
普段何気なく過ごしている時には意識しないけれど、実は私たちの身体や心に重要な働きを持つ「脳」。物理的に感じる機会が少ないため、どこか自分のものではないような存在に感じている人も少なくはないだろう。
そこで、「脳」のことをもっとよく知るきっかけになるような、ユニークなアート展を紹介しよう!
日本神経科学学会では、50周年記念イベント「Past & Next 50 years of Neuroscience」として、アートデザイン展「脳科学とアート」を8月に開催した。

総合監修は、建築、インテリア、スペースからプロダクト、パッケージデザインまで、デザインを総合的に行っているデザイナーで東大先端研AADの伊藤節氏と伊藤志信氏が手がけた。
東大先端研AADからは、AADアドバイザーである河口洋一郎氏( CGアート)、社会連携協力研究員の近藤真生氏(インタラクティブアート)が、アーティストとして参加。また、筑波大芸術系から内山俊朗氏、勝部里菜氏、猪瀬陽氏がアーティストとして参加した。
会場には、“脳科学とアートを工芸デザインでつなぐ”をテーマに、5人の匠による趣向を凝らした伝統的技術による作品が展示された。
開催を記念して、伊藤節氏、伊藤志信氏をナビゲーターに、神経科学をアートに変換して読み解くための5人の匠によるギャラリートークも展開!

「これらのアートは、脳という我々皆が持っていながら物理的に感じる機会の少ないどこか自分のものではないようなものの存在価値を実感させる、人間と脳科学をつなぐ鍵となるでしょう」と語る匠たち。それでは、それぞれの作品を見ていってみよう!
まず、京都の伝統的な茶筒を手がける「開花堂」の6代目八木隆裕氏は、酸化させた銅板に神経細胞の形を掘り込んだ金槌でひとつひとつ刻印していき、表面を磨き上げてオリジナルな茶筒を仕上げた。

「Selectivity」の茶筒と皿は、使う人の手の感触から神経細胞とその伝達の働きを感じさせてくれるオブジェになっている。
また、金網道具の匠である「金網つじ」の辻徹氏は、神経細胞間の情報伝達を道具の歴史を持つ京金網で表現した、繊細な脚付きの器を製作。

木工の匠として知られる「中川木工芸」の「比良工房」を主宰する木桶職人の中川周士氏は、脳内の神経細胞の軸索走行を木工、桶の技術で表現したアート作品を展示した。


陶芸作家の大原功樹氏は、不織布をモチーフの形に切りそこに顔料を染み込ませて絵付けをする「布染」の技法を活用。神経細胞間の情報伝達を陶芸の布染技術で表現したプレートを作成し、細かな模様を美しく表現した。


さらに、沖縄県読谷村にある工房宙吹ガラス工房「虹」を経営する、琉球ガラス作家の稲嶺盛一郎氏は、脳の神経活動を琉球リサイクルガラス、土紋技術で表現したプレートを展示。

読谷の珊瑚土を溶けたガラスに溶解させることで、自然の文様を描き出したものだ。付着しているのは、珊瑚のカルシウムで、ひび割れた模様とざらざらとした手触りが、独特である。
その文様は、まるで生きている脳のように美しく神秘的であり、廃材から生まれた色と共に新しい表情を見せてくれる。
全作品のデザインと監修は伊藤節氏と伊藤志信氏が行った。伊藤節氏は、以下のように語る。

「私たちのオフィスがあるイタリアでは、ルネサンス期に、万能の芸術家であるレオナルド・ダ・ヴィンチを生み出しました。レオナルド・ダ・ヴィンチは、医学、特に脳の研究にも情熱を傾けました」
「この展示会では、神経科学をアートに変換して読み解くために、通常では見えず触れることができないものを、様々なマテリアルを使い、日本の工芸を通してデザインとその制作監修を行いました」
「神経科学を意識しながら、同時にそれぞれの素材工法の特徴を活かし、アートの新しい側面を引き出した工芸デザインアート作品です。神経科学へのより深い理解と共感を導き出せるものと信じています」。
会場では、近藤真生氏が手がけた、人の脳とアートをインタラクティブにコネクトする装置が置かれ、斬新な映像が流れる。

「感覚間相互作用」と言われる、脳内で認知される広大な心象風景を、ダイヤルを回すことで体感できる、神秘的なインタラクティブアートだ。人にとって大切な「脳」の存在を、直感的に感じることができる仕組みだ。
「生命の際(きわ)」と題した、河口洋一郎氏のCG作品を元に作られた、「Growth 2024」もユニークだ。

コンピュータ画面の中から、三次元に取り出した漆塗りの立体作品で、ニューロンが枝分かれする前の蔓が伸びた状態を再現。漆塗りの新しい技術と共に、神経細胞の成長の息吹が表現されたものだ。
日本神経科学学会員の倉庫にしまわれていた、美しいカバーアート作品や日本神経科学学会50周年を記念したて「脳マップてぬぐい」も展示されるなど、脳科学とアートが有機的に合わさることで、脳神経の仕組みを誰もが身近なものとして捉え、理解できる楽しい展示となった。


主催:一般社団法人日本神経科学学会
協賛:バイオリサーチセンター株式会社 / TIYONI株式会社
協力:東京大学先端科学技術センター/ 寧波大学科学技術学院 / ソニーグループ
企画 運営:日本神経科学学会50周年事業WG
伊藤節特任教授、伊藤志信特任准教授関連サイト
日本神経科学学会


































