実用的で優しい相棒 ボルボ XC90で長距離を試乗!

大ヒット長寿モデルがマイチェンしたゾ

洗練されたイメージと高い安全性で人気のボルボ。昨年のデータでは同ブランドの年間販売台数は76万3389台と過去最高を記録するなどそのモテ具合を証明している。そして世界中で大ヒットしているのがフラッグシップモデル、XC90だ。モデル自体は2002年に初代がデビューし、現行モデルは2015年にフルモデルチェンジした2代目。高価格帯にも関わらず累計100万台をリリースする主力艦を体験してきた。2代目の現行車はデビューから10年経過し、その魅力に磨きをかけるカタチで今年の2月にビッグマイナーチェンジ。10年選手でありながらも今もSUVブームの中心にいるのがXC90なのだ。そして同車は国内で販売されるボルボ唯一の3列シートを持つモデル。3列シーターを目玉にしているSUVも増えてきたが、大人もキチンと乗れ、かつ3列目の「安全性」を謳う、いや謳えるモデルは数少ない。その数少ないモデルの一つでもある。試乗車は外部充電可能のUltra T8 AWDプラグインハイブリッド。

スタイリングは前述の通りマイナーチェンジ(以下マイチェン)でフロントフェンダーから前が大幅に手が入った。グリルデザインも変更され縦方向だけだった模様が斜線を使ったモノに。どことなく日本の風呂敷の畳み方にも見え、一方的に親近感を持ってしまった。

「神は細部に宿る」と西洋で古くから芸術家や建築家が使っていた格言で、発表会の時も重要なキーワードとして登場していた。これが非常に深い意味を持つと思う。もちろん細部までこだわった作品は云々という意味合いなのだけれど、XC90の場合はもうひとつ踏み込める。例えば最近のボルボ車の流儀でもあるトールハンマーをイメージしたヘッドライト。凡人な筆者はトールハンマー風なんだ、ふーんで終わってしまう。しかしそれはトールさんのハンマーではないし、あるかどうか分からないけれどトール型のハンマーでもない。これは北欧神話に出てくる神、トールが持つハンマーがモチーフで、トールはオクソール(車を駆るソールの意)とも呼ばれる。神話の中ではハンマーはミョルニルと呼ばれている。北欧のクルマらしくクルマを駆る神、すなわちボルボなのだ。ちなみに北欧神話はJ・R・R・トールキンの「指輪物語」(ロード・オブ・ザ・リング)のモチーフになった作品でもある。その他にも内外装がリアファインされている。

使えて高い安全性の3列目は必見!

乗り込むとさすがに狭さは感じない。それに上質だ。あくまでも上質。華美にしないところがボルボらしい。ほどほどなのだ。ほどほどといってもナッパレザーのシートやノーベル賞でお馴染みのオレフォスのクリスタルシフトノブなど目から入る部分での豪華装備には抜かりがない。

940の頃のボルボはかなりプラスチッキーで質実剛健な内装の雰囲気であった。手袋をしても操作できるとか諸説あるが、今や手袋はそのままでも「声」だけでカーナビやエアコンなど必要な操作ができてしまう最新のインフォテイメントを備える。

2列目は4:2:4でスライド、リクライニングといった調整が可能だし、そのセンターはジュニアシート対応。空調は2列目以降に対応するよう独立したコントロールパネルが備わる。もちろん後席左右にはシートヒーターも。

そして同車の魅力のひとつでもある3列目。3段階前後調整可能な2列目を一番前に出せば、2列目、3列目とほぼ同じ足元スペースになる。シートサイズは大人が座っても十分だし、背もたれサイズも大きいのは実用的。身長175cmの筆者が座っても、ヘッドレストも大きく安心感があった。座面の間にモノ置きもあり、いわゆるカップルディスタンスも十分確保されていたのも好印象。サイドにはカップホルダー、フタ付きの小物入れ、エアコンの吹き出しもキチンと用意されていた。

筆者は3列目も経験したが「修行」と揶揄されるような3列目だが、ことXC90にとっては十分快適だったことは声を大にしたい。ネックはクネッタ道だと掴まるところがないので大きな左右の揺れには弱かったことくらい。また小ぶりでもいいのでセンターにアームレストがあるとさらに嬉しいと思う。

