祝!! マジメなクルマ、フォルクスワーゲン・ゴルフが50周年を迎えたゾ! ゴルフR 20イヤーズに乗ってきた! ~後編~ 

コチラはハタチの特別モデル

フォルクスワーゲン(以下、VW)の代名詞とも言えるゴルフ。1974年にデビューした同車は50周年を迎え、今もコンパクトカーのベンチマーク的存在になっている。そしてゴルフの中でもうひとつ、アニバーサリーイヤーを迎えるモデルがある。それはブランド内でも特にスポーティモデルにだけ与えられるRの称号を持つモデルになる。

ゴルフ4に設定されたのがRの祖というべきR32。241PSを誇る3.2リッターV6エンジンに4WDを組み合わせたGTiの上をいくホットハッチ、いやスーパーゴルフとしてデビューした。まあ、V6エンジン搭載という面で元をたどればゴルフ3にあったVR6なのかもしれないが、R32こそ今日に続く正統なRシリーズの元祖なのだ。それから20年。夫婦だと会話も少なくなりけん怠期突入! といったところだが、VWは違う。Rは着実に進歩した。環境問題にも合わせ、6気筒だったパワーユニットも4気筒になり3.2リッターの排気量も2リッターへ。排気量ダウンによるパワー不足はVWお得意のターボ技術でカバーし、ネーミングも数字が外れて、「R」になった。

そのR32が日本へ導入されて20年のアニバーサリーイヤーに登場したのが、試乗車のゴルフR 20 Years(以下20s)だ。そんなVWブランドのゲキアツモデルをご紹介!(前編はこちら

皮を被りきれないオオカミ

ゴルフRはR32系(と言ってもスカイラインぢゃない)の最新モデルだ。そのRをベースに20周年記念ということで特別装備をおごったのが20sになる。そのイデタチは実用車然としてピリ辛なGTiを羊の皮を被ったオオカミとするならば、皮が小さくて被りきれてないオオカミと言ったところか。この手のクルマの魅力はいわば「ギャップ萌え」なのだが、20sは特別装備の大型化されたリアスポイラーが性能を物語り過ぎる。しかし20sに抜き去られた時に見るのはリア周りなので、おお! ゴルフRじゃないんだ、と納得できるのかもしれぬ。と空想の世界でウダウダ考えてしまった。

エクステリアを一周すると「ゴルフとは違うのだよ、ゴルフとは」といいたげな「R」のロゴは通常モデルと変わらずあるのだが、試乗車はブルーに塗られ、通常のRとも違う。何よりオプション設定されたラピスブルーメタリックのボディカラーがオシャレ過ぎる。Bピラーには20周年を表す20の文字が控えめにある。

ゴルフ史上最速のゴルフ

GTiはあくまでもFFゴルフの正統派スポーツハッチ。GTiと比べるとRは異端児なのだろう。そのスペックは2リッター直4ターボから320PSを叩き出す。しかし20sは単に20周年記念のバッヂやエアロをつけ、特別感を出しただけのありがちなモデルではないことに注目だ。エンジンは通常のゴルフRと同じモノだが最高出力が320PSから333PSになり、速度リミッターの介入も250km/hから270km/hにアップ。加えてRにオプション設定だったDCCを標準で装備する、いわば動的な魅力もトクベツ。ちなみにDCCはステアリング特性やサスペンションを電子制御し、走行モードでそれらを使い分けるカシコイ機構なのだ。

駆動方式はRモデル専用の4MOTION。このシステムは前後のトルク配分だけでなく、後輪左右のトルク配分を行い、旋回性能を高めている。

燃費アタックも楽しい!?

ゴルフシリーズとなんら変わらないエンジンスターターを押す。エンジンの目覚めた音が一瞬聞こえるがアイドリングは静かだ。シフトセレクターのツマミをイジってDレンジへ。力強いクリープ現象に構えつつも走り出すと拍子抜けするほどフツーだった。それは外から見たスポーティなエクステリアから受ける思い込みもあるかもしれないが、気合の入ったスポーツモデル風な印象は少ない。乗り心地もごくごくフツーのちょっと固めっぽく感じるドイツ車っぽいモノ。そしてボンクラな筆者でもすぐわかるのが戦車のようなボディの剛性感。道路がカワイソーになるくらい頑丈さを感じるぜ。さすがVW。

タウンスピードでは踏み込まない限り2000rpm以下で交通の流れをリードできる。ミッションは7速DSG。シフトの上げ下げは超絶スムース。どのくらいスムースかというと、定速巡行中に車間を調整するのにあらかじめアクセルオフにし、それでも車間が詰まる場合は後続車もいないしギアを落とそうか、という状況下。レーシングドライバーのごとくパドルを引いて1速ダウンするだけだと減速が足りない、もう1速、いや2速だ! といった感じに想像以上に高いギアに入っている。そのシフトアップは気づかないほど滑らか。シフトを落としての車間調整は慣れが必要なくらい。快適な移動体は高速でも変わらない。80km/hで約1500rpm、100km/hに速度を上げても2000rpmを超えるかどうか。その速度域で小一時間高速を流すと燃費はカタログ値を上回る16.6km/Lを記録せり。ステアリングにしがみついて最高速チャレンジをするよりも達成感に包まれる瞬間だった。

