保守的? 定番?
マツダってCXシリーズやロードスターのイメージが強いけれど、なかなかに注目されにくい傑作車があるのだ。それはマツダで唯一新車で買えるセダン、MAZDA3(以下マツダ3)。「マツダ3? それってファストバックでしょ」それは間違いないけれど、ここでは敢えてセダンをチョイス。
マツダ3は同社のコンパクトカーでその昔はファミリア、アクセラと呼ばれ、ブランド内でも老舗的存在。ファミリアで9世代、アクセラで3世代の計12代を数えた鎌倉幕府もびっくりなブランド内でも由緒正しきマツダ車なのだ。CXシリーズやロードスターはまだまだヒヨッコよ的に華道や茶道でいう宗家にも近いセダンといっても怒られはしないと思う。
しかし。ファミリーカーの定番であるはずのセダンは今やちょうどいいサイズのモデルが絶滅危惧種。明治時代後半からの女性活動家、平塚らいてうの文芸誌「青踏」の冒頭ではないが「原始、ファミリーカーはセダンであった」となりそうな雰囲気なのである。
ファミリーカーの主流もクロカン系、ワンボックス系ときて今はSUV。使い勝手のいいハッチバックやワンボックス、SUVの乗降性の良さはよぉーくわかる。諸君、セダンを見直そうではないかとギレン総帥の演説の如く、街に乗り出したのがセダンモデルなのだ。ちなみにグレードは20Sツーリングになる。

正統派ヒーロー
クルマのデザインテーマは「凛としたのびやかさ」でなるほど言い得て妙。同じMAZDA3を名乗るファストバックのシルエットは好みが分かれそうだけど、オーソドックスなセダンの方は定番のスタイリングであるから良くも悪くも万人受けしそうなモノ。ある意味見ていて安心できる、うずまき・ナルトやキャプテン・アメリカといったわかりやすいヒーロー然でもある。
しかしながら。安定したシルエットでもよくよく見るとセダン=営業車とはちと違うオーラもあるじゃないか。例えばAピラーはスポーツカーみたいに寝ているし、クルマの横に立つとルーフの低くさも感じる。つまりスポーツカーライクなボディラインなのだ。それは実用一辺倒なクルマの雰囲気ではなく、むしろデザインありきと思ってしえそうなモノ。なお試乗車のボディカラー、マシーングレープレミアムメタリックは55000円のオプション。


ボディサイズはクルマ全般がデカくなったとはいえ、今時のクルマから考えると1795mmの全幅は扱いやすいと言えるギリギリなサイズ。しかもこの全幅だから当然室内は広い。後席もクルマのサイズを考えるとそれなりに広いし、分割可倒式採用なので長い荷物にも対応する。扱いやすいサイズの「セダン」という選択肢では限られてしまうなか、マツダ3は当選確実な1台でもある。

コスパも注目したいゾ
運転席に陣取ると、これまたビックリ。なかなかに豪華な雰囲気。内張にはソフトパッドが多用されているのだが、ジツは合成皮革。しかしながらこれがホンモノっぽい。ヲイヲイ300万円を下回る価格なのに随分とゴーカぢゃないかと、まず思うはず。何といってもプラスチッキーな印象は皆無。きっとオーナーになってゲストを乗せた日には自尊心をかる〜くくすぐってくれるはず。

加えてSパッケージ以外には運転席メモリー付きパワーシート、前席シートヒーター、ステアリングヒーター(!)が標準装備と驚異的なコスパにも驚く。なお助手席は手動式だがシートリフターまで付いている。運転席ならわかるけれど助手席にもあるのは意外に便利だし至れり尽くせり感も。そしてエアコンのスイッチは確実にスイッチを押したとわかる物理的なモノだから慣れればブラインドタッチも可能と老害的筆者にも優しかった。
さらに2024年に施されたマイナーチェンジでは全グレードにアレクサが搭載され、エアコン、シートヒーター、ナビの操作など音声で操作が可能になっている。打てば響く、ではないけれどまさに呼べば答えるクルマなのだ。
過半数超えの走り
走り出すとどこかの国会運営もびっくりな、おそらく8割のヒトが「なかなかいいじゃない」と思うはず。試乗車のパワートレーンは2リッターの直4。これにマイルドハイブリッドがタッグを組む。なおこのエンジン、詳しい話は専門誌に譲るが世界一の圧縮比を実現した逸品で、その搭載車種も人気のCX-5や販売されていた上位モデルのマツダ6と同一のモノ。

