランクル70の国内復活や、2017年に13年ぶりの日本市場へ導入されたハイラックスピックアップ(8代目モデル)、同年にはあのメルセデスからもXクラスというピックアップモデルも立て続けにデビューしたからだ。しかし、残念ながらブームは来ることがなかったが、ハイラックスの販売は今も好調。そしてトライトンの販売でもしかしたら盛り上がってくるのかも。閑話休題。トライトンはカッコイイ! タフさとオシャレさんがうまく同居している印象で、これゾ機能美的カッコ良さといわずなんと言おう。


使い勝手はピックアップ快適さはSUV
インパネは水平基調でシンプルなデザイン。ピックアップトラックだからプラスチッキーであるとか安っぽいという印象はまったくなく、豪華なSUVで通じるモノ。

運転席は電動調整式で前席はシートヒーター付き。フルオートエアコンは左右独立式だしオーディオだってこの手のクルマにありがちなスピーカーが2つかしかない! なんてこともない(編集部注:全グレードに6スピーカーが標準装備)。またエアコンの操作パネルは押したかどうか感覚でわかる物理スイッチで、これは手袋をしていても操作できるからより実用的。


一方後席も実用的どころか快適な空間に仕上がっているのも人気のヒミツだと思う。ピックアップトラックという言葉の響きからどうしても後席は「とりあえず付けました!」とか「とりあえず人は乗らない前提」などの「とりあえず席」っぽい印象を受けてしまうけれど、トライトンは違う。むしろ積極的快適空間なのだ。スペースは大人でも十分だし後席のためにサーキュレーターもあり、夏場でも我慢を強いられないはず。加えて後席ドアとリアガラスはUVカット機能付きプライバシーガラスが全モデルに標準採用される。


そして肝心の使い勝手はさすがピックアップといったところだろう。荷台には濡れたモノだろうが汚れたモノだろうが遠慮なくエイヤ! と置けるし、広さも身長175cmの筆者が斜めになれば寝転がれた。また試乗車はオプションのベッドライナー(荷台を覆う樹脂製のアイテム)とスポーツバー(荷台前方)が付いていたのでよりスタイリッシュな雰囲気だ。もちろん荷台のカバーも2種類用意されており、自分の用途で決めたいところ。


尻軽!? ぢゃない相方
走り出すと、そのイデタチから乗り心地は仕方ないかな、という概念がすぐに崩れる。いわゆるごくごく普通のSUV並でしかも上等な乗り心地の分類だ。そしてもうひとつ驚くことは後輪の接地感の高さ。ピックアップ含めトラックだと荷台に荷物を載せていないとポップでファンキーな印象でかなり跳ねる。それは制限速度で走っても道路のデコボコによってはカップホルダーのペットボトルが飛び跳ねるほど。さらにに加速体制に入っても駆動輪たる後輪に荷重がかからないので軽く感じるのが一般的。しかーし! トライトンは違った。未舗装路でもない限り走っていてもペットボトルが跳ねることは無いし、加速もしっかり安心感がある。これはかなりスゴいことだ。こりゃあ、新開発のラダーフレームと足回りがいいのだろう。もしかしたらリアはコイルとか、いわゆる普通の乗用車チックなモノかもしれないと確認したらなんと本格4WDの3種の神器でもあるリーフリジッド形式なり。う〜ん、スゴいぞトライトン。そして体感できるユーザーはごくわずかかもしれないが、オフロードでの乗り心地も重視されているという。

