
全国558店舗を展開するくら寿司のメニューの中でも、人気のにぎりは「熟成まぐろ」「はまち」「サーモン」。大人から子どもまで新鮮な寿司を楽しめる定番で、良質なネタをリーズナブルに味わえるのが魅力だ。ただネタを提供するだけでなく、さらに美味しくするための “ひと工夫” が、味の満足度を大きく引き上げている。期間限定商品で2~3ヵ月に1度ほどの頻度で販売している人気の「オーガニックはまち」は、くら寿司が運営するKURAおさかなファーム(以下、おさかなファーム)で大切に育てられたはまちだ。
KURAおさかなファーム

我が国が育んできた豊かな魚食文化を見つめ直し、その未来を創造することに貢献する――。KURAおさかなファームでは、養殖から販売までを一貫して担う事業を通じて、「食の安心・安全」と「漁業創生」の実現に取り組んでいる。

おさかなファームは、直面する日本の漁業産業の課題にも真正面から向き合う企業だ。日本の水産業は、気候変動や燃料高騰、人手不足などが重なり資源が急減。国産サバは半減し、輸入価格も高騰している。回転寿司にとって、安定した魚の確保はすでに “事業存続の条件” となっている。

くら寿司は、調達から養殖までを一気通貫で担う “漁業創生企業” へと舵を切り、その中核として和歌山・衣奈沖で「KURAおさかなファーム」がスマート養殖を進めている。
KURAおさかなファームのオーガニックはまち

飼料や養殖環境に徹底してこだわり、日本で初めて “オーガニックフィッシュ” としての認証を取得した養殖ハマチ。通常のハマチに比べて魚特有の臭みが少なく、クセのない上品な味わいと、ほどよい歯ごたえが魅力だ。外部機関の分析では、EPA・DHAの含有率が天然ハマチより約10%高く、オルニチン含有量はしじみと同等という結果が出ている。

その生け簀は「和歌山県日高郡由良町衣奈(衣奈沖)」に拠点を置く。ここで養殖を始めた最大の理由は、衣奈の海が “オーガニック水産物の養殖に最適な海域” だったためだ。とりわけ、海の美しさ、希少なプランクトンの豊富さ、水質の安定性が決定的要因となり、全国の候補地の中から衣奈が選ばれた。自然条件・地域協力・行政支援が三位一体で揃う、稀有な海域だったのである。
元気な「オーガニックはまち」に会いに行ってみた!


漁港から船で衣奈沖へ向かうこと約10分。なだらかな海面に、約20基の生け簀が静かに浮かんでいる。さっそく船を降り、生け簀へと移ってみた。


はまちの群れが、密度を変えながらゆるやかに旋回している。銀青の体表が光を返し、静かな上昇流に沿って水面へと集まってくる。



試行錯誤の末にたどり着いたはまちの餌は、一粒ごとのサイズも、はまちが一口で食べられるよう口の大きさに合わせて設計されている。面白い。

生け簀の上に設置されたBOXは、スマートフォンで操作できるAI給餌システムだ。給餌を遠隔で管理できる優れもの。AIが必要な餌を適切なタイミングで与えることで、成育スピードを高め、餌のロスを抑える。その結果、過剰な餌で脂が粗くなることもなく、逆に痩せてしまうこともない。


今回は特別に許可を得て、給餌中のはまちを小型水中カメラで撮影した。給餌機から粒状の餌が落ち始めると、はまちの群れが一斉に反応する。はまちは水中で餌を噛み砕く際、ほとんど音を立てない。その代わり、食欲は “動き” として表れる。その勢いが、想像以上に豪快だった。


帰港する前に、もう一箇所サバの生け簀に立ち寄った。陸が目の前という近さで養殖が行われていることに驚かされる。こちらには鳥よけのネットが張られていた。


港に戻り陸に上がると、出番を待つ生け簀が並んでいた。係留用の大きな碇と網、ロープ、簀の子。その構造が驚くほどシンプルで、思わず目を見張った。

普段何気なく食べている寿司も、最新の技術によって支えられ、提供されていることがよく分かった。

KURAおさかなファームは、一次産業の課題に向き合うべく、2021年11月に設立された。一次産業のDX化を推進し、持続可能な生産体制を構築することを目的に、自社養殖・委託養殖・卸売の三本柱で事業を展開している。

AIが支える “最適成育” の実装により、同社はAIを活用したスマート養殖を行っている。良質な餌とストレスの少ない環境で育成され、生育スピードの向上と餌ロス削減に寄与し、スマートフォンによる遠隔操作も可能だ。さらに、愛媛県での委託養殖の実績を踏まえ、和歌山でもサバの自社養殖を開始。2028年までに年間約2万尾の出荷を目指している。

国内外へ広がる販路と、地域魚の流通。卸売事業では、自社養殖のオーガニックはまちを国内の量販店や、香港など海外の飲食店へ販売している。さらに、漁業組合の買参権を活用し、地域魚を仕入れてくら寿司や量販店へ供給している。

おいしい寿司を、誰もが気軽に楽しめる価格で提供する。その当たり前の裏側には、くら寿司の技術と不断の企業努力がある。店頭に並ぶ一貫は、ただの “商品” ではない。漁場の選定、養殖環境の管理、加工ラインの衛生設計、物流の温度管理、店舗オペレーションの標準化。見えない工程の一つひとつが積み重なり、ようやく皿の上の適正価格の美味しさが成立する。


































