【腕時計を読む!#22】ロレックス・パネライ 伝説のダイバーズウオッチ 第4回:極秘のうちに行われる先端技術開発。パネライ社の歩みはイタリア海軍とともにある。

Produced by Editorial Staff of the World Wristwatch Mugazine
Text/Tomoko Kayama
Report/Stephan Ciejka
Thierry Serna
Photographs/Courtesy of Officine Panerai
Courtesy of Antiquorum Auctioneer
Stephan Ciejka
Yoshihisa Kumagai
Yasuji Yushina
Illustration/Mototaro Hasegawa
Special Thanks to Officine Panerai

1992年5月15日発行『世界の腕時計』No.10より転載

ここでパネライ社の歴史をひもといてみよう。パネライの歴史は1865年に幕をあける。フランス国境の村ビエモンからフィレンツェに移住してきたグィド・パネライ氏によって創設された。イタリア語で工房を意味するオフィチーネをつけた、オフィチーネ・グィド・ パネライがその社名となった。

彼を支えたのは、優れた技術者たちであった。そしてユニークなのは、創設からすでに海軍が最大の顧客であったということだ。精密機械を専門に、海軍の特殊な用途を目的としたさまざまな機器が作られていた。1867年には海軍との間で特殊な時計の供給契約を結んでいる。おそらく特殊な機能をもつ、また特殊な海軍の任務を目的としたポケットウオッチだと思われる。創設以来、パネライが作る製品はすべて海軍の極秘事項に関わるものであり、それはまたその時代の最先端であることを意味していた。

1914年には魚雷発射の際のスピードや距離を計測するメカニカル・カリキュレーター、対船機雷用タイマーや夜間攻撃のための蛍光装置を製造している。これらはすべて20世紀初めにパネライが開発し、第1次世界大戦を待って、実際に使われ、高く評価されたものだ。このほかにも第1次世界大戦前から戦中にかけて海軍戦艦用の信号装置や水泳兵のための用品の開発を行っている。

パネライが最もその先進性を発揮したのが、水中で使用する計測機器類だ。たとえばコンパス、水圧計、水中トーチ、それに時計といった重要な水中装備で、イタリア海軍が水中攻撃に力を入れると同時に開発が進められ、すぐに実戦に投じられたのだった。特に、前述のMASが設立されると、その技術がおおいに海軍に貢献したのだ。

1930年代に入ると、敵の船底に取り付ける機雷のメカニカル・タイマーが開発され、MASの活動に欠かせないものとなった。これには2種類あり、ひとつは2.5kg機雷のマグネットタイマーで、船底にとりつけ特別なキーで時間をセットするものだった。もうひとつ、5㎏機雷には小さな回転ホイールがつき、船底にとりつけ、船が出航するとホイールが回転を始める。そして回転数カウンターが作動し、5000回転目に爆発するという仕掛けであった。第2次世界大戦ではこのタイマーが活躍し、イタリア海軍の戦果を高めたのだった。

戦後も軍用機器の開発を行ってきたパネライ社にひとつの転機が訪れたのが1972年だ。1924年に2代目となった創設者の息子ジュゼッペ・パネライ氏が死去、この年、3代目のマリア・パネライ女史に会社は継がれた。が、海軍が会社の重要性を無視できず、海軍と民間人5人が共同で出資し、新たな機構のもとに再出発したのだ。社長に就任したのは、海軍中佐で工学博士のディノ・ゼイ将校であり、現在もパネライを統括する。また、専務取締役のブルーノ・ラティニ氏も海軍少佐、マーケティング担当重役フランコ・ザバッタロ氏も海軍中佐であった。この事実をみても、パネライが海軍用機器の開発、製造でいかに重要な位置を占め続けているかがわかる。

現在のパネライは従業員数50名ほどで小規模だが、しかし海軍にとっては欠かせない装備品の研究開発機関となっている。フィレンツェにある本社は、落ち着いた雰囲気のこじんまりとした建物のなかにあるが、そこは防弾ガラスや電子ロックに守られた厳重警備体制の下にある。海軍の要請にもとづいて新たなシステムを開発するという、軍事技術の先端をいくパネライの性格上、これは必然のことなのであろう。ここで開発されるほとんどが極秘扱いで、技術レベルは最高であるのはいうまでもない。

80年代に入り、海軍用ダイバーウオッチのプロトタイプが試作されたことはあったが、 現在では軍用時計は作られてはいない。しかし、従来の機械工学、電子機械、光学技術に加え、電子技術や電子音響技術をいかして、イタリア海軍のハイテク・システム開発の要件を満たす努力が続けられている。その一方で、民間、工業、生医学の領域で新たな技術の応用研究も進められている。イタリアで最も進んだ研究機関だ。

現在、パネライで製造されている機器をみてみよう。着陸補助システムとして、デッキング・システム、ポータブル・ランディング・システム、海軍のコントロール/信号システムとして、潜水艦の燃料タンク用遠隔水位表示システム、小型固定式信号ライト、電子蛍光装置。さらに水中用の特殊システムとして携帯兵器自然点火訓練装置、混合酸素呼吸装置、プロダイバー用のコンパスや深度計、水中の追跡システム、またモニターシステムなどが開発され、海軍に供給している。いずれも海軍を支える最新鋭装備品だ。

【第5回に続く】

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