しかしながら。3列目のヘッドレストは他のシート同様のサイズ感で、乗っていても安心できる。冒頭にも述べたようにXC90は3列目の高い安全性を積極的に謳う数少ないモデルで、日常的に5人以上乗る、あるいは頻繁に3列目を使うようなユーザーには間違いなく推しの一台。

巨体を感じさせない加速

試乗車のパワーユニットは2リッター直4ターボに外部充電可能なハイブリッドを組み合わせたモノ。エンジンスペックは317PS、400Nmと数値だけを聞くとかなりのカリカリチューン(死語)。なんせリッター100PSを軽ーく超えているのだからして。そんな高出力ユニットに前後モーターが組み合わされているのだから遅い、とかタルい、とかは別の惑星の言葉のように程遠い加速力を体感できる。

プラグインハイブリッドシステムはバッテリーの残量に余裕があるかぎりモーターだけでの走行を優先する。ゴーストップの多い都市部では意識して踏むことがないので気分的にラク。つまりリラックスして運転できる。満充電ならモーターのみで76kmの走行が可能。残念ながら急速充電には対応していないけれど、出先に普通充電設備があればガソリンを使う必要性がないほどの距離だ。

高速でもどっしりとした走りの印象で安定感も抜群。今回の試乗ルートで走った中央高速などのアップダウンが多いコーナーはパーシャルスロットルのままで登り坂でも速度維持できるし、登り坂途中で少し踏みたすだけで速度差のある右車線へ軽く車線変更できたり、その流れをリードできたりしてしまう。マイチェンでドライブモードの選択もワンアクションでアクセスできるようになったのも、細かいとこではあるけれど便利になった。そしてもうひとつ。120km/h巡航の高速走行時の静粛性がかなり高いのもびっくり。

一方、クネッた道。スポーツモード相当の「POWER」モードに。木綿豆腐のような巨大なカタマリが曲がろうとする印象にびっくり。ボルボだから、レンガの方がしっくりとくるかもしれない。ともかくAWDと巨体、ということを考えてもしっかりと狙った通りのラインを走れる。

その昔にボルボはFRしか作っておらず、意外にもFRにこだわったメーカーとして知られた。その理由は厳寒の地でアクセルは第2のステアリングである、というポリシーから。例えば旋回中に膨らんでガードレースが迫った時、サイドブレーキを引くか舵が効くのをただ待つしか方法はないけれど、早い段階でガバっとアクセルを踏んでテールスライドに持ち込めば心理的にも安全な挙動になるはず。その考え方は今も受け継がれているようで、AWD車になっても後輪の方がパワフルな味付け。しかしながらタイトなワインディングよりも高速道路のコーナーを抜けていく方が気持ちよく走れたし、クルマのキャラクターにも合っているような気がする。もちろん筆者の腕が未熟なのはよーくわかるけれど。

今回は東京ー福井間の往復1000kmを超える大移動。高速6割、一般道2割、山越え1割、渋滞1割でトータルの燃費は約11.2km/L。2.3tの重量級に6人乗車を考えればかなり良かったと思う。また今回、車両のナビを使わなかったのもカタログ燃費に届かなかった理由かもしれぬ。刷新されたGoogleが組み込まれたAndroid搭載のインフォテイメントシステムにある音声操作可能なナビは速度や交通量、標高差などを考慮し、車両エネルギーをより有効に使うよう走行距離全体に配分してくれる賢いモノ。これを最初から使っていれば燃費はもう少し伸びたのかもしれない、と悔やまれる。

ほどほどを美徳とするスウェーデンのラーゴム精神。この「ほどほど」は気を使わない空間、頑張りすぎない、の意も含み、さらには必要なモノだけ必要な分まで、という解釈もできる。華美にせず、動力性能だけを追求しない、ある種のユルさこそボルボブランドの魅力のひとつと思うのだ。

XC90
Ultra T8 AWD Plug-in hybrid

価格1294万円〜
全長 × 全幅 × 全高4955 × 1960 × 1775(mm)
エンジン1968cc直列4気筒ターボ
エンジン最高出力317PS/6000rpm
エンジン最大トルク400Nm/3000-5400rpm
フロントモータースペック52kW/165Nm
リアモータースペック107kW/309Nm
WLTCモード燃費13.3km/L

ボルボ
XC90
問 ボルボ・カスタマーセンター 0120-55-8500

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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