
2011年、担当番組の放送中に東日本大震災が発生。その後、リスナーに落ち着いた行動を呼びかけた上柳昌彦さんによるラジオ放送は、災害時の放送対応の理想的な例として語り継がれている。当時、上柳さんはどのように自らを律し、リスナーの安全を考えた放送を行ったのか?(2025年9月16日号より転載)
写真/鶴田智昭(WPP) 文/下川冬樹

〈3・11の上柳さんの放送〉
2011年3月11日『上柳昌彦・山瀬まみ ごごばん!フライデースペシャル』の生放送中に東日本大震災が発生。ニッポン放送のリスナーに、避難行動や交通情報ライフライン情報を懸命に、しかし冷静・的確に伝え続けた。
有事の際にこそ人の声が持つ力を信じたい
外へ出た方がいいとは絶対に言わない

津波をはじめ想定外の災害被害が発生した東日本大震災。写真は震災発生直後の岩手・山田町だが、津波に強いと言われていた山田湾に面している同町でも、津波による死者、行方不明者が900人を超えた。災害を侮ってはならないことの戒めになっている。
「当時、本人としては必死ですよね」と15年前の放送を振り返ってくれた上柳昌彦さん。2017年にニッポン放送を定年退職し、現在はフリーアナウンサーとして『上柳昌彦 あさぼらけ』をはじめ、同局の番組のラジオパーソナリティーなどを務めている。
上柳「1981年にニッポン放送に入社しましたが、最初にラジオアナウンサーとして、地震が起きたらどうするかについての研修を受けました。その経験があったからこそ、東日本大震災発生時の放送中でも、何も見ることなく言葉が出てきたのでしょうね。せめてこのラジオを聴いている人にはケガをしないで生き残ってほしい。そうすれば何とかなる。そんな思いひとつで放送を続けていました」
逃げる道を確保できるように家の中も扉は開けておいて。クルマを運転している人は急ブレーキを踏まないで。ハザードランプをつけてスピードを落として停車してほしい……などなど。カーラジオを聴いている人にも、配慮した言葉を繰り出し続けた。
上柳「地震発生時は東京・有楽町にあるこのスタジオもかなり揺れていたので、最初は東京直下型が来たのかと思っていました。ましてや東北にあんな巨大な津波が来るなんて、凄まじいほど想定外です」

番組の女性出演者は、その場でパニックにならないよう、悲鳴を出したい気持ちを食いしばって堪えていたが、その姿を見て、上柳さんは自分も頑張らねばと気を取り戻し冷静な放送を続けた。
上柳「とにかく、うわずった声にならないよう心掛けましたね。情報を落ち着いて読むか、棒読みするか、切迫して読むか伝えるトーンを考えて話すのは僕らの仕事。そのとき僕は落ち着いたトーンを選んだわけですが、話しているうちに胃が痛くなりましたね。津波だから逃げろと伝えるのですが、自宅にいた場合その方にとって留まっていた方が良いのか、外に逃げた方が良いのか、非常に迷うところだと思うんです。そのことだけは常に頭にありましたね」
津波発生から3週間後にラジオカーという中継車で被災地へ取材に行き、被害の甚大さを目の当たりにした。
上柳「海に近いエリアはカーナビ上では町があるのに、現実のその場所には何も残ってないのです。その環境下で奇跡的に一件だけ家が残っていて話を聞くことができました。そのお宅は家に留まることで最悪の事態を避けられたようですが、クルマで逃げて大渋滞に遭い津波にのみこまれた人もいましたし、何が正解なのか本当にわからない。そういうこともあり、僕は災害関連の放送中に『外へ出たほうがいい』とは言わないんです。もう一度自分が寝ているところをチェックして、耐震基準を満たした家かどうか、そこが川に近いか、津波がすぐ来る場所かどうか。自分がどう判断したら良いかを、考えるきっかけにしてほしいと考えています」
なじみの声で安心を届けるのもラジオの役目

災害発生時に人の声が持つ力については持論がある。
上柳「阪神・淡路大震災で柱の間に挟まった人がいて、もういいやと諦めていた人が、隣の部屋にいた女性の声を聞いて我に返って “生きなきゃ” と思ったという話もありました。人間の声ってある程度の力を発揮すると思うんです。ただ、大事なのはその瞬間、落ち着いて話したほうがいいか、叫んだ方がいいのか。まだ記憶に新しいカムチャツカ半島沖地震でもそうでしたが、東日本大震災以降は、NHKと民放各社が協議して、津波に関してはある意味ヒステリックともいうべき、強めの口調で早く逃げることへの意識を促す方向に変わってきています。背景にあるのはとにかくみんなに生き延びてほしいという願いです。スマホで情報をとれる時代ですが、家族との連絡用にバッテリーを温存しておいてほしいとか。その意味でポータブルラジオは乾電池で長く聴けて常に情報を取れるので、持っていると便利だと思います」
防災ラジオの役割、価値は “なじみの声” にもあるという。
上柳「どのラジオ番組でも良いので普段からぜひ、なじみの声を持っていてほしいのです。震災から3週間後のtbc東北放送でパーソナリティが『久しぶりですね』とリスナーに語りかけていました。不安なときこそなじみの人の声を聴くと安心するじゃないですか。ラジオにはこういう役割もあるんだと気づかされましたね」
実際に、東日本大震災発生時に上柳さんの放送を聴いていたリスナーから後日、多くの感想が寄せられたという。

