実用的MTの有力候補 マツダ3ファストバックに試乗!

「今のうち」リストにノミネートしたい

クルマを操る楽しさ、という面ではやはりMTがいい。別に筆者が新しいモノについていけないとか「昔は良かったねぇ」と現実逃避主義だからではない、多分。渋滞時のクラッチがメンドーなのもよぉーく理解できる。しかしコレは「慣れ」の範疇ということにして筆者は話を濁してしまう。

しかしながら。今売っているクルマを見回して、新車で買えてファミリーユースでも使えるサイズ、当然後席も使うからドアは4枚以上となるとMTモデルは絶望的に少ない。それでも探せばなんとあるもので、例えばマツダ3のファストバック。ゴリゴリにスポーツモデルにふっていないのもファミリーカーとしての敷居は低い。

マツダはほんの少し前まで、CX-5にもCX-3にもCX-30にもマツダ6にもMTが用意されていた。いずれもドアが4枚ある実用的なクルマであったり、人気のSUVであったりと好事家からすればマツダはMT王国だった。しかし今はどうだろう。マイナーチェンジやモデルチェンジなどで次々に姿を消していくではないか。ジオン国民を前にギレン総裁が演説するようにドン(机を叩く音)とやってみたくなる。

そして残ったのはマツダ2とロードスター、マツダ3のファストバックだけに。ネットでは次期型のマツダ3の噂もチラホラあり、4ドアでMTが欲しい! となるともしかしたら最後のチャンスになってしまうのかも。

そこで乗り出したのはマツダ3のファストバック、グレードはXツーリング。ボディカラーはマツダの情熱の赤、ソウルレッドクリスタルメタリック。

マツダ3は元を辿ればアクセラになり、それを辿っていくとマツダブランド初のコンパクトモデル、ファミリアに行き着く。つまりは名前は変えていてもその系譜は由緒正しき血筋で、公達か将軍家かといったモノ。ファミリアからアクセラには2003年、アクセラからマツダ3への改名は2019年。この時、ほぼ同時にフルモデルチェンジし、今にいたる。

センターディスプレイにAppleCarPlayを使う時はなんと直接ディスプレイで操作できるようになっていた。それまでは接続してもダイヤルをクルクルする必要があったけれど、何気に便利。このような細かなアップデートが繰り返され、デビューから7年が経過してもマツダを支える人気車種でもある。

ヤッターマンも採用したい技術!?

試乗車の目玉はいくつかあるけれど、名作タイムボカンシリーズ的に「今週のビックリドッキリメカ!」なモノはそのパワーユニット、スカイアクティブXだ。

コレは世界初の火花点火制御圧縮着火を実現した高効率ユニット。乱暴な表現だがディーゼルエンジンのように火花を飛ばすガソリンエンジンと思っても大きな間違いはない。ディーゼルの効率の良さとガソリンのパワーの伸びなど両方のいいところを集めた夢のようなエンジンだ。

試乗車はこのパワーユニットにモーターを組み合わせ、理屈上は鬼に金棒のようなモノ。そのハイブリッドはEV走行はできないマイルドハイブリッドシステム。このシステムはマツダの独自開発になる。マツダはクルマの大事な部分は極力自社開発したモノを載せるこだわりのブランド。確かにマイルドの英語表示の頭文字はM、マツダのMでもある! ただしこのシステムはスポーツ走行にふったモノではないといい、主目的は燃費の向上という。

走り出すと想像以上に低回転域のトルク感がある。アイドリング時でもモーター由来のトルクが十分にあるからペーパー的MT乗りの筆者でもエンストせずに発進できた。クラッチの重さは重すぎず軽すぎ、まさに「中庸の徳」的フィーリング。加速して驚くのはシフトアップ推奨の速さ。ギアによって異なるけれど、概ね1750rpmでシフトアップの「↑」表示がメーターに表示される。6速にいたっては、なんと1500rpm! その速度域だと速度計は45km/h付近とまたびっくり。試しに6速に入れてもノッキングすることなく巡航可能。もう一つびっくりしたのはゆるくダラダラとした長い登り坂。5速40km/hでも流れを乱すことなく巡航どころかちょこっとした加速も可能。もちろん、鋭い加速をしたければ自分でギアを落とせばいい。

高速では6速100km/hで2500rpmを若干下回る程度。120km/hでも3000rpmを超えない。早い話が日常使用域ではMTのメンドーな印象はゼロだ。もちろんMT乗りが条件反射的に構えてしまう「坂道発進」も電動ブレーキのオートホールドモードが絶妙なタイミングでサポートしてくれる。珍しく今回は筆者のエンスト回数はゼロだった。

座長、主演はわ・た・し

クネッた道に入ればそれはもう「独演会」的に主役は自分、の走りが可能。MTの醍醐味でもあるクラッチ、シフト操作、アクセルの開け方すべてがクルマに伝わりそのリアクションもダイレクトに感じられる。ヒール&トゥがビシっ! と決まり、旋回していくときのクルマとの一体感、「いやぁMTってホントいいモノですね」と映画評論家の故・水野晴郎氏のようにつぶやいてしまう。もちろんクルマの縁の下の力持ち的なサポートあってこそなのだけれど。

