鈴木啓太さん × 川上典李子さん対談 いま改めて注目したいディーター・ラムスの魅力とは

現在、開催中の企画展「デザインの先生」で紹介されているディーター・ラムス。ドイツ・ブラウン社で長きにわたり活躍した彼について、ファンを自称する鈴木啓太さんと、同展のディレクターを務めた川上典李子さんが対談した。

写真/青木健格(WPP) 文/杉江あこ

ブラウンのポータブルラジオ&レコードプレーヤー「TP1」。1959年に発売された象徴的なプロダクト。「革新的であると同時に美しい。本展でぜひとも紹介したかった製品のひとつです」と川上さん。
1960年代のシェーバーや1980年代の電卓。Appleの元CDOであるジョナサン・アイブがラムスを敬愛していて、これらのブラウン製品に深く影響を受けてきたことも有名。

──おふたりにとってラムスのデザインの魅力とは何でしょうか。

鈴木:タイムレスなデザインということに尽きます。製品は古いにもかかわらず、そのデザインは古臭いとはまったく思えない。時代を超えた完成度と美しさがあります。

川上:展覧会で6人の先生を紹介すると決まったとき、ラムスは最初から候補に上がりました。というのも、後世の工業製品に対する影響力が大きかったから。「良いデザインの10ヶ条」を見ても、デザインの普遍的な考え方が述べられていて、時代を超えるデザインの基礎であることが分かります。

ディーター・ラムス
「良いデザインの10ヶ条 」
 

良いデザインは、革新的である
良いデザインは、実用的である
良いデザインは、美しい
良いデザインは、分かりやすい
良いデザインは、主張しない
良いデザインは、誠実である
良いデザインは、長持ちする
良いデザインは、細部まで完璧
良いデザインは、環境に優しい
良いデザインは、簡素

鈴木:ラムスは建築家の事務所で働いた後、ブラウンに入社するんですが、入社1年目はショールームのインテリアデザインに携わっていました。そこでモノを整理整頓してモジュールで整えるというインテリア的な手法を構築していきます。人間中心の暮らしのなかで道具は必要以上に主張せず、自然な姿であることを目指しました。

川上:その後、ブラウンにデザイン部が正式に創設されるとラムスはチーフに就任、30年以上チームを率いました。注目したいのは、精緻なデザインポリシーやトータルなデザインイメージを踏襲して良いデザインを次代に引き継いでいこうとする姿勢。ドイツならではのデザイン魂を感じます。グラフィックもインターフェイスもとても整理されていますよね。

鈴木:そう、ラジオのノブとか操作ボタンとかさまざまな要素を体系立てて、ラムスはインターフェイスの基礎的な概念を作った。さらに美しいタイポグラフィーも相まって、複雑な情報を整理するためのひとつのシステムデザイン的な原型を作ったんですよね。

川上:1950年代、ブラウンは先進的な技術によって、トランジスタラジオなどの新しい製品をどんどん生み出していきます。

1980年代に発売されたアラームクロックは、現在も生産され続けている人気の製品。
つまみの形やボタンの色一つひとつを見ても、人間が使いやすいよう丁寧に作られている。

鈴木:この時代は新しい素材が出てきてブラウンはそれをうまくデザインに取り込んでいきました。ラムスは「自分が作っているのはスケルトンの状態である」という持論の下、華美な装飾を排除しました。モノが本来もっているプロポーションや構造に立ち返ることをし、それにより未来を変えようとしていたことにもパワーを感じます。

川上:戦後、世の中が豊かになっていくにつれ様々なデザインの潮流が生まれていきますが、それらに迎合することなく一途に独自のスタイルを貫いた点にも魅力がありますね。

鈴木:また1960年代にはプラスチックが登場して、金型を使った成形方法が主流になります。通常、成形後に脱型するためにテーパーを付ける必要があるのですが、ラムスはそれを嫌がった。モジュール上、製品の外面は真っ直ぐに立っていないと気持ちが悪いから。そこで成形効率を犠牲にしてでも、テーパーを排した垂直な造形を追求しました。コストを掛けてでも、デザインが資産になると見込んだのでしょうね。

1972年に発売された、ブラウンのスピーカー「L260」。金型成形だからこそ実現できた、三次曲線の角の丸みが特徴。鈴木さんの私物のひとつ。

──鈴木さんはいつからブラウンの製品を集め始めたのですか。

鈴木:20代前半かな。高校生の頃から椅子やプロダクトが好きで集め始めて、就職してからはドイツ・イーベイでブラウンの製品を探すようになりました。僕、同じ製品をふたつずつ買ってコレクション用と分解用にするんです。プロダクトデザイナーの視点で、こんなに素晴らしいモノの仕組みは一体どうなっているんだろうという興味本位から分解します。すると、大抵、製品の内部はスカスカで、8割くらいが何もない空間で驚かされます。

1950年代以降、ブラウンはラジオやレコードプレーヤー、アンプ、スピーカーなど多くのオーディオ製品を世の中に送り出した。同展のために、鈴木さんの私物も何点か貸し出された。

川上:余白があるんですね!

鈴木:通常、電化製品の内部は1ミリの隙間もないくらいに詰め込んでデザインします。大きなモノを作れば、それだけ材料費も製作費も上がるし、輸送費も上がる。でもあの当時、ラムスは堂々と大きなモノを作っていた。それはモジュールやモノとしてのサイズ感を重視していたからなんでしょうね。

ブラウンの壁掛けオーディオシステム。ラジオ&コントロールユニット、オープンリール、スピーカー、ターンテーブルで構成された、モジュールの美しさを感じる逸品。

川上:そういうフィジカルな感覚を、展覧会でも伝えたいんです。

鈴木:大量生産が進化して、いまはスマホに象徴されるようにハードウェアからソフトウェア偏重の世の中になっていますが、モノの中の情報を整理するという点では昔もいまも同じ。もしラムスが現役で活躍していたとしたら、変わらず人間中心の考え方でデザインするんじゃないかと思います。

川上:ラムスなら未来に向かって何をしてくれるんだろうと考えるだけでワクワクします。いまこそ彼の言葉に改めて耳を傾けたいです。

ジャーナリスト
21_21 DESIGN SIGHT
アソシエイトディレクター
川上典李子さん

デザイン誌『AXIS』編集部を経て1994年に独立し、デザイン分野を中心に執筆。2007年より21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターに就任。
プロダクトデザイナー
鈴木啓太さん

NECデザイン、イワサキデザインスタジオを経て、2012年にPRODUCT DESIGN CENTER(PDC)を設立。鉄道列車など多岐にわたるプロジェクトを手がける。
21_21 DESIGN SIGHT企画展「デザインの先生」
会期~3月8日/休館日 火曜日/開館時間 10:00-19:00(入場は18:30まで)/会場 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
戦後のヨーロッパで独自の道を切り拓いた巨匠6人、ブルーノ・ムナーリ、マックス・ビル、アキッレ・カスティリオーニ、オトル・アイヒャー、エンツォ・マーリ、ディーター・ラムスを「デザインの先生」として紹介。彼らが残した言葉や活動を振り返り、その背景にある哲学を引き出す。
展覧会ディレクター:川上典李子、田代かおる

関連記事一覧