そしてモーターは走り出しから高負荷時のサポートまでこなしてくれるのでエンジンスペック(156PS、199Nm)以上に力強く感じる。絶対的なスペック数値は今時の2リッターと考えれば少なめかもしれないけれど、1380kgの車重では必要十分。2000rpm少し上まで回せば出だしから流れに乗るまでで困ることはないし、その回転域では遠くで何やらエンジンが唸っておるのぉ、というくらい車内は静か。2500rpmくらいになるとエンジン音がしっかりと聞こえてくる。これを「耳障り」と捉えるか「いい感じ」と捉えるかは個々人の好みだと思う。筆者は後者の方。まず街中では流れに乗るだけや一般的な合流ならば2500rpm以上は回す必要もないし、2500rpm以上回す時はそれなりに意識して加速をする時。そんな時はできればエンジン音はキチンと聴きたい、となるのだ。ちなみに100km/h巡航でのエンジン回転は約2000rpm。
なおパワーユニットを活かすミッションは6AT。しかもこのミッションはマツダ製のモノ。走りに直結するモノは内製にこだわるのがマツダ流。しかしながら。いろいろなトコロで書かれていることだが、ファストバックには6MTがあるのにコチラ(セダン)は6ATのみ。運転席足元のフットレスト横にはクラッチペダルがしっかり収まりそうなスペースがあるのに。限定車でもいいから一度出して欲しいなぁ、と思うのは筆者だけではないはず。

そして好みが分かれるのはブレーキのフィーリング。踏み始めは想像以上に柔らかく、途中から柔らかめなフィーリングが変わる。ただし減速感をリニアに感じられるのでクネった道などではブレーキングも気持ちいいのだが。
クネった道では想像以上に曲がる。Gベクタリングコントロールでステア操作に対してトルクを制御してクルマの姿勢を作ってくれるので、いわゆる「教科書」通りに走らせればかなり楽しい。
乗れば、見た目はセダンだけれどこういう時はスポーツカーライクなハンドリングにいつの間にか魅了されているはず。まさに走りに一家言あるマツダらしいモノ。
クルマ好き、運転好きが作ったクルマ
マツダ3、こだわりのクルマでもある。前述のミッションもそうだが、室内も同様。例えばオーディオ。マツダハーモニックアコスティックスと呼ばれるそれは、ボディの設計時からスピーカーの配置やその向き(!)まで考慮されている。音を楽しむためなら、と一般的なドア構造にあるメンテナンス用のサービスホールまで塞いでしまうほどの念の入れよう。鈍感な筆者からすればプレミアムブランドのオーディオシステムと遜色ないくらい。
2000rpmを少し超えるか程度の高速巡航時の静粛性があってのこそ、でもあるかもしれないが、120km/h制限といった速度の高い巡航域でもボリュームを調整することはほぼ皆無だった。純正のオーディオってこんなに良かったっけ? と驚くはず。

そしてシートにもこだわりがあって、ドライビングに最適な座り方になるよう深く腰かけるようになっているのだ。これはすべての席で同じ。座ったヒトの姿勢が定まらなければ、運転者は視線が安定せず、フラフラしやすい。また同乗者にしたら酔いやすい原因になってしまう。コレを暗黙のうちに抑え込む作りにしている。結果的には長時間運転しても疲れにくいのだが、胴長短足系な筆者は顎を前に出すようなヘッドレストとの相性が悪かった。しかし座面や背もたれの疲れは少なく、座り直したことはなかったこともご報告。

今回の燃費はメーター読みで13.8km/L。高速5割、山越え3割、幹線道路(渋滞含む)2割の行程であったが、高速での燃費は思ったほど伸びなかった。ただ高速とはいえ右車線が60km/hくらいから100km/hの間で加減速の多い交通状況だったことも燃費が伸びない要因だったと思う。
SUV全盛でクルマに個性がないとお嘆きの貴兄、セダンこそクルマの王道。荷室が完全に分かれているので、収穫したばかりの長ネギや釣ったばかりの鯵を入れても車内は匂わない。車内空間も広くできる。それに何よりヒトと被らないのも魅力。今こそセダンを見直そう!!
マツダ3 20S Touring
価格 | 283万6900円〜 |
全長 × 全幅 × 全高 | 4660 × 1795 × 1445(mm) |
エンジン | 1997cc直列4気筒 |
最高出力 | 156PSps/6000rpm |
最大トルク | 199Nm/4000rpm |
モータースペック | 6.9PS/49Nm |
WLTCモード燃費 | 16.7km/L |