総勢40名の証言から現在のウルトラマンが戦う意味を検証!! 『ウルトラマン ニュージェネの証』著者・切通理作さんインタビュー(前編):特撮ばんざい!第41回


2024年1月31日に発行された『ウルトラマン ニュージェネの証』。批評家・切通理作さんの新刊で、『ウルトラマンギンガ』から『ウルトラマンジード』までのニュージェネレーションシリーズ前半5作品に携わった総勢40名もの番組関係者たちにインタビューを敢行。舞台裏の証言から新しい時代のウルトラマンの真髄を読み解いていく本書について、著者の切通さんにお話を伺った。今回は『ギンガ』『ウルトラマンギンガS』『ウルトラマンX』までのお話をお届けする。

取材・文/今井あつし

【後編はこちら】
総勢40名の証言から現在のウルトラマンが戦う意味を検証!! 『ウルトラマン ニュージェネの証』著者・切通理作さんインタビュー(後編):特撮ばんざい!第42回

●新シリーズならではの高揚感に溢れた『ギンガ』

以前からニュージェネレーションシリーズの放送に合わせて、雑誌『ハイパーホビー』で番組関係者の取材記事を連載していたんですよ。残念ながら2020年に『ハイパーホビー』が休刊となり、版元の徳間書店が特撮関連の出版事業から撤退することになってしまった。それから版元さんを探したのですが、円谷プロダクションさんの仲立ちもあって、改めてニュージェネのインタビュー集の書籍化を企画してくださったのがホビージャパンさんです。

気がつけば、ニュージェネシリーズも10年もの歴史が積み重ねられて、作品に携わった人たちも膨大な数に上る。今回の『ニュージェネの証』はひとまず『ウルトラマンギンガ』(13年)から『ウルトラマンジード』(17年)までの5作品で区切ることになりました。

本書の構成に関して作品順に各インタビューを掲載する案もありましたが、複数の作品にまたがって参加しているスタッフの方も多く、担当編集者さんと話し合ってカテゴリ分けにすることにしました。本書は監督枠として『ギンガ』のアベユーイチさん、原口智生さん、石井良和さんの順番で始まります。

このお三方は『ウルトラマンメビウス』(06年)にも携われていたので、平成ウルトラマンからニュージェネに至るまでの流れを追体験できる内容にもなっている。石井さんは『ギンガ』で助監督から監督になり、『ウルトラマンギンガS』(14年)ではレギュラー監督になっています。新シリーズを立ち上げる際の高揚感がダイレクトに伝わってきますよね。

怪獣退治の専門チームが存在せず、誰も怪獣やウルトラマンのことを知らない、我々の現実と地続きの世界観ですよね。その中でギンガと相対する怪獣はいずれも邪悪な心を持った人間が変身した姿であり、ヒカルもまたスパークドールズを使ってギンガのみならず怪獣に変身できてしまう。そこで問われてくるのは心の在り方です。

本書にはメインライターの長谷川圭一さんのインタビューも掲載しています。アニメ監督の雨宮哲さんは『ギンガ』を視聴して、長谷川さんに『SSSS.GRIDMAN』(18年)の脚本をオファーされましたが、〈閉じられた世界〉の中で〈人間の歪んだ心〉が怪獣とリンクする作劇を見込まれてのことだったのかもしれません。

『ギンガ』シリーズ構成の長谷川圭一さんのインタビュー。

●ニュージェネの方向性を決定付けた『ギンガS』

『ギンガS』はより緻密なミニチュアワークが堪能できる、ニュージェネの方向性を決定付けたシリーズですよね。

メイン監督を務めた坂本さんは『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(09年)でグリーンバック合成主体でのアクション活劇を全面展開しましたが、『ギンガS』以降ではミニチュアワークを主体にした伝統的な円谷プロの作り方に参入しています。デジタル合成に得意のアクション演出を掛け合わせ、さらにロケ地の岩船山でのオープン撮影を意欲的に組み込んだ。実景の空を背景に撮影された迫力ある爆発シーンもニュージェネでは『ギンガS』から本格的に始まったことですね。

そんな中で助監督や美術、合成スタッフとしての経験と、自主映画で培われた低予算でも広がりが持てる引き出しを併せ持った田口さんが初登板されたという。

左は『ギンガS』メイン監督の坂本浩一さん、右は田口清隆さんのインタビュー。

ショウことウルトラマンビクトリーは副主人公のウルトラマン故に、より先鋭的なデザインでいつ見てもカッコいいですね。パートナーとなるウルトラマンの設定は後の『ジード』や『ウルトラマンR/B』(18年)に受け継がれます。

ただ僕の中では『ギンガS』の裏主人公はワンゼロことマナだと思っているんです。アンドロイドである彼女がマナという名前を授けられるくだりは、機械も心を宿すことで命の一環になることを表している。本書のインタビューで演者の最上もがさんは、マナになって人間味を帯び始めた演技の方が難しかったと話されていたのが印象的でした。