スペシャルなモデルのスペシャルなドライブモード

20sはRでオプション設定のDCCを標準装備しているのは前出の通り。15段階の調整機能を持つショックアブソーバーの美味しいところを使えるよう組み込まれたドライブモードはコンフォート、スポーツ、レース、カスタムの4つに加えてドリフト、スペシャルのふたつが追加されているのが特長。

運転していると追加されたふたつのモードを試してみたいと思うのが人情。そう思って日本初採用のドリフトモードの説明をディスプレイに表示させると、「閉鎖されたコース専用、相応の運転スキルがある場合のみ」という注意書きが。ムムムっ、いきなり高いハードルが。それならばスペシャルは、と気をとりなおし、レースと何が違うのか、と確認を含め参考までに説明を表示。すると「車両全体がニュルブルクリンクの北コースで最適なパフォーマンスを発揮できるようにウンヌン」しかも締めくくりは「北コースのようなスペシャルなコース特性をもたいないコースにはレースの方が適している」と。余計ハードルが高くなってしまった。

ニュルか……。〆切だけ忘れる筆者の脳裏にはそういえばVWはEVのIDでコースレコードを持っていたことを思い出した。さらにゴルフRでは2020年に記録したラップレコードがあるのだが、20sはそれを4秒更新し7分47秒31をマークしていた。このモードを試すにはGT-Rの父として知られる水野和敏氏の言葉ではないが日本のニュル、西部警察のロケでも使われた仙台ハイランドで走るしかないのか。あ、でも仙台ハイランドは今はなかったんだ……。筆者の弱いオツムをさらけ出してしまった。

「超実用的」でご機嫌なクルマ

一般公道ではスポーツかレースモードで高速からクネッた道へ。これがもう楽しいのなんのって。コーナーが連続する場面では間違いなく顔がにやける。腕のあるドライバーはより速度域の高いサーキットの方が楽しいのだろうけれど、筆者のようなボンクラは公道でも充分楽しい。そう感じさせてくれるのは前出の4輪駆動システム、4MOTIONがもたらす超絶安定志向。テーマパークの絶叫マシンって安全だから恐怖感(?)を楽しめるでしょ、そんな感じ。クルマが安定しまくっている、すなわち安全を感じられるから楽しい。もちろんクルマの限界は、はるか高いところにあるのは充分わかるけど。

加えてEA888と呼ばれるパワーユニットも「いとをかし」なのだ。evo4に進化したその賢いところは、アクセルから足を離してもスロットルバルブを継続的に開いておくことでターボのロスを極力減らすことができ、エンジンの美味しいところを積極的にクルマが使えるようにしてくれる。ブレーキも専用の18インチシステムで踏めば踏んだだけ減速してくれる。

ステアリングに設けられたR専用ともいうべき大型のパドルを引いてシフトダウンすればエンジン回転を合わせるブリッピングもしてくれる。その音も「良識」ある範囲でのレーシーさ。マフラーはデザイン性に優れ音質においてもユーザーから高く支持されるアクラポビッチ・チタンエキゾーストシステムのモノ。バイク乗りには馴染みのあるスロヴェニア共和国のエグゾーストメーカーのやつだ。

実用性は抜群、だってゴルフだモノ

かように走ることが楽しい20s、居住性も悪くない。インテリアデザインこそゴルフシリーズと共通だが、シートはナパレザーのバケット調を採用するなど特別感も高い。後席だってオトナふたりがキチンと長距離を乗っても苦にならないスペースは確保されているし、定員乗車しても充分な荷室のスペース(後席は分割可等式)もある。早い話が快適で使い勝手がいいのだ。それでいて速い。リミッター270km/hはサンデーレーサーの聖地、筑波サーキットのコース2000なら充分なほど。それだけのクルマが、構えずに普通に乗れてしまう。サーキットを走った帰りに近所のスーパーで大根を買いに寄れる。限界域は別として乗りやすくて速い、ゲルマン民族が作った戦車のような頑丈なボディ、これってもはやポルシェ? と思ってしまう。実際にオーナーの何%かはそういったクルマのオーナーでもあるという。

魅力抜群なのだが20s、ジツは20年前のR32同様に即日完売。しかし通常のゴルフRは691万2000円から購入可能。ファーストカーとしてもセカンドカーとしても使える万能ウェポン、一気呵成に回りながらもパワーの出方に色気を感じさせるエンジンを高回転域を使ってブレーキを踏みながらシフトダウンするときのブリッピング機能の絶妙さ、レーシーなエグゾーストノートを思い出してにやける筆者なのだ。

ゴルフR 20Years


価格792万8000円から
全長×全幅×全高4295×1790×1460(mm)
エンジン1984cc直列4気筒ターボ
最高出力333PS/5600-6500rpm
最大トルク420Nm/2100-5500rpm

フォルクスワーゲン
ゴルフR
問フォルクスワーゲンカスタマーセンター 0120-993-199

前編はこちら

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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