連載・広坂正美のいま、そしてこれから
第12回

RC(ラジコン)カーレースにおいて、世界タイトル獲得14回、全日本タイトル53回など、前人未到の記録を残したレジェンドドライバーの広坂正美(ひろさか まさみ)氏。世界記録保持者でもある広坂氏は、2019年に長年所属したRCカーメーカーを退職。フリーランスでの活動の後に、2021年秋よりRCメーカー・ジーフォース(G FORCE)のスタッフとなった。そんな広坂氏の“いま”に注目し、現在の活動や今後の展開をレポートする連載企画の第11回は、若き日の広坂氏がドライブしたマシンの復刻販売に関する情報をお届けする。40年の時をへてよみがえるALF(アルフ)とはどんなマシンなのか?

【第12回】ALFの復活

広坂正美

1970年2月26日生まれ。京都府で幼少~学生時代を過ごし、高校3年生の時にRCカー世界選手権において日本人初のチャンピオンに輝く。高校卒業と同時にRCカーメーカーのヨコモに入社し、以降はヨコモの社員ドライバーとして、世界戦をはじめとする数多くのレースで優勝を飾った。2019年にヨコモを退社してさまざまな活動を行っていたが、2021年10月末にRCメーカーのジーフォースに入社した。


広坂正美×ジーフォースの新プロジェクト

 日本どころか世界を代表するRCカーレーサーだった広坂正美のジーフォース入社というニュースは、世界に驚きを持って迎えられた。その後はドローンなど空域RCモデルへの挑戦や、ペットイベントへの参加など、ジーフォースだからこそできる新たなるトライを続けるいっぽう、自身が最も得意とするRCカー関連業務では、MASAMI EDITIONのスピードコントローラーや、新型サーボ(RCカーの操舵などを行うデバイス)のプロデュースなどを手がけている。

 そしてジーフォース主催のRCカーレースイベントが行われた6月12日、同社からビッグニュースが発表された。広坂氏が少年時代にレースに使用したスペシャルモデル「ALF(アルフ)」の復刻販売である。

これが復刻販売されるALF2022の試作モデル。車体は往時のイメージを残しつつも現代のRCメカに対応するよう各部が変更され、グリーン+ファイヤーパターンの“正美カラー”ボディも塗装済みで付属する。

ALFとはどんなマシンなのか?

 往年のRCカーファンには懐かしさも感じさせるALFとは、広坂氏の実父で現役当時はメカニックを務めていた廣坂正明氏(正美氏も本名は「廣坂」の文字)が開発していたマシンで、当時は地元京都を中心に市販されていた。マシンを構成するほとんどのパーツがハンドメイドということもあって大量生産品ではなかったが、ALF1~11までのシリーズの中には数10台販売されたモデルもあるという。

 実際に正美氏はこのALFをドライブして全日本選手権をはじめとするRCカーレースに出場し、シリーズの最終モデルとなったALF11を操って見事全日本チャンピオンに輝いている。

 その後は大手メーカーがスポンサーになり、さらに親子でRCカーメーカーに就職したことによってALFシリーズの開発と販売は終了したが、ALFが広坂親子にとって思い出深いモデルなのは間違いない。

 ALFの特徴はメーカー製マシンにはない複雑な機構を採用していたことだ。ALFは1/12スケール電動オンロードカーカテゴリーに属するマシンだが、1980年代の同カテゴリーは比較的シンプルな構成のモデルが主流で、その中で実車的な4輪独立式サスペンションを持つALFシリーズは異色の存在といえた。“4独”はパワーに勝るメーカーワークス製モデルに対抗するための選択であり、直線スピードの遅さを4独サスによる路面追従性の良さを生かしたコーナリングで補うというもの。実際にALFは抜群のコーナリングスピードを発揮し、シリーズ7作目のALF7で挑んだ1983年の全日本選手権では3位に入賞している。これは現在に至るまで1/12スケール全日本における4独サスカー最高順位となっている。

 しかしRCカーレースはさらにエネルギー効率が求められるようになり、ALFも4独をやめてより軽くシンプルなスタイルへと進化していった。そしてALF11で全日本選手権を制覇。以前よりはシンプルになったとはいえ、メーカー製モデルに比べるとALFはまだまだ複雑なマシンではあった。

 ちなみにALFとは、正美氏の幼少時代に広坂家で飼っていた犬の名に由来する。正美少年の親友でもあった「アル(血統名がアルファンド)」の名は、RCカーになって長きにわたり正美氏の活躍を支えていた。

