内外で快挙続々!『ゴジラ-1.0』山崎貴監督インタビュー完全版<後編>:特撮ばんざい!第42回


『シン・ゴジラ』の衝撃から7年。新たなる日本のゴジラ映画を作り上げる、この大役を務めたのは、数々のヒット作を手がけ、日本のVFX映画の第一人者でもある山崎貴監督。最新のVFXによって描かれるゴジラの脅威と、山崎監督の持ち味である人間ドラマが交差する『ゴジラ-1.0』は、国内興収60億円を突破しただけでなく、世界興収160億円も記録し、世界中から熱烈な歓迎を受けた。今回は、日米アカデミー賞の発表で盛り上がる中、昨年の映画公開直前に収録された「ネタバレ解禁インタビュー」の完全版をWEB公開します。

取材・文 タカハシヒョウリ

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今なら、理想のゴジラを表現できる

本作のゴジラのデザイン検討のため、山崎監督が描いた初期デザイン。

――今作には見たことがないようなゴジラの映像がたくさんありますが、ゴジラのVFXで意識した点は?

山崎:VFXのチームと言っていたのは、とにかくゴジラとの距離感を近くしたいと。「ゴジラが近いと怖ぇ!」っていうのは『ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦』の知見でわかっていたので、逆算でシチュエーションを作っていきました。足のすぐ近くにいたりとか、咥えられた電車の中にいたりとか。ただ「近いゴジラ」っていうのは億単位のポリゴンを使わないと表現できなくて、とてつもないデータ量が必要になってしまうんです。そこは