余談だが、このラダーフレームは20年ぶりの完全新開発。20年前の水準と比較しても曲げで60%、ねじりでも40%剛性が向上しているといい、しかもこのフレームはオトナの事情(グループ内のアライアンス的な)があったらしいが、トライトンとしてどうしても譲れないモノがあったので、三菱独自での開発にいたったといこだわりの逸品。
かような抜群の接地感をもつ後輪だと、クネッタ道も想像以上に楽しい。左右輪間の駆動、制動力を最適に制御するAYCと相まってこの巨体が曲がりたがるのだ。開発陣曰く、「車体の大きさを感じさせないほどの取り回しと軽快なハンドリングを実現した」という。タイトな低速コーナーでステアリングを切るとブレーキがかかってしまうような4WDは昔の話。トライトンは乗用車、いやはやりのSUV感覚で走れる。これだけ曲がってくれると舗装路は道路でなくターマック(編集部注:ラリー用語で舗装路のこと。対して未舗装路をグラベルやダートと呼びます)と呼びたくなる。
オヂサンは反応するグレード名
トライトンに搭載されるパワーユニットは4N16型と呼ばれる新開発の2.4リッターのディーゼルターボ。そのスペックは204PS、470Nmを誇る。ちなみにこのエンジン、2022年デビューの日産キャラバンにいち早く搭載されている。この図体をみると馬力はやや控えめか、と思わなくもないけれどトルクは十分。組み合わされるミッションはMTモード付き6AT。この手のクルマは大抵MTを用意するのだが、MT派の筆者も空しか見えないような坂道発進はさすがにしんどいからATは大歓迎だ。そして本格クロカン系モデルで大事なのはミッションとの相性と出力特性といわれ、特に未舗装路では安定したトルクのディーゼルの方が支持される。

街中ではこのトルクのおかげで加速に困ることはないが、シフトアップに古さを感じたのも事実。それは2速から3速、3速から4速へのシフトアップが約2000rpmでしか受け付けてくれないところ。それはMTモードにしても受け付けてくれず、普段一番使うであろう40~50km/hの速度域ではモサァーっと無駄にエンジンが回ってる感じになる。もう1速か2速ギアが欲しくなるが積極的に交通の流れをリードしたり、未舗装路に入ると気にならない。また新設計という電動パワステ採用でも本格的クロカン系にある曖昧さがあるけれどすぐに慣れた。高速では見た目通りのロングホイールベースもあって抜群の直進安定性を誇る。
未舗装路の走破性はイデタチからしても認めるところだが、三菱は戦後、警察予備隊の頃から4WDを作る老舗でもある。トライトンもそんな技術が惜しみなく投入されている。4WDメカニズムの詳しい話は専門誌に譲るけれど、それまでのビスカスカップリングからトルセンデフに変更された。トライトンはパジェロ譲りのスーパーセレクト4WD-IIを搭載。通常の2輪駆動(2H)から4輪駆動(4H)、ぬかるみや深い雪道に対応する4輪駆動(4HLc)、特に大きな駆動力を発揮する4輪駆動(4LLc)をセンターのダイヤルで操作可能。2H、4H、4HLcは走行中でも操作出来るのは便利で、高速走行中の雨でもより安心感のあるドライブに。

また走行モードは駆動方式によって数種類用意され合計7種と豊富。

さて。トライトンは豪華装備のGSRとベースモデルのGLSの2グレード体制。いずれもエンジン、ミッションといったパワートレーン系に変更はない。また試乗車のボディカラー、ヤマブキオレンジはGSR専用色、対してソリッドレッドはGLS専用色になっている。それにしても。GSRのネーミングに反応してしまうのがクルマ好きの悲しき性。GSRは三菱のスポーツグレードの筆頭で古いところでは初代ギャラン(1970年)から始まってランサーでは最も長く設定されたグレード名。つまりトライトンもピックアップモデルながらもスポーティ路線なのだ。想像以上に乗り心地も良く、旋回性も高い。悪路走破性は言わずもがな、だ。走りの面での唯一のネックは狭い駐車場だと全長を確保できる場所を選んでしまうところくらいか。
また、天は二物を与えずのことわざもあるとおり、維持の面でのネガもある。トライトンは「1」ナンバー登録になってしまう。結果、高速道路料金は2割り増しだし、車検も1年ごとだ。その代わりと言ってはなんだが、自動車税は激安の16000円、重量税も2t超なのに9900円とお安い。このあたりはユーザーの使い方によるので何が何でもマイナスとはならないと思う。
しかしトライトンはイカしている(死語)。さほどクルマに興味のないであろう子供から「あのクルマ、かっけえ!」と称賛が待っている(実話)ほど。
三菱
トライトン GSR
価格 | 540万1000円〜 |
全長×全幅×全高 | 5360×1930×1815(mm) |
エンジン | 2439cc直列4気筒ディーゼルターボ |
最高出力 | 204PS/3500rpm |
最大トルク | 470Nm/1500-2750rpm |
WLTCモード燃費 | 11.3km/L |