第一次世界大戦に初めて登場し、第二次世界大戦で一躍主力兵器として発達した航空機の進化の様は、スピードの追求や大型化にともなって変化した機体のスタイリングだけでなく、コックピットデザインの進化にも見ることができる。
文と構成/ワールド・ムック編集部
コックピットとは
コックピット:Cockpitとは、パイロットやフライトエンジニア、ナビゲーターら航空機の操縦を司るクルーの “聖域”。その名称は、狭い場所(pit)で忙しく動く雄鶏(cock)をイメージした闘鶏場に由来するという。コックピット内の彼らは、それほど忙しない作業を強いられるようだ。
航空機の高性能化は、第二次世界大戦末期に出現したジェット機の登場によって一気に促進され、とくに速度と上昇力においてはそれまでのレシプロ機とは比べものにならないほどの飛躍を遂げた。コックピットの計器やレバー類も航空機の高性能化に応じて複雑かつ多種多様となり、数も増えたが、レシプロ機の名残りすら感じさせる初期のジェット機から、朝鮮戦争やベトナム戦争、あるいは湾岸戦争を経て進化し、さらにコンピューターの介入やCRTディスプレイの導入によるグラスコックピット化が進んだ現用の航空機では、そのデザインや操作性は大きく異なっている。
本項に続く写真は、コックピットがもっとも “コックピットらしさ” を見せた、第二次世界大戦直後の、ジェット化が世界の航空界に大きなうねりを与えていた時代からベトナム戦争時までを代表する、アメリカ空海軍機を中心(一部、対峙した旧ソビエト空軍機を含め)とするコックピット総覧である。
操縦訓練に使用するコックピットシミュレーターで、左は固定翼の単座機、右は攻撃ヘリである。軍用機、民間機とも実機とまったく同じ計器やレバー類が配されており、モーション機構を組み込んだタイプもあって実際に操縦したとおりにシミュレーター装置全体が動き、振動し、音響装置による音も響く。もちろん、誤操作時における事故や墜落も再現可能だ。
1950年代の海軍戦闘機のグラマン9Fパンサー(左)と1980年代のノースロップF-20タイガーシャーク(右)の実物。
マクダネルダグラスF-4ファントムⅡは世界で5,000機以上が使われた傑作機で、空海軍・海兵隊ともベトナム戦争で主力戦闘爆撃機の座にあった。全型ともタンデム複座で、上図は前席パイロット用の計器類。なお下図はC型の性能を向上させたF-4Dで、6機撃墜を果たした米空軍のトップエース、チャールズB.ドベルビュー大尉の乗機として有名な機体。ただし、大尉はパイロットではなく、後席で任務に就くWSO(兵装システム士官)である。
F-5F前席計器盤
①降着装置位置指示灯 ②ドラッグシュート・ハンドル ③フラップ位置指示器 ④速度/マッハ計 ⑤姿勢指示器 ⑥ピッチ・トリム指示器 ⑦姿勢指示器ファスト・エレクト・スイッチ ⑧迎え角(AOA)インデクサー ⑨コンピューティング光学照準器 ⑩サイト・カメラ ⑪時計 ⑫作動油圧計 ⑬エンジン回転計 ⑭エンジン排気温度計 ⑮ 補助インテーク・ドア位置指示器 ⑯二重式オイル圧力計 ⑰キャビン高度計 ⑱ノズル位置指示器 ⑲二重式燃料計 ⑳二重式燃料流量計 ㉑主警報灯 ㉒加速度計 ㉓火災警報灯 ㉔レーダ・コントロール作動指示灯 ㉕レーダ指示器 ㉖方位情報指示器 ㉗昇降速度計 ㉘予備姿勢指示器 ㉙高度計 ㉚迎え角(AOA)指示器 ㉛アレスティングフック・ボタン ㉜脚ダウン・ロック・オーバーライド・ボタン ㉝脚操作レバー ㉞脚およびフラップ警報解除ボタン
①ショルダー・ハーネス ②耐G服ホース ③エルボー・ガード ④安全ベルト ⑤ハンド・グリップ ⑥イナーシャリール・ロックレバー ⑦サバイパル・キット ⑧座席調節スイッチ ⑨座席安全ピン ⑩酸素/通信装置リード ⑪地上用安全ピン ⑫ホース保持ストラップ ⑬マン・シートセバレータ・ストラップ ⑭キャノピー・ピアサー
F-5F後席計器盤
①降着装置位置指示灯 ②ドラッグシュート・ハンドル ③速度/マッハ計 ④火災警報灯 ⑤ピッチ・トリム指示器 ⑥主警報灯 ⑦迎え角(AOA)インデクサー ⑧姿勢指示器 ⑨時計 ⑩レーダ・ビデオ/FCSモード表示灯 ⑪補助インテーク・ドア位置指示器 ⑫エンジン回転計 ⑬排気温度計 ⑭ノズル位置指示器 ⑮レーダ・コントロール作動指示灯 ⑯レーダ指示灯 ⑰加速度計 ⑱昇降速度計 ⑲方位情報指示器 ⑳予備姿勢指示器 ㉑高度計 ㉒迎え角(AOA)指示器 ㉓アレスティングフック・ボタン ㉔フラップ位置指示器 ㉕脚ダウン・ロック・オーバーライド・ボタン ㉖脚操作ハンドル ㉗脚およびフラップ警報解除ボタン
