【腕時計を読む!#04】これがミルスペックだ──。

一機何億ドルもする最新鋭ジェット戦闘機から、ボルト、ナットにいたるまで、複雑な軍機構のなかで、正しい製品が正しい部署へ納入になるまでは、様々な問題が生じるであろうことは、容易に想像できる。それを解決するために軍では、行動の規範となるマニュアルや規格書であるスペックが、あらゆる面において整備されている。戦闘機などに較べればはるかに小さい存在であるミリタリーウオッチにしても、軍で使用される以上スペックが用意されているのはいうまでもない。

写真/WPPアーカイブ 構成/ワールドムック編集部

[アメリカ軍ナビゲーションマスター]

[アメリカ軍ウオッチマニュアル]

TM9-1575, War Dept., Apr.1945 このマニュアルでは、各時計は部隊での使用状況を明確にするため、手入れ、管理、部隊での修理、大掛かりな修理、部品交換等オーバーホールの履歴について詳細に記録をとるように求めている。

[イギリス軍スペック]

[イギリス軍ブロードアローの規定]

[戦場に持ち込まれた大きな修理用ボックスとマニュアル]

腕時計は人間の手や腕と同様、過酷な自然環境に裸でさらされなければならない。衝撃と埃や水、そして化学物質や、それと同等以上の耐久性能を獲得しなければ腕時計は兵士の忠実な伴侶とはならない。そうしたフィールドで使用する腕時計やポケットウオッチのメンテナンスのために、アメリカ軍は大きな修理用ボックスとマニュアルを戦場に運び込んだ。戦う人たちを守るために、小さなリュウズやゼンマイ、針等のパーツが戦場の片隅で兵士を待っていた。

ちなみに写真は、軍用時計の保守・修理マニュアル『TM 9-1575』。第二次世界大戦という激動の時代に、アメリカ国防省が兵士たちの「時」を守るために託したバイブルだ。ハミルトンやエルジン、ウォルサム、そしてブローバといった名門が戦地へ送り出した懐中時計や腕時計、さらには通信の要となるメッセージセンター・クロックに至るまで、すべての鼓動を止めぬための術(すべ)がここに記されている。単なる機械の解説書ではない。精緻な図解と写真は、時計の心臓部が刻むリズム、そしてクリーニングや注油、分解といった繊細な儀式を、戦火の傍らで執り行う修理工たちへの指針だった。戦場に時を止めた無数の時計たちが、再び時を刻み始めるための知恵の集積。このバイブルは今なお、アンティーク時計の愛好家や修理技術者の間で、当時の構造や修理手順を知るための貴重な資料として利用されている。

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