イスカンダルにも行けそうなデザイン
イタリア・ミラノで毎年4月の家具の見本市「ミラノサローネ」に合わせて市内随所で他分野の企業やデザイナーによる展示が行われる世界最大級のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」。そんなイベントでフェラーリが発表したのが1艇のヨット、Hypersail(以下ハイパーセイル)。全長は100フィート(約30m)級のメガセーリングクルーザーのモノハル艇。モノハル艇は船体が一つの船で、2つならカタマラン、3つならトリマランになる。いわゆるモノハル艇はモネの絵画『アルジャントゥイユのヨット』にあるようなオーソドックスなモノなのだが、フェラーリの発表したソレはまるで宇宙船のよう。特に斜め後ろや横から見ると間違いなくSF映画に出てきそうなイデタチだ。



そして艇体で目をひく黄色のカラーリングは275GTBに採用されたNuoVo Giallo Fly。加えて2トーンカラーは512BBを彷彿させ、美しも強いスポーツカーを生み出してきたブランドのDNAを表現しているという。また至る所にレースで培った技術もあるとされ、船であってもまごうことなきフェラーリなのだ。


そういやあ、昔モーターボートもあったよね、というあなたは高濃度なフェラリスタとお見受けいたす。そう2007年に当時のF430のエンジンを船用にリチューニング、文字通りのミッド「シップ」マウントにしたパワーボートがあった。なおこのボートはエンデュランスグループBというカテゴリーで平均スピード123.288km/hという記録を持っている。

空飛ぶ海のフェラーリ!?
話は戻ってハイパーセイルに。上記のようにフェラーリを名乗る以上はレースや記録といったことも避けて通れないはず。そのために艇体作りはパフォーマンスが基礎を決め、その後のデザインはらしさ溢れる美しいモノにしたという。
例えばデッキに統合されたソーラーパネルは航行中の太陽光条件を詳細に分析した結果に基づいて配置されるだけでなくシートワーク(帆などを調整するロープを使った作業)も出来るよう歩行も可能。もちろん安全性も考慮されグリップ性能も持つ。このためクルーの動きの自由度が高く作られているのだ。
フェラーリはF1チームである。そして海にもF1と呼ばれるモノがある。それはセーリング競技の最高峰、アメリカズ・カップ(次回は2027年にナポリで開催)だ。

1対1で争われるこのレースは艇体の性能とクルーやスキッパー(艇長)、ヘルムスマン(舵取り役)の連携による風の取り方で勝負が決まる。見どころはレースの駆け引きや風の取り方も去ることながら、最高速がセーリングヨットの概念を遥かに超えている点。その最高速度はなんと100km/hを超える。この速度は東京・竹芝ー伊豆大島を結ぶ高速ジェット船の80km/hよりも速い。高速ジェット船は3800馬力のエンジンを2基搭載しているがカップ艇の動力は風だけ。エコでもあるが、それだけ艇体の性能がモノをいうのだ。


ハイパーセイルを見ると、カエルのような、アメンボのような脚が生えている。これこそ速さの秘密、水中翼でもある。ある一定の速度に達すると船が浮き上がる。この時、船底と海面が離れることで船と海面の抵抗が少なくなり、動力(この場合は風)が効率よく推進力になるのだ。帆走、いや滑走中は海面付近を低空飛行しているように見える。それだけの速さを支えるのは軽い艇体と風の力を受け止める強靭なマストと大きく軽いセール(帆)だけ。

アメリカズカップの話で恐縮なのだが、水中翼が登場する前まで、船の下のキールはメインテナンスなどで艇を陸に揚げた時は覆いをするほどの最高機密。それほど艇体下は重要箇所になる。
水中翼が登場してからはまた違う競争になった。この足のようなモノはフォイルカントアームといい、最近ではバッテリー駆動の油圧で動かすのが主流。タック(風上に船首を向ける)やジャイブ(風下に船首を向ける)で水面に脚をつけるような仕草はまさに生物的だ。なおこの動作の時にチラリと見える艇体やフォイルカントアームはデザイナーの腕の見せ所でもあるという。
さてハイパーセイルである。艇重や最高速などの詳細なスペックは未発表だけれど、間違いなくアメリカズカップのレース艇などと同じ性能以上と予想される。マストの高さは40mになるし、メーンセールの大きさはボーイング747の主翼よりも大きくなるはず。すべてがケタ外れなレーシングヨットの設計コンセプトは「フェラーリ車を唯一無二の存在とするデザインおよび美学の精神を航海の世界へと移植すること」という。
前述のようにフェラーリはF1チームである。ひょっとすると海のF1にも参戦するのかも。年内に進水予定というからこれからの動向に注目だ!


































