バ「ス」じゃないのバ「ズ」なの
今のところ正規輸入される完全な電気自動車としては唯一の3列シートを持つフォルクスワーゲンのBuzz(以下バズ)。本webの津川御大による的確なレポートにあるバズで山越えを含む長距離体験をしてきたのでご報告。

さてバズは往年のビートルであるタイプ1のワゴンモデル、タイプ2(コチラは頭文字に「T」が入る)の初代モデルT1(ややこしい)をオマージュしたクルマ。

T1はワーゲンバスの愛称で今も親しまれているけれど、現代のバスはバズなのだ。
バズは初期の鉄人28号の「トンガリお鼻」をつけ忘れたようなフロントマスクで、丸いライトもないけれど、ワーゲンバスだよね、と聞かれたら間違いなく頷いてしまう。これぞデザインの妙ってやつかもしれない。なおフロントマスクは開閉可能でウィンドウォッシャーの補充など日常のメインテナンスに対応。


バズに乗ると「なんとなく」の楽しさが第一印象。ディズニーの代表的な楽曲「小さな世界」が流れると、なんとなく笑顔になってしまうような感じだろうか。座るとなんとなく楽しい。この「なんとなく」感がたまらない。想定される競合他車だと豪華さやハイテク技術を前面に出していて乗り手はなんとなく「革靴」とか「キチンと」なキーワードが浮かびそうだが、バズはスニーカーでOK、楽しく行こうよとクルマが言っているようだ。
音楽の父として歴史に名をのこすドイツの音楽家、バッハ。彼は当時オペラを描いていないので地味な存在と言われつつも一途に音楽に向き合う職人気質で、交響曲やソナタの音楽スタイルの原型を作ったレジェンドとして知られる。一方T1も同じ一途にクルマに向き合うドイツのマイスター集団が手がけた。バッハもVWもある意味クラシックの2大巨頭かもしれない。バッハはレオポルト侯爵の付き添いで現在のチェコにある温泉地を訪れた以外はドイツを出たことがないとされるが、T1はドイツ以外にも輸出され、場合によってはアルプスの山越えだってしちゃう。余談だがバッハは音楽の母とされる同年代のヘンデルとは面識もなく共通項(?)は同じ眼科医にかかって手術が失敗、視力の大半を失うことになったことくらいといわれている。閑話休題。構える必要なしなバズの気軽さはバッハの楽曲がすべて長調になったようなモノかもしれない。わーい!

「乗る」よりも「入る」車内
試乗車は津川御大がドライブしたノーマルホイールベース車。バズはもう一つロングホイールベースの計2モデル体制。ホイールベース(前輪と後輪の距離)が違えばクルマの長さも変わるわけで、クルマの長さが変われば搭載できるバッテリー量も変わる。バッテリーの量が変われば当然航続距離も変わるという分かりやすいモノ。カタログでの航続距離はそれぞれ524km、554kmとなっている。精神衛生を考慮すると400kmくらいと思えば間違いない。そしてノーマルホイールベースは6人乗りで後者は7人乗り。
現行のステップワゴンよりも全長が短いバズだが、室内はかなり広く感じる。ロングホイールベースだとパノラマガラスルーフがオプションできるのでより開放感はあるが、通常モデルでも狭さはない。空間自体が四角いのでクルマに乗るというよりも小部屋に入る感覚。左右の大きな電動スライドドアは開口部が広く、グリップもあるため乗り降りしやすいのだけれども、雨天時はドアが開くとボディから勢いよく雨が垂れてきたことも。
インパネはシンプル。センターの大きなディスプレイにはナビ機能はなく、ナビを使う時は自分のスマホとペアリングする必要がある。しかしながらクルマの雰囲気的にはナビよりも地図の本の方が似合うような気がする。寄り道を少し楽しもう、というようなのんびり感。なお3列目まですべての席にUSBポートが用意しているあたりなどはさすがドイツ流完璧主義。



3列目のアームレストにはちょっとした遊び心も。遊び心といえばアクセルやブレーキペダルにも楽しい柄が採用されている。アクセルは再生マーク、ブレーキは停止マークがロゴになっているのだ。

肝心なシートスペースは前席はなんと左右にアームレストがあり、昭和の特急列車みたい。485系の肘置きというとわかりやすい? そしてミニバンの上席とされる2列目はさすがに広い。試乗車は前述のように6人乗り。センターウォークスルーも可能な独立シート。3列目は後輪があるため若干センターよりに配されるが、スペース的にまったく不満はないレベル。



バズが発表された時に都内を軽く3列目で試乗した時に背もたれの調整ウンヌンと書いたのだが、ジツはキチンとリクライニング機能は付いていた。ただし車内側からではなく、荷室側からの操作になるようだ。あらかじめ自分用に調整しておけば普通にオトナでも「使える」シートだった。不満は2列目も同じだけれど、クネッた道を走った時にルーフグリップがなくどうやって体を支えるか、ということだけ。イケイケなクルマのベクトルではないし、素性はワーキングビークルでもあるので、このあたりは試乗の際に確認したい。
シートアレンジはよく工夫されていて実際に使いやすい。また3列目はそこそこの重量だけれど脱着が可能。3列目を使った状態でも荷室は想像よりも狭くなかった。