エンジンは満遍なく力が出ている感じのよくできた印象で、回転の上げ下げが楽しい雰囲気ではなかった。もちろん高回転域までよく回るけれど。

XツーリングはAT、MT問わず4WD、i-ACTIVE AWDを採用する。このメカニズムのカシコイところは滑った時に補助してくれる4WDではないところ。つまり最初から頑張ってますヨンクなの。メカニズム的には27個のセンサーで常時モニタリング、外気温や勾配、タイヤにかかる荷重や加速度からステアリングの角度、ワイパーの作動状況などなどを判断し、0.005秒ごとに制御している。

例えば加速時は後輪の荷重が増えるため後輪のトルクを増やす、減速時は前輪のトルクを増やし、タイヤの性能をキチンと使う。

それにGベクタリングコントロール(以下GVC)が協調してくれる。ターンインはGVCによるエンジントルク制御で旋回時の応答性を向上、定常旋回になるまでに後輪のトルクを増やしていくのだ。

今回の試乗は高速4割、街中2割、渋滞2割、山道1割で今回500km以上を走破。満タン法による燃費は14.8km/L。残念ながらカタログ燃費に届かなかったが、AWDとしてはかなりいいと思う。市街地では上記のようにやたらと早いシフトアップでメータ上では間違いなくカタログ燃費の14.5km/Lを上回っていた。筆者のクセで2速に入れる時とシフトダウンする時はダブルクラッチをしてしまうので思ったより燃費は伸びなかったのかもしれない。ただもう少し高速での燃費は伸びてもいいかな、と思う次第。高速を1時間ちょっと100km/h巡航時でのメーター上の燃費は15.5km/Lだった。

使ってください!

マツダ3は正統派セダンとデザイン優先のファストバックの2モデル体制。試乗車は後者の方で、リアドアから後ろはふくよかな曲面が特長的なデザインで、2020年にはワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞した実績もワスレテはならない。デザインありきながらも後席の居住性も十分確保しているし、荷室など十分な容量を持っている。

使い勝手の良さはマツダのこだわりでもある。発表会や試乗会で役員や開発、広報の方々と話すと、多かれ少なかれ表現やニュアンスは違うけれど、必ず「クルマは道具ですからですから、ドンドン使ってください」と言われる。

そんな折に筆者が今何にお乗りですか、と聞くとニヤッとしつつ他メーカーが挙がることがあるのだが、●●の技術ではマツダが一番進んでますよ、とか所有する他メーカー車はスタイリングだけで購入した、とか内緒話(あ、バラしてしまった)も聞けるのだが、必ず最後には、乗りやすくて道具としてなら「ウチ(マツダ)のクルマはいいですよ!」と締めくくる。そしてマツダのスゴイところは、100%違う部署でしょうに、というような他の部署の方も新しい●●はココが良いとスラリと言えてしまう方に会える確率がダントツに高い。筆者はそこまでのマツダファンではないが、そういった企業風土や風通りの良さがあったからこそ、ロータリーエンジンの実用化ができたのかもしれない。いわゆるマツダだから出来た、と思うこともある。

悩ましい選択

試乗車はスカイアクティブX搭載グレードだがエンジンの楽しさ、という点ではスカイアクティブGの方がリニア感があると思う。前者のスペックは190PS、240Nm。後者は156PS、199Nmと馬力は30PS近く違うが、どの回転域でも力がある印象で回してパワーの出るフィーリングよりも気がつくと結構な速度が出ていた印象。またカタログ値での絶対的な燃費で言うと前者が17.7km/L、後者が17.5km/Lと大きく変わらない。もちろんFFとAWDの違いもあるので一概に比較はできないけれど。

ただ、ロータリーエンジンに続く「夢の内燃機」と言われたモノをしっかりと世に送り出しただけでも価値があると思う。そしてスカイアクティブXをより進化させたスカイアクティブZの投入も次期型モデルには噂されている。実用的でMTモデルが欲しい! となるとスカイアクティブGのFFは大きな魅力だ。価格も試乗車の399万7400円からに対して302万3900円からと値上がり激しいこのご時世にあってのバーゲンプライス。どちらがバーゲンプライスかといえばおそらく試乗車のスカイアクティブXの方だろうけれど、絶対的な価格は一目瞭然。ただi-ACTIVE AWDの安定性と旋回の楽しさは捨て難い。

最近のATの性能の良さは認めるし燃費だってMTを凌ぐモノも多い。しかしMTのダイレクト感、操作する手間、その動作自体が楽しいことも。ただ絶対的に言えるのは、ゴリゴリなスポーツモデルではなくドアが4枚以上の「実用的」でそこそこなボディサイズでMT、は少なくなっている。そうするとマツダ3ファストバックは選択肢の一つとして大いにあり! なのだ。

マツダ3ファストバック
Xツーリング(6MT)

価格399万7400円
全長 × 全幅 × 全高4460 × 1795 × 1440(mm)
エンジン1997cc直列4気筒
エンジン最高出力190PS/6000rpm
エンジン最大トルク240Nm/4500rpm
モーター最高出力4.8kW/1000rpm
モーター最大トルク61Nm/100rpm
WLTCモード燃費17.7km/L

マツダ
マツダ3ファストバック
問 マツダコールセンター 0120-386-919

海野大介(daisuke unno)
  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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