Decipher the watch #03

戦場の作戦飛行において、すべての兵士が同じ時間を共有する必要がある。時計は、リュウズを引き出して秒針を止めてある。「ハック」のかけ声とともに、リュウズを押し戻す。これで秒単位まで同じ運針をする時計を共有することができた。
構成/ワールドムック編集部 写真/WPPアーカイブ
「ハック」するためのマスターウオッチ
パイロットやナビゲーターが、秒単位による時間を共有するために、「ハック」できる時計が必要とされた理由が分かったところで、ひとつ疑問がわいたはずだ。いったいどの時計の時刻と時間を合わせたのかである。
そのひとつの答えになったのがAN5740である。この時計がハックするための空のマスターウオッチになった。
AN5740のスタイルは、ポケットウオッチタイプだったので携帯することができた。精度を重んじるマリンクロノメーターは、寒暖の差、振動、湿度、緯度の違いからくる重力の影響を避ける必要がある。だからAN5740も本来は、ジンバルを取り付けた金属ケースに収められていたのだった。
第二次大戦時代を迎えていたアメリカの時計会社で、マリンクロノメーター規格に合致する精度を出せる時計をつくれたのはハミルトン社だけになっていた。日差0.5秒の精度を発揮できた「ハミルトン・マリンクロノメーター モデル21」は、ハミルトン初の量産型マリンクロノメーターだったが、それはそのままアメリカ「初」でもあったわけだ。ちなみに「モデル21」は、1942年2月にわずか2個のプロトタイプをつくるのがやっとだったところからスタートして、ピーク時には月産546個を製造し、終戦時までには1万個を超すマリンクロノメーターを送り出したという数字が残っている。

今は「共有する」時代だ。あっちでもこっちでも「共有」している。共有することの目的はどこにあるのか。それはつながっていたいからにほかならない。
第二次世界大戦期のパイロットもつながっていたかった。彼らのつながりたい欲求は、格段に必死だったはずだ。目視で確認できない同僚機が、フライトプラン通りに飛んでいると信じる根拠は、時計しかなかったからだ。夜間飛行が可能になったり、複数機が同時に離陸して密集編隊を組んだりと、飛行機と飛行戦術が高度化するにつれて、秒単位で同一時間を共有することの重要性はますます高まる一方だった。
今から半世紀以上も前の時代に、つながるために使われていた時計にタイプA-11がある。時針や分針とともに秒針もダイアルの中央に位置している時計である。今なら珍しくも不思議でもない。だが、サボネット型懐中時計をベースにしていた当時の時計からすれば、スモールセコンドから中央3針にするだけでも特別だった。間接式センターセコンドは余分な歯車が加わるのでアッセンブリー作業が複雑になるし、コストが増す。もちろんムーブメントの厚みも増した。
そうした逆風を押し戻しても必要とされた「ハック」できる時計が、パイロットウオッチやナビゲーションウオッチと呼ばれた。このようにミリタリーウオッチは時計の非常識を常識に変える働きをしてきた。

グリシン・エアマン(Glycine AirmanⅠ)は米軍の正式なミリタリーウオッチではなかったが、ベトナム戦争中に、パイロットやナビゲーターに愛用された腕時計だ。24時間表示のダイアルとネジ止め式の回転ベゼル等が狭いコクピットでいろいろな操作を繰り返すパイロットから信頼された。ホワイト、ブラックの2種類のダイアルがあり、軍のPXで50ドルくらいで売られていた。
※写真は1967年11月、北ベトナムの爆撃のミッションを終えたE. コーカ大尉。タイ・ウボン基地で100回達成のポーズを決めた彼の左腕にはグリシンが輝いていた。Photo/USAF


