①ショルダー・ハーネス ⑮バラシュート・リップコード ⑯通信装置リード・デイスコネクト ⑰耐G服ホース・デイスコネクト ⑱サバイバル・キット・デイスコネクト ⑲サバイパル・キット吊下げライン ⑳サバイパル・キッ·ト・ホールドダウンストラップ ㉑脚拘束ライン ㉒下部ガーター ㉓上部ガーター ㉔酸素供結ホース ㉕マスク酸素ホース・ディスコネクト ㉖非常用酸素ホース・デイスコネワト ㉗バラシュート・ライザー
F-86セイバーはノースアメリカン社が開発し、アメリカ空軍をはじめ西側諸国で広く使われ、航空自衛隊は初代戦闘機として400機以上を使用、アクロバット飛行隊 “ブルーインパルス” の初代使用機としても有名である。1947年に初飛行し、朝鮮戦争でMiG-15と戦って多くのエース(敵機5機以上撃墜)パイロットを輩出した。E型は2番目の量産型。
水平尾翼付きのデルタ主翼を持つ旧ソビエト空軍のマッハ2級戦闘機。こちらは北ベトナム空軍に供与され、ベトナム戦争でアメリカ空海軍戦闘機と戦火を交え、10機以上のアメリカ機撃墜を含む数名のエースパイロットを輩出した。ミコヤン・グレヴィッチ設計局が開発し、原型機は1955年に初飛行した。PFは最初の量産型。全天候性能を持ち、パネル中央にレーダースコープがある。
ミコヤン・グレヴィッチ(MiG)設計局が開発した旧ソビエト空軍初のジェット戦闘機で1947年に初飛行したと言われ、朝鮮戦争時の1950年に中国空軍機が突如、連合国軍の前に現われた。アメリカ空軍のF-84およびF-86の好敵手として有名で、肝心のジェットエンジンは第二次世界大戦時にイギリスで開発されたロールスロイスのエンジン技術を入手して完成した。
ノースアメリカン社が開発し、1964年に初飛行したアメリカ空軍向けの超音速戦略爆撃機。先尾翼とデルタ主翼、6基の協力なエンジンを持つ特異なスタイリングとヴァルキリー(ワルキューレの英語読み)のニックネームで有名だが、事故や戦略体制の見直しで計画はキャンセルされた。エンジンの基数を示す、中央に6個ずつ並んだ計器や6本のスロットルレバーが壮観である。
ボーイング社が開発したB-47ストラトジェットは1947年に初飛行した米空軍の戦略爆撃機で、細長い胴体に後退角のついた主翼に6基のジェットエンジンをもつ流麗なスタイルで有名。爆撃機としては珍しいタンデム型のコックピットである。操縦輪(コントロールホイール)の中央に「BOEING B47」の社名・機種名が記入されている。RB-47Hは偵察型。
コンヴェアB-36は1946年に初飛行した上記B-47の先輩格にあたる戦略爆撃機で、レシプロからジェットへの過渡期にあたるため、プッシャー式に配置された強力なレシプロエンジン6基に加え、必要に応じて使う4基のジェットエンジンを主翼の両端に各2基ずつ備えていた。中央下部に見える6本のスロットルレバー(T1~T6)はレシプロ用、ジェット用は上部にあって写真では見えない。
X-3スティレットはダグラス社が超音速持続飛行の検証のために製作した機体で、「X」は実験機を示す記号。完成したのは1952年に初飛行した1機だけで、コックピットのパイロットは緊急時、下方へ脱出する珍しい方式を採用していた。正面パネルの最上部中央に「MACH NUMBER」と標示のあるマッハ計が置かれているあたりが高速実験機らしい。
ジェネラル・ダイナミックス社が開発した世界初の実用可変翼機で、1964年に初号機が初飛行した。全長23mを超える大型機で、コックピットは珍しい並列複座配置。左側が機長(パイロット)席で右側にはWSO(兵装システム士官)が座る。通常、WSOは操縦にはかかわらないが、操縦桿やスロットルレバーは両席に備えられている。緊急脱出はコックピットごと放出されるモジュール式。
F-86セイバーの後継機として、ノースアメリカン社が1953年に初飛行させた戦闘機で、初の実用超音速機。やがて戦闘爆撃や偵察が任務に加わり、核兵器運用能力も備わってベトナム戦争でも使われた。写真は複座のF型の前席で、正面パネルの中央部にある4個の大型メーターは右上が昇降計、以下時計回りに高度計、ラジオ方位計、水平儀・姿勢指示器。