ダンロップの二刀流、見参!
ダンロップがまったくの新世代タイヤとうたう「シンクロウェザー(以下SW)」を発表したのは既知の通り。これは夏も冬も場面を選ばず走行できるのが特長で、それを支える新技術がアクティブトレッドというモノ。
今までのタイヤは雪上や氷上では接地面の水分を吸水したり、排水したりと極力水分を邪魔なものとして扱ってきたが、アクティブトレッドは湿度や水分を逆に利用しタイヤ自体が変化していく夢のような技術なのだ。
根が文系の筆者はもう拒絶反応しそうなレベルの話でゴムが冷えたら柔らかくなる、それって太陽が西から登っちゃうように万物の法則に反していないかと悶々としてしまう。しかし入試問題でも難しいモノは後回しが鉄則。そういうことは専門誌に任せることにして、冬の実体験をお伝え申す。夏場の実体験はコチラ
カメレオンのようなタイヤ?
ジツはこのタイヤや技術そのモノは昨年のジャパンモビリティショーで軽いジャブ程度に発表されていたのだが、今回満を持しての発表。冬はゴムが硬くなるのが物理の法則。それを低温でも柔らかくし、スタッドレスタイヤ並なグリップを確保している。夏は硬く冬やウェット面では状況に応じて変化可能と、まるでカメレオンのごとし、なのだ。
そんな都合良くいくかしらんと思っていたら、「どれだけスタッドレス並な性能なのか、実際に体験いただけます!」とありがたいオファーがあり、最近5%ほど斜め目線が増えた筆者は「どれだけスタッドレスタイヤ並なのか、体験してみませう」と大正時代の書生のごとく一足早く冬の北海道で試してまいった。
コースは北海道の某所。某所といってもショッカーのような秘密結社の基地ではなく、キチンと看板は出ている。いやもしかしたらこの新世代タイヤで世界征服を目論むのかもしれぬ。ゴン!(筆者注:担当にオシオキされた音)
摂氏0度付近の憂鬱
さてテストコースであるからして、いろいろな難関が用意されている。まずは寒冷地「あるある」の氷上発進からの停止。そして氷上路面での旋回。さらに寒冷地やウィンタースポーツへのアクセスで必ずある雪上でのコーナリング(圧雪路)や実際に出くわしたくないシチュエーションNo.1の緊急回避を想定した雪上スラロームになる。それをクリアすると下り坂が待っているけれどフリー走行というモノ。
当日の気温はマイナス2度と0度付近を行ったり来たりとスタッドレスタイヤには厳しいコンディション。ちなみになぜこの温度帯が滑りやすいのか。それは路上表面の雪や氷が溶けたり、凍ったりしているから。昔の某タイヤメーカーのCMではないけれども「濡れた氷は滑るけれど、乾いた氷は滑らない」ということだ。事実、マイナス30度を超える極寒の地ではサマータイヤでも問題なく走れるという。つまりこの厳しいコンディションは次世代オールシーズンタイヤのグリップを試すにはぴったりなのだ。
滑らなければどうということはない!?
テストコースに待ち構えてくれたクルマはFFのカローラツーリング。タイヤサイズは195/65R15と一番コアなサイズと思われる。新しいオールシーズンタイヤ、SWとその比較用に準備されたタイヤは2つ。純スタッドレスタイヤのウィンターマックス02(以下WM02)、そして従来のオールシーズンマックス(以下AS1)だ。
いざコースイン。まずはゼロ発進から30km/hまで加速し目印からの減速、停車に挑戦。滑りやすい道の基本中の基本、ソロリソロリとアクセルを踏むことを前提としてまずはWM02から。クリープでの動き出しは問題ないがアクセルを入れると、空転を始めた。その後もスロットル開度を開くたびに空転、加速を繰り返し進んでいく。安全なテストコースということで遠慮なくガツンとフルブレーキ。ABSの作動をペダルで感じるゼ! パイロンの数でおおよその停車目安を確認。氷上での基準となりそうなWM02でコレだからSWはもっと滑るんだろうな、と思って走らせると、なんとまったく同じような挙動。しかもブレーキングもほぼ同じ感覚。コレには驚いた。対してAS1は空転が収まらず、じわりじわりと加速するが、規定の30km/hまで加速できたかも怪しく、停止までは一番長かった。氷上はどんなタイヤもダメと言うがSWの健闘ぶりにはびっくり。
次の氷上旋回へ。WM02でも滑る滑る。メーター読みでたった15km/h付近なのに旋回円の外側に進んで行く。テストコースということで左足でちょいちょいブレーキを踏んでフロント荷重にしても膨らんでいく。続いてSW。こちらも膨らむけれどアクセルの操作だけで想定旋回円をトレースできる。しかもコントロールしやすい! 「ウッソー!!」とバブル期の女子大生のように叫んだのは言うまでもない。最後にAS1。こちらはアクセルを入れるとどんどんフロントが逃げていく。テストなので遠慮なく他と同じようにあえて急激にアクセルを戻すと一瞬リアが流れ出し、修正を余儀なくされた。一般道だと肝を冷やす瞬間だ。