ALF2022のフロントサスペンション。実車同様のダブルウィッシュボーン方式を採用している。フロントタイヤの操舵を行うステアリングサーボは正美氏がプロデュースしたジーフォース製。
ALF2022のリア回り。リアにもダブルウィッシュボーン式サスペンションが採用されているが、1/12スケールの電動オンロードカーでこの方式はALF現役時代でも珍しかった。モーターも専用品が用意される。
ALF2022のリア回り。リアにもダブルウィッシュボーン式サスペンションが採用されているが、1/12スケールの電動オンロードカーでこの方式はALF現役時代でも珍しかった。モーターも専用品が用意される。
メインフレームを構成するシャシープレートにはカタカナで「アルフ」の文字が切り込まれている。これもすべて正明氏の手切りであり、RCカーというより工芸品に近い雰囲気を漂わせている。

ALFの復刻販売とその理由

 2022年6月12日に茨城県のつくばRCパークで開催された『2022 G-FORCE COMPETITION CUP in TSUKUBA RC ARENA』会場にて、ジーフォースからサプライズ発表が行われた。 それがALFの復刻モデル「ALF2022」の販売と新型1/10バギーの発売だった。新型バギーに関してはあらためて紹介の機会を設けることにして、ここではALF2022のニュースを続けさせてもらう。

 正美氏の加入によって新たな展開を見せているジーフォースは、その一環として正美氏がかつてドライブしたマシンの復刻販売を企画した。では、どんなマシンを復刻するのか? 40年を超えるレースキャリアを持つ正美氏がレースで使用したマシンは膨大な数に上るものの、多くは他メーカー製モデルであってジーフォースからの復刻は難しい。

 そこでプライベーター時代のモデルを復刻することになり、それらのマシンを製作した正明氏の意見も採り入れて、ALF初期シリーズを復刻版のベースにすることが決まった。4独サスカーのALF初期モデルは後期モデルに比べて独創性が高く、商品価値が高まるという理由もあった。当初は設計のみを正明氏が行い、多くのパーツを機械加工で製作する案もあったが、やはり往時と同じ方法で製作することに意味があるという結論になった。

 ジーフォース主催イベント会場で発表されたのは、ALF2022が33台の限定販売であること、ALF初期モデルと同様の4輪独立サスペンションを採用していること、そしてほとんどのパーツが正明氏のハンドメイドになることだった。マシンを構成する多くのパーツが正明氏の手によって素材から切り出され、ネジの穴などもボール盤(卓上ドリル)を使った手作業で開けられる。さらに通常は車体と別売りになるステアリングサーボやスピードコントローラー、モーターもキットに付属し、それらがALF2022専用のスペシャルカラーになる。車体には1~33のシリアルナンバーも刻印され、正美氏の専属ペインターとして名を馳せた百武彦秀氏の塗装済みボディが付属する。

 このように豪華な仕様で、桐の箱に入って納品されるALF2022の価格は税込みで33万円。RCカーの価格として考えると高く感じられるかもしれないが、キットの内容や製作にかかっている手間を考えるとむしろ割安感さえある。

 すでに専用ウェブサイトが設けられ、予約もスタートしているALF2022。納品は2022年12月が予定されていて、予約締切は8月19日となっている。このALF2022を購入したユーザーがレーシングスピードで走行させる機会も少ないとは思われるが、それでも走行可能なモデルである以上、パーツ破損などの可能性はある。その際には正明氏がアフターケアを担当するとのことなので安心だ。

 予約締め切りまであとわずか。現代によみがえるALFに興味を持った人は、ぜひとも専用ウェブサイトをチェックしてほしい。


「ALF2022 40th Anniversary Edition」専用ウェブサイト
http://gforce-hobby.jp/products/alf/index.html


メインフレームを構成するシャシープレートにはカタカナで「アルフ」の文字が切り込まれている。これもすべて正明氏の手切りであり、RCカーというより工芸品に近い雰囲気を漂わせている。
グラスファイバーのプレートを切り出している正明氏。RCカーに携わる前にはアクセサリーづくりを仕事にしていたこともあって、素早く、かつ正確に切り出しを進めていく。ALF2022も同様の方法で製作される。
すでにサーキットで新生ALFのテストは進められている。テストドライバーの正美氏によると、レーシングモデルらしい操縦性で良く走るとのこと。伝説のモデルを手にできる幸運なオーナーはわずか33名だ。

写真提供/広坂正美、ジーフォース http://gforce-hobby.jp/


「広坂正美のラジコン街道」:
・第1巻
・第2巻
・第3巻
・第4巻
・第5巻

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連載・広坂正美のいま、そしてこれから第3回
連載・広坂正美のいま、そしてこれから第2回

  • RC(ラジコン)カーの記事を中心に、模型や実車などのメディアで編集・執筆を行うフリー編集者兼ライター。余暇のほとんどを競技用RCカーの走行や整備に費やす立派な(?)ラジコン廃人。9割以上がラジコンの話題で埋め尽くされるブログ「すべては12分の1のために」は、ごく一部の読者に好評継続中。
  • http://1-12thonroad.cocolog-nifty.com/blog

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