「こんな写真はじめて見た!」のオンパレード! 2023年を代表する特撮書籍『平成ガメラ造型写真集』を中沢健がレビュー:特撮ばんざい!第30回


2023年に発売された特撮関連書籍の中でも1、2位を争う話題を呼んだのが『平成ガメラ造型写真集』。いままで多数発売された平成ガメラ関連書籍の中で、この本の何が特撮ファンをうならせたのか? アニメ『GAMERA -Rebirth-』も好評で、人気が再燃する平成ガメラの造型写真集を、平成ガメラを愛する作家・中沢健が解説した。

文/中沢 健

いきなりこんな言葉から書き始めてしまうと誤解を招きそうな気もするのだが、『平成ガメラ造型写真集』というタイトルでは、この本の魅力を100%伝えきることが出来ないかもしれない。

『ガメラ2 レギオン襲来』の札幌に出現したガメラ。

本書に収録されているのは特撮ファンからは「平成3部作」と呼ばれ、もはや神格視までされている『ガメラ大怪獣空中決戦』(1995)『ガメラ2レギオン襲来』(1996)『ガメラ3邪神覚醒』(1999)の3本と、その後に作られた今のところ最後のガメラ映画『小さき勇者たち〜ガメラ〜』(2006)。更には、『ガメラ生誕50周年記念映像』といった平成という時代に作られたガメラ作品の造型物(着ぐるみだけでなく、飛行用モデルやマペット、雛形など映画に使われた様々な造型物)が大量に紹介されている。

最後には平成を飛び出して、今年の9月からネットフリックスで配信が始まったアニメ作品『GAMERA -Rebirth-』のデザイン画まで収録されているのも嬉しい。

『ガメラ 大怪獣空中決戦』のガメラに襲い掛かるギャオス。

これまでは『平成3部作』『小さき勇者たち〜ガメラ〜』『ガメラ生誕50周年記念映像』『GAMERA -Rebirth-』は、別々に紹介されることが多かったし、ファンも別物として見ているところがあったと思う。だが、造型やビジュアル的な方向から追いかけていくと、平成以降のガメラは共通するスタッフが多く手掛けられていて、繋がりも強く感じられたのは発見であった。例えば、怪獣の造型やデザインを手掛ける高濱幹(たかはま・かん)氏は本作で紹介されている全てのガメラ作品に参加している。

平成以降のガメラは共通するDNAを持つ兄弟のような存在だったのだ。

平成ガメラは多くのファンから熱狂的に支持されている作品のため、マニア向けの豪華なムック本も過去に何冊も発売されてきた。

そのため造型物の写真も、まだ未見のものなんてあるのだろうかと思っていたのだが、これがあるある。「こんな写真はじめて見た!」のオンパレードであった。

『ガメラ3 イリス覚醒』より渋谷に出現したガメラ。

それにしても驚かされるのが1本の映画を完成させるためには、これほど多くの造型物が必要ということだ。

造型物の量が増えるのは、それだけ多くの画作りが求められていたということである。

一体の着ぐるみでは撮影することが出来ないシチュエーションが豊富に存在しているのだ。

本書を読んで、私が驚き、そして感動したのは「造型物が増えたのは予算が少なかったから」という事実である。

予算が多かったからではない。少なかったからこそ、多くの造型物が作られた。

『ガメラ 大怪獣空中決戦』より、ガメラの口内を作る織田尚。織田は深作欣二監督作『いつかギラギラする日』で原口智生と出会ったことをきっかけに、本作に参加。

これだけを聞いても意味が分からないという方もいるかもしれない。

様々なシチュエーションを撮影するためには、美術セットも多く必要になる。だが予算も少ない状況では美術セットも小さく作る必要性が出てくる。そうなると、小型化したセットに合わせて、怪獣も新たに造型する必要が出てくるのだ。

限られた予算の中でも魅力的な絵をバリエーション豊かに作りたい。そのあがきが造型物もどんどん増やしていったのだ。

決して潤沢な予算がある中で作られた映画ではないので、ギャオスの腐乱死体を作るために大量のフライドチキンを買ってきて、造型部と美術部の人たちで食べて残った骨を乾燥して使用したというような涙ぐましいエピソードも続出する。

また急遽必要になったため、一晩で作られた造型物も少なくないという事実にも驚かされる。

『ガメラ2 レギオン襲来』より、ガメラの腕を制作中の髙濵幹。髙濵はその後のガメラシリーズにも参加し、『GAMERA -Rebirth-』のデザインも手掛ける。

このような事実が次々と判明するのは、本書のテキストのおかげだ。

そう、本書は写真だけでなく、文字量も凄いのだ。

冒頭で書いたように、『平成ガメラ造型写真集』というタイトルでは、この本の魅力を100%伝えきることが出来ないかもしれないと感じた理由のひとつが、そこだ。

「写真集」と聞くと、どうしても文章は必要最低限のものしか無いように誤解してしまう人もいるのだろう。マニアックな解説や、関係者のインタビューも大量に収録されている本書の魅力が伝わらない可能性もあると思ったのだ。

また、『平成ガメラ造型写真集』というタイトルは、例えば『平成ガメラ写真集』といったようなタイトルよりもマニア向けの1冊という印象も与えてしまうかもしれない。

造型や特撮の専門的な知識をある程度は既に持っている人が読む本だと思って、手を出さずにいるライトな怪獣ファンもいるのではないか。

しかし、ガメラ映画を作るための創意工夫が丁寧に解説されている本書は、マニア以外の読者にとっても「特撮」や「造型」の面白さを知る入門書のような魅力も持ち得ている。

そういえば、「平成ガメラ3部作」が公開されていた頃に、模型誌や映画雑誌では「子供と怪獣マニア以外の人が観ても楽しめる万人に分かりやすい娯楽映画になっている」という言葉が多く使われていた。

一見マニアックなようで、実は誰でも入り込みやすいのが、平成ガメラだった。

本書も、映画同様に、一見マニアックなようで、誰でも楽しめる1冊になっていると思う。

700点以上の貴重写真を、造型スタッフたちが解説!

「平成ガメラ」造型のすべてがわかる決定版!

『平成ガメラ造型写真集』

ホビージャパン刊/4,180円/A4判/オールカラー224ページ/発売中

平成期に作られた『ガメラ 大怪獣空中決戦』、『ガメラ2 レギオン襲来』、『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』、『小さき勇者たち~ガメラ~』をメインに、着ぐるみの特写や、初公開も含むメイキング写真をまとめた究極写真集!

公式ページ

©KADOKAWA NH/1995
©KADOKAWA NHFN/1996
©KADOKAWA TNHN/1999

<プロフィール>
中沢健(なかざわ・たけし)
作家・脚本家・UMA研究家。怪獣オタクの青年が主人公の恋愛小説『初恋芸人』で作家デビュー。今作は後に、NHKで連続ドラマ化された。その他の著作に『平成特撮世代』『茨城の妖怪図鑑』『となりのUMAランド 写真で見る未確認生物図鑑』などがある。
円谷プロの特撮番組『ウルトラゾーン』や、インドネシアの特撮ヒーロー番組『ガルーダの戦士ビマ』など、特撮作品の脚本を手掛けることもあり、最新作は、2024年公開の村瀬継蔵監督作品『神の筆』UMA(未確認生物)研究家として、メディア出演も多く、2019年にはネッシー捜索の模様が劇場映画化もされた。
中沢健Xアカウント

関連記事一覧