『ギンガS』は東日本大震災から3年しか経っておらず、地下深くに眠るエネルギー源であるビクトリウムを巡る物語は非常に示唆に富んでいることに気付いたと、小中和哉監督が言っています。坂本さんが再びメイン監督を務めた『ジード』もクライシス・インパクトから6年後という、東日本大震災から6年経った現実と符牒した世界観でした。『ギンガ』から『ジード』までのニュージェネは震災後のウルトラマンをどう描くのかという課題でもあったのかもしれません。

『ギンガS』でアンドロイド・ワンゼロことマヤを演じた最上もがさんのインタビュー。

●生命の在り方を問いかけた『X』

『X』第1話のナパームが爆破する中でデマーガが進撃するシーンは、移動車にアクションカメラのGoProを設置して撮影されたので、実に臨場感溢れるカットになっている。田口さんは常に現場で「どうすれば斬新な画になるのか」と工夫を重ねられているので、取材中は本当に話題が尽きないんですよ。

また『X』の主人公の大空大地は「怪獣との共存」という理想を抱いた心優しき青年ですが、本書に収録されている大地を演じた高橋健介さんと田口さんとの対談で、『X』撮影中におふたりが、そこについて夜中に電話で激論を戦わせたことが明かされます。

『X』主人公・大空大地役の高橋健介さんとメイン監督の田口清隆さんとの対談。

「怪獣との共存」というテーマの問いかけは、第19話「共に生きる」で頂点に達します。事件の黒幕であるM1号もかつて『ウルトラQ』(66年)で人間に弄ばれた人工生命体であり、大地に「(人間は)都合が悪ければ平気で排除する」と突き付ける。実体化して暴れるゴモラに傷つきながらも幾度も説得を試みるアスナ隊員のシーンは本エピソードの白眉です。

泣き叫びながら思いの丈を訴えるアスナを見て、M1号は決断を翻すわけですが、監督のアベユーイチさんはアスナの姿に説得力を持たせようと、撮影の数日前からアスナ役の坂ノ上茜さんと何度もリハーサルを重ねたと言います。坂ノ上さんも本書インタビューで、このシーンが最も過酷でそれ故に思い出深い撮影だったと振り返っていますね。

『ギンガS』のワンゼロことマナがそうであったように、『X』もまた怪獣という存在を通して生命の在り方を投げかけたシリーズだったと言えるのではないでしょうか。

『X』メインヒロイン・山瀬アスナ役の坂ノ上茜さんのインタビュー。

※切通理作さんのインタビューは後編に続きます。
 後編ではウルトラマン50周年記念作品でもある『ウルトラマンオーブ』、〈ベリアルの息子〉という設定の『ウルトラマンジード』、さらにニュージェネシリーズを支えた技術スタッフなどについても語ります。

切通理作(きりどおし・りさく)
批評家。東京都出身。新聞、雑誌など各種媒体に書評・時評、コラムを寄稿。映像作品の関係者等への取材原稿も執筆。ウルトラマン関連の著書では『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』『怪獣少年の<復讐> 70年代怪獣ブームの光と影』『地球はウルトラマンの星』(ティガ編、ダイナ&ガイア編)『少年宇宙人 平成ウルトラマン監督・原田昌樹と映像の職人たち』などがある。

今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。

『ウルトラマン ニュージェネの証 『ギンガ』、『ギンガS』、『X』、『オーブ』、『ジード』&ゼロ』
(著者:切通理作/定価:3,850円(税込)/ホビージャパン刊)

【内容】

総論 切通理作

●On-site staff 現場スタッフ
アベユーイチ(監督)/原口智生(監督)/石井良和(監督)/坂本浩一(監督)/田口清隆(監督)/小中和哉(監督)/髙橋創(撮影監督)/新井毅(撮影)&武山弘道(照明)&根岸泉(操演)

●Story 脚本家
長谷川圭一(脚本家)/小林弘利(脚本家)/黒沢久子(脚本家)/乙一(脚本家)&三浦有為子(脚本家)

●Actor 出演者
根岸拓哉(出演者)&宇治清高(出演者)&坂本浩一(監督)/最上もが(出演者)/高橋健介(出演者)&田口清隆(監督)/坂ノ上茜(出演者)/石黒英雄(出演者)/濱田龍臣(出演者)&坂本浩一(監督)/島田和正(キャスティング)

●Production 制作
渋谷浩康(企画協力・企画監修)/岡崎聖(制作統括ほか)/鶴田幸伸(プロデューサー)/大岡新一(監修)

●Technical 技術
後藤正行(デザイナー)/橋爪謙始(画コンテ)&酒井豊(画コンテ)&相馬宏充(画コンテ)&市川智茂(画コンテ)/西川伸司(画コンテ)/なかの★陽(画コンテ)/品田冬樹氏(造形)&潤淵隆文(造形)/木場太郎(美術)&倉田友衣子(美術)

●Suit actor スーツアクター
寺井大介(スーツアクターほか)/岩田栄慶(スーツアクター)

●テレビ放送、劇場版全話解説

●スタッフ&キャスト

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総勢40名の証言から現在のウルトラマンが戦う意味を検証!! 『ウルトラマン ニュージェネの証』著者・切通理作さんインタビュー(後編):特撮ばんざい!第42回

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