その後圧雪路へ。氷から圧雪に変わりどのタイヤも俄然勢いよく加速する。そしてコーナリング。圧雪とはいえ日陰が見受けられ、部分的にアイスバーンを想定して進入。ここは50km/h付近でクリア。どのタイヤもラフにアクセルを入れたり抜いたりしてみたがその速度域ならしっかりグリップしてくれた。SWはタイヤの柔らかさを感じたが、不安はなかった。そこから普段なら絶対にやりたくない緊急回避を想定したパイロンスラローム、路面は圧雪。車速は60km/hを少し上回るかどうか。パイロン直前でアクセルオフ、急なハンドル操作でパイロンを回避したところからアクセルオン。筆者の感覚で申し上げれば、初期応答のクイックさはWM02で、SWはゴムのカタマリ感的なフィーリングはあるけれど一番コントロールしやすかった。筆者の中ではフィーリングも効きも絶対WM02だと思っていただけにビックリ。またそういったシチェーションでもSWは路面状況がキチンと伝わってくる。そしてこの速度域で室内への音はWM02のロードノイズが一番大きいように感じた。
最後の一番速度が出るくだり坂のコーナーも急激に減速して旋回。3つのタイヤともABSが瞬間的に介入するのだが、WM02もSWもすぐに収まった。以上が実体験なのだが、SWのクルマに乗って「コレ、WM02ですよ」といわれたら信じそうな感じ。メーカーいわくスタッドレスの限界性能と比較するとやや劣るそうだが、どうしてどうして。これはオールシーズンタイヤの概念が崩れそうな勢い。
雪道は慎重に、が基本!
当日は一般道も走れる機会が設けてあった。一般道はテストコースと違い、わだちはあるし、日陰はアイスバーン、わだちも磨かれてツルツルになっているしとキレイな圧雪路ではない。おまけに部分的にアスファルトの露出もある。より実践的ではないか。
ぜひぜひ、としたり顔で乗り込んだのはAWDのメルセデス・ベンツのSUV、GLC。今やSUVは一般道で大部分を占める人気カテゴリー。次世代タイヤとしては重量級のモデルにどう対応できているのか、楽しみだ。試乗車のタイヤサイズはこのカテゴリーでは多い235/60R18。クルマの外気温計は-5度といったコンディションでコース外へ。
一般道へ出て最初に感じたのは路面インフォメーションの良さだった。もちろんGLCの素性の良さもあるけれど、今走っている路面状態がつかみやすい。見渡す限り雪でヒトも他車(後続含めて)もキタキツネもいないなぁ、と鼻歌まじりの筆者、一時停止の看板を見落としそうになって急ブレーキ! 路面は圧雪ながらも磨かれたわだちと磨かれすぎて地のアスファルトが露出していたが、GLCは一瞬のABS介入でキチンと停止線で停止。このエピソードしかりで重量級のSUVだとしてもSWは相性が良いようだ。制動やゼロ発進、ゆるいRがついた場所も不安材料がなかった。雪道で怖いのは滑ることよりも膨らんでしまうことと言われる。そこでまわりに民家もヒトも他車も警察(?)もいないことを確認してから曲がる時に、アクセルを踏んで旋回するのと踏んでも離してもいない状態で旋回、アクセル全オフで旋回をいずれも定速で試したがクルマの挙動は乱れることもなかった。路面は圧雪に新しい粉雪が乗った感じだった。
チェーン規制もばっちこい!
SWにはスノーフレークマークが刻印されている。このマークは高速道路などのチェーン規制時でも走行できると認められたモノ(編集部注:一部高速道路ではタイヤチェーン必須の区間もあります)。そしてこのスノーフレークはアメリカ試験材料協会(ASTM)の厳しい寒冷地でも十分な性能を発揮できることを認めた製品に付く証なのだ。加えて国連規定で定められたアイスグリップシンボルもオールシーズンタイヤとしては初めて取得している。コレって今までのオールシーズンタイヤは凍った路面は推奨できない、いわば「そこはダメよ」的なモノだったがSWはばっちこいなのだ。もちろんアイスバーンはどんなクルマでもタイヤでも満遍なく滑るので過信は禁物。
購入は専門家のアドバイスで
想像以上に万能ぶりのSW。都市部在住でウィンタースポーツを趣味とするのならばコレ1本で十分以上の性能だと思う。しかし上記の画像にあるようにスタッドレスタイヤの方が2m制動で勝っているのも事実。確かにスタッドレスタイヤの購入費用や保管、交換の煩わしさから解放されそうだが、ウーム。と悩める皆さま、SWは商品特徴が従来品と異なるため、しばらくは専門の知識を持った住友ゴム認定店のみの取り扱いとなる。まずはそこで相談してみるのが王道。10月に販売されるサイズは15インチから19インチまでの全40種。価格は175/65R18の2万1450円から245/40R18の6万9630円まで。来年には14インチから20インチクラスまでラインナップを拡充するという。SWは文字どおりオールシーズンにマッチしたタイヤなのだ。
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