上柳「いつものあなたの声を聴いて落ち着いて行動が取れたよ、とよく言われました。リスナーのみなさんの次の行動を考えるきっかけになれたという点で、多少なりともお役に立てたのかもしれません。災害が発生するとテレビで刺激的な映像が流れて辛いという人もいると思いますが、そういうときに1曲かけられるのもラジオだったりするわけです。そろそろ曲にするか、とタイミングを見極めるのもラジオ屋の大事な仕事。本当に正解がないことを毎日やり続けているという感じです」
ところで、上柳さんご自身の災害に対する備えをうかがうと「ほどほど」と言いつつも、自宅では考え抜かれた備蓄を行っていた。
上柳「水はペットボトルで120L分くらい。もらったものをとっておいただけなんですけどね。あとは凝固剤入りの携帯トイレが大量にあります。それに缶詰や乾パンのローリングストック。家具は倒れてくるのが遅れるようにストッパーをつけていますし、災害発生時に部屋の中でガラスの破片を踏んでも大丈夫なようにすぐにスリッパが履けるようにしてあることぐらいかな。実は全部、妻が備えてくれているモノなんですけどね」


いざというときに命の支えとなる声
上柳さんに聞く防災ラジオインプレッション
持っていると想定以上に大活躍のポータブルラジオ。上柳さんが、編集部がセレクトした最新のポータブル防災ラジオをチェック。「スマホ世代はラジオの使い方を知らない。一度は家族で操作方法をチェックするなど日頃の備えが大事ですよ!」
使い勝手のいい操作部

AM/FMラジオの受信に、スマートフォンやケータイの充電、夜間や停電時に便利なLEDスポットライト装備と、普段使いはもちろん非常時に便利な機能を備えたポータブルラジオ。本体内蔵充電池への充電は手回し、USB AC、太陽光による3つの方法が可能だ。



問 ソニー 買い物相談窓口 0120-777-886

自宅にあるのがコレの古いモデル。東日本大震災のとき、僕は会社にいましたが、家族は自宅でこのラジオを使ってスマホの充電していたと言っていましたね。
常時携行可能なシンプルモデル

シンプルなポータブルラジオ。蛍光色ポインター&光るダイヤルパネル搭載で、暗い場所でも安心して操作できる。コンパクトボディにして、持ち運びに便利なハンドストラップ付き。単3型アルカリ乾電池2本使用で、スピーカー使用時はAM放送が最大約68時間、イヤホン使用時は最大96時間聞ける。常時携行ラジオとしてもオススメだ。

問 パナソニック 0120-878-982

昔ながらのボリュームを上げるとカチッと電源が入るタイプ。長時間聴けて、阪神・淡路大震災のときにもこのタイプで情報を得たという人がたくさんいました。
収納性の高いスリムモデル

防災リュックのなかにも収納しやすいタテ型のスリム防災ラジオ。ACアダプタ、ソーラー、手回し、乾電池、内蔵充電池の5WAY電源に、AM/FMラジオ、LEDランタン、Bluetoothスピーカー、SOSアラームの5つの防災機能を搭載。インテリアにとけ込みながらもしっかり備える新しい防災のカタチを提案。



問 ±0

ランタンにもなるし、SOSにも使えるオシャレなラジオと言えます。太陽光も使えて端子がUSB-C対応、ハンドルが軽く回せるのも良いですね。
いまだワンセグは健在!

手回し充電に対応する持ち運べるテレビ・ラジオ。AM/FMラジオのほか、テレビのワンセグ放送を受信、視聴できる。使用する電源は単3形乾電池×3本、内蔵バッテリー、ACアダプター、モバイルバッテリーの4タイプに対応。長期保管対応の内蔵バッテリーを採用し、備蓄用としても最適だ。



問 マスプロ電工

以前はテレビ音声をFMで聴いたり、ワンセグも使っていました。このコンパクトさでラジオに加えてテレビからも情報が取れるのがいいですね。
3月7日(土)~3月13日(金)
ニッポン放送で防災ウィーク

生放送でオンエアされている。
毎週月曜日:午前5:00~6:00
毎週火~金曜日:午前4:30~6:00
東日本大震災から15年、ニッポン放送では、東日本大震災が発生した3月11日を含む3月7日(土)~3月13日(金)に「ニッポン放送 防災ウィーク」を設定し、各番組で防災に関する放送・企画を実施。日頃の備えの重要性を発信していく。
上柳氏がパーソナリティを務める『上柳昌彦 あさぼらけ』では、下記の内容を予定している。
■3月10日(火) 上柳氏が福島を事前取材し、レポートをお送りする。
■3月11日(水)「あけの語りびと」のコーナーで福島・双葉町(ふたばまち)にある震災伝承施設の「東日本大震災・原子力災害『伝承館』」の語り部として、浪江町の主婦・岡洋子さんを紹介する。岡さんは県内外の小学校などで紙芝居による震災の語り継ぎ活動を続けており、「震災は終わっていない」と呼びかけるとともに、震災の記憶と教訓を風化させないように、後継者育成にも取り組む姿を紹介する。
■リスナーからの「災害に対する備え」に関するメッセージも紹介。

上柳昌彦さん
うえやなぎ・まさひこ 1957年生まれ、大阪府出身。フリーアナウンサー。1981年ニッポン放送入社。2017年フリーに。現在は同局の早朝番組で2500回以上続く『上柳昌彦 あさぼらけ』、『笑福亭鶴瓶 日曜日のそれ』などに出演中。趣味はスポーツジム通い。


































