連載・広坂正美のいま、そしてこれから
第4回

RC(ラジコン)カーレースにおいて、世界タイトル獲得14回、全日本タイトル53回など、前人未到の記録を残したレジェンドドライバーの広坂正美(ひろさか まさみ)氏。世界記録保持者でもある広坂氏は、2019年に長年所属したRCカーメーカーを退職して新たな挑戦を開始している。そんな広坂氏の“いま”に注目し、今後への展望や活動について紹介する連載企画の第4 回は、再びコンビを組んで活動を始めた広坂父子に注目。


【第4回】父子コンビふたたび!


連載・広坂正美のいま、そしてこれから


広坂正美(写真右)
1970年2月26日生まれ。京都府で幼少~学生時代を過ごし、高校3年生の時にRCカー世界選手権において日本人初のチャンピオンに輝く。高校卒業と同時にRCカーメーカーのヨコモに入社し、以降はヨコモの社員ドライバーとして、世界戦をはじめとする数多くのレースで優勝を飾っている。2019年にヨコモを退社して現在はフリー。左は同氏の現役時代にマシン設計者やメカニックとして快進撃を支えた父の正明氏。



 ヨコモを2019年9月に電撃退社し、以降はフリーで活動している広坂正美氏(以下・正美氏)だが、ここ最近は父の廣坂正明氏(正美氏も本名は「廣坂」だが、ふだんは「広坂」を使用している)と協力し、マシンの開発や動画の撮影を行っている。

 正美氏が学生だったころには京都でホビーショップを経営していた正明氏。その正明氏が製作したショップオリジナルのRCカーを正美氏がドライブし、レースで好成績を残すことがショップと製品の宣伝につながっていた。つまり、正美氏は少年時代から立派なプロRCカーレーサーだったといえる。1986年に正美氏は初の全日本選手権優勝を飾るが、このときドライブしたマシンも正明氏が製作したものだった。メーカーのワークスドライバー&マシンを向こうに回し、手づくりといってもよいマシンでの優勝は快挙といえた。

 その後は正美氏の高校卒業と同時に、正明氏も京都のショップを閉めてヨコモに親子で入社。これでヨコモをはじめとするメーカーのサポートが受けられるようになり、レースに挑む体制は強化されたが、正美氏がドライバーで正明氏がメカニックという関係は、正明氏が2004年にヨコモを退社するまで変わらなかった。

連載・広坂正美のいま、そしてこれから

2020年からAmazon Kindleで出版を開始した「広坂正美のラジコン街道」の第5巻が出版された。この巻では、レースに向けた心身の鍛え方やチームスポーツとしてのRCカーレース、ライバルとの関係などがつづられている。

 正美氏より15年早くヨコモを退社した正明氏は、自身のブランド「ひろさか」を設立。オリジナル製品の開発・販売に加えてRCカーとその関連品の輸入販売を行い、メーカーとジョイントしてメカニックを務めることもあった。正美氏のライバルチームで活動した時期もあり、この変則的な親子対決はちょっとした話題になった。正明氏は現在も「ひろさか」を継続し、RC関連品の販売を行うと同時に、オリジナルマシンの開発も進めている。このオリジナルマシンのテストドライバーを務めているのが、フリーになった正美氏というわけだ。

 約15年の時をへて復活した広坂父子コンビだが、世界一という目標に向かって戦っていた時代に比べると、現在はよりのびのびとした立場で活動している。これには正美氏が第一線から引退しているという理由もあるが、RCカーの市場もまた変わってきたとのこと。正明氏によると、レースでの好成績がそのまま同型車の販売促進につながるケースは少なくなっていて、よりイージーに操縦を楽しめるようなRCカーの需要が増えているという。そこで現在ひろさかで開発しているマシンも、シンプルなリヤ2輪駆動方式を採用しつつ、誰でもラクにドライブできるものを目指している。

正美氏がトップドライバーとして頭角を現すまでは、自身もレースに出場していた正明氏。その後はメカニックに専念するためRCカーの操縦はストップしていたが、ここ最近は自らもテスト走行を実施し、RCカーを走らせる楽しさにあらためて気がついたとのこと。