走りは映画だ!
IDシリーズ共通の前に捻るシフトをDに入れ、スタート。クリープ現象もあり、構えるようなスタートではなかった。街中での加速は遅い、と感じることは皆無。ただし40km/h付近のタウンスピードで路面状況が悪いとサスの硬さがあからさまに感じられた。定員乗車や荷物を載せると変わるのかもしれないけれど、少なくとも2、3人だとそんな印象だった。

なおこのシフトダイヤルは前に回すと「D」レンジで、もう一度回すと回生ブレーキが強くかかる「B」レンジ。「B」レンジで走って「D」レンジに戻そうとするとなんとなく前に回したのだから手前に回したくなるが、手前に回してしまうと「N」レンジに入るので、シフトを操作する時は注意したい。
今回の試乗は東京から新潟へ。片道約300kmの行程。往路は一般道メーンで一部高速からの山越え。復路は高速メーンでの走行だ。借り受け時は100%あったバッテリーも細々と用事を済ませたら80%に。80%で早朝に都内を出発。高速の渋滞を避けるため国道を使い宇都宮方面へ。渋滞解消地点から高速へ。この時のバッテリー残量は52%。電費は5.6km/kWhを記録。やはりEVは高速よりも多少加減速のある一般道の方が電費は伸びる。東北道、都賀西方PAで充電。目的地までの絶対的な距離では充電の必要がないのだが、この後のいろは坂、金精峠を抜けての日本ロマンチック街道に至るくルートを考えると保険をかけておきたい。なんせ金精峠を抜けるまではほぼほぼ上り坂しかなく、しかも6人乗車。そこを考えるとどうしてもバッテリー残量は80%付近にしておきたい。宇都宮市内の天下無敵のPCAで充電も考えたのだが、都賀西方PA(下り)は文字通り高速の90kW規格の充電器がある。
充電時に注意しておきたいのは、充電ポートが右後ろにあること。ジツは筆者、充電中にうっかりスライドドアを開け、ドアは何事もなく下がっていくことに気づい時点で止めた経験が。

軽い食事と交通情報、お土産でも見ていれば30分の充電時間はさほど苦にならない。バッテリーは80%に回復。ヲーシ! これで精神衛生上不安なく登っていけるはず。80%で都賀西方をスタート、いろは坂に突入。約9.5kmの上り坂を登るバズ。筆者はもっと遅い(失礼)と思っていたが、どうしてどうして。エンジン、いやモーターレイアウトも往年のタイプ2と同じRR方式でモーターのスペックは約286PSあるし、トルクだって560Nmもある。トルクフルな走りで上り道でも加速体制に入るため、ついついアクセルを踏みたくなってしまうがバッテリー残量を考慮してガマンガマン。実際はセオリー通りの加減速なのだが気づくと想像以上に速度が出ていることも。するとクルマの姿勢変化は当然大きくなる。1列目はいいけれど、前述のように後席はルーフグリップがない。クルマ自体はこの図体でもストレスなく加速できるけれど、ゲストを乗せている時は要注意だ。
そして丸沼高原でトイレ休憩をする頃には、なんとバッテリー残量が38%に。ちなみに充電後の電費は2.3km/kWh。うーむ。やはりEVでの山越は事前にキチンと充電スポットを調べておく必要があることを身をもって体感。180km近くの航続距離が表示されるが、保険をかけて道の駅で充電。にわかEV乗りの筆者はこの匙加減が下手っぴである。しかしながらそこそこ大きな道の駅はいろいろなモノが充実していてやはり30分の充電タイムは苦にならない。
目的地に到着。メーカーが提唱する目的地充電タイムだ。にわかEV乗りは普通充電で時間をかければ100%になるだろうと思い込んでいたのだが、車内のディスプレイで充電量を調整し忘れ、時間をかけても80%で終わっていた。ディスプレイ表示は推奨は80%とあるので大丈夫といえば大丈夫なのだが、普通充電なら100%にしたかった。
走りよしなバズは目立つ。もっと派手目なMCプーラの乗った時よりも善良な方々に見られる気がする。

止まっていても走っていても同様で、クルマの雰囲気と相まって映画のワンシーンにいるようだ。もちろん筆者はエキストラの通行人だが。
映画といえば、車庫入れ時などに身を乗り出そうとか、少しでもお尻を上げようモノならばバズは容赦なく自動的に「P」レンジに入る。すると多かれ少なかれショックがある。ドライバーとしては「P」レンジに入らない前提の動作なのでこの「P」レンジ攻撃は不意打ちに等しい。筆者は慣れるまで極力目視したいので、まるでお尻を上げると爆発するようなパニック映画的な雰囲気で何度か車庫入れをした。
丸いライトじゃなくてもワーゲンバスの雰囲気抜群なバズは乗れば楽しいラテン系。クルマの存在自体が目立つので移動販売車やPR車両としてもありかも。

ID.Buzz Pro
| 価格 | 888万9000円から |
| 全長 × 全幅 × 全高 | 4715 × 1985 × 1925(mm) |
| モーター最高出力 | 210kW |
| モーター最大トルク | 560Nm |
| 一充電航続距離 | 524km |


































