総合百貨店の本気
住友ゴムってダンロップブランドでお馴染みのタイヤメーカーでしょ、と思ってしまいがちだが、ジツはそうじゃない。ゴルフボールから建物の制振ユニットまで幅広く手掛けるゴムをメーンとした百貨店のような企業なのだ。かように幅広い商品群を持つ住友ゴムが今年から水素も手がけると発表。残念ながら商品として市販化ではなく、主力工場のエネルギー源として積極的に活用していく方針という。そんな「水素発生装置」のお披露目が同社白河工場で行われた。
同工場は操業50周年を迎え、乗用車だけでなくバスやトラック向けのタイヤはもちろん、ダンロップ以外にもファルケンブランドも手掛けている国内主力工場になる。

水素でタイヤができる!?
ジツは住友ゴム、水素を燃料としてのタイヤ作りは2021年から行っており、ファルケンブランドのフラッグシップタイヤ、AZENIS FK520というモノがそれになる。

誤解ないようにお伝えしたいのは、水素を使ってタイヤを作る、といってもタイヤの原材料ではなく、製造工程の1部の燃料代わりに水素を使う、ということ。タイヤは製造の最終段階で加熱・加圧する工程(加硫工程という)があり、その加熱するボイラーの燃料に水素を使う。このボイラーは高い温度や圧力が求められるため、従来は天然ガスを使っていた。
それが実際に製造をする実証実験で「想像以上に使えるやん!」となり、自分たちで作るのはどうだろうか、となったのが今までの流れだ。それまでの水素は福島県内の水素製造拠点で作られたモノをトレーラーで運んで来ていた。

水素ってボンクラな筆者でも環境に良さそうだし、生産するうえで避けて通れない二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と吸収量を相殺、実質的な排出量をゼロにするカーボンニュートラルにも貢献できる、と思える。
なんだ、水素っていいコトづくめジャン、と単純な筆者は思うのだが、企業活動としては大きな壁が立ちはだかるのだそうな。代表的なのはコストの問題。通常の化石燃料などに対して水素は最大で12倍の費用がかかる。12倍! 日本文芸社で連載中の「ミナミの帝王」でさえ利息はトイチ(10日で1割)なのに。それならば自分で作ってしまおうか、となるのも頷ける。
ちなみに筆者がトヨタ「MIRAI」を試乗した時の水素価格は1100円/kgだった。それが今は2200円のプライスも散見できるという。
工場萌え!?
水素はタイヤの生産にもキチンと使えることがわかったし、自前で作ってしまおう、となったのはある意味当然の成り行き。そこで水素発生装置である。未知なる水素発生装置の響きに工場マニアもテンション爆上がりなイデタチを想像したのだが、対面したそれはコンテナ状のシンプルなモノだった。

筆者は工場、装置といった言葉からもっと金属的な光沢や質感を想像し、マクラーレン・ホンダMP4/4に搭載されたRA168Eエンジンのエキマニの如く激しくうねったパイプ感を想像したのだが、最先端の技術は違った。
白河工場のそれは山梨県、東レ、東京電力、東光高岳が開発したいわゆる「やまなしモデルP2Gシステム」と呼ばれ、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成、事業委託を受けたモノ。

この装置で24時間、1年間稼働させることで約100tの水素が生産可能という。
エールを送りたい!
同工場は高精度メタルコア製造システムを導入し、高性能なタイヤ作りを実現した。この製造システムはNEO-T01と呼ばれ、従来の作業工程を大幅に減らしたほか、それまで必要だったスペースもそれまでの1/10とコンパクトな設備に。この製造工程はメタルコアと呼ばれる金属製の立体成型フォーマーにタイヤ部材を貼り付けていく工法。

そして今回の水素発生装置と従業員駐車場屋根に設置された太陽光発電パネル(画像の左下)の相乗効果でNEO-T01を稼働させることができるという。

メタルコア製造システムがカーボンニュートラルで稼働するのなら、工場全体もそうなる日は近い、のかと思ってしまうがまだまだハードルは高い。前出の製造システムで作られるタイヤは数%しかない。しかしながら。自分で水素を作るのは大賛成。以前、トヨタのMIRAIに乗って水素って大ありじゃん! と筆者は思ったが、遅々としてそのインフラは進まないし、MIRAIがガス欠、ならぬ水素欠になったら保険サービスどころか頼みの綱のJAFもお手上げで、最寄りの水素ステーションに運ぶ以外方法がない。そんな遅々として進まない水素のインフラ整備を考えると住友ゴムは漢よのう、と思うのだ。