「広坂父子といえば即“レース”というイメージがあるのは仕方ないことですが、今後はYouTubeなどの活動を通じてそれだけではないのを伝えていきたいと思っています。もちろん、レースでがんばりたい人から助力を求められれば、私のノウハウを教えることもできます。ただし、RCカーレースではプロとして生活していくのが難しいので“プロでやっていきたい”と言われたら“よく考えてからにしてください”と答えると思います(苦笑)」と正明氏。

 現在のRCカーはコンピューターを使ってデザインし、そのデータを利用して素材の加工も行っている。それに対し正明氏の開発手法は、実際のパーツを確認しながらプラ板で“型”を作り、それをベースに自身の手でグラスファイバー(ガラス繊維入りプラスチック)を切り出していくというもの。正明氏自身は「時代遅れですが(笑)」と謙遜するが、これこそが模型作りの原点であり、実際にこの手法で生み出されたマシンが多くのレースで優勝を飾っている。こうした“ひろさか流”のマシン開発については正明氏のYouTubeチャンネルで見ることができ、今後の本連載でも紹介していく予定だ。

 かつてはレースに勝つことを最優先にした関係だったが、現在では普通の家族になったという広坂父子。彼らがこれからのRC業界にどのようなムーブメントを起こしていくのか、注目してほしい。


連載・広坂正美のいま、そしてこれから

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正明氏が製作したリヤ2輪駆動(RWD)ツーリングカー。通常は操縦しやすい4輪駆動モデルが多いが、それでは機構的に複雑になるため、コスト削減と取り扱いの容易さを重視してよりシンプルなRWDを採用。数多くの工夫により、RWDでありながらイージードライブを実現した。一般的な1/10スケールツーリングカーサイズと、よりコンパクトな1/10ミニサイズモデルがある。

連載・広坂正美のいま、そしてこれから


ピットでマシンのセッティングを行う正明氏(上)。この姿はRCファンにはおなじみのものだが、最近は自ら送信機を持って操縦にも挑戦。その奮闘ぶりを正美氏が笑顔で撮影し、YouTubeチャンネルにアップしている(右)。正明氏の成長(復調?)ぶりも見ていくのも動画の楽しみになりそうだ。

連載・広坂正美のいま、そしてこれから

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自宅にある正明氏の“工房”で。別室には工作機械や正明氏の大切な相棒である“糸ノコ”も置かれている。将来、この場所からどのようなマシンが生まれてくるのだろうか?
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連載・広坂正美のいま、そしてこれから

連載・広坂正美のいま、そしてこれから


今回の取材は、埼玉県児玉郡にあるイオンタウン上里内のホビーショップ タムタム上里店で行った。広坂父子もよくテストや動画撮影で利用するというこの施設には、模型全般を取りそろえたホビーショップと、グリップ、ドリフト、ミニッツ、トイ用の4タイプのサーキットを備えている。エアコン完備の快適な環境で、天候を気にせずRCカーの操縦を楽しめるのが魅力的。

ホビーショップ タムタム https://www.hs-tamtam.jp/
ホビーショップ タムタム上里店 https://www.hs-tamtam.jp/shop/kamisato.html


広坂正美氏も登場! ラジコンを大特集した「モノ・マガジン7月2日」が好評発売中。ラジコンの“いま”を知るにはコレを読むしかない!
https://www.monoshop.biz/SHOP/mm0874.html


「広坂正美のラジコン街道」:
・第1巻
・第2巻
・第3巻
・第4巻
・第5巻

広坂正美YouTubeチャンネル「MASAMI RC CHANNEL」:
https://www.youtube.com/c/masamichannel
廣坂正明YouTubeチャンネル「MASAAKI RC CHANNEL」:
https://www.youtube.com/c/masaakircchannel
広坂正美facebookページ
https://www.facebook.com/masamihirosaka1970
ラジコン世界チャンピオンメカニック「ひろさか」サイト
http://www.hirosaka.jp/

  • RC(ラジコン)カーの記事を中心に、模型や実車などのメディアで編集・執筆を行うフリー編集者兼ライター。余暇のほとんどを競技用RCカーの走行や整備に費やす立派な(?)ラジコン廃人。9割以上がラジコンの話題で埋め尽くされるブログ「すべては12分の1のために」は、ごく一部の読者に好評継続中。
  • http://1-12thonroad.cocolog-nifty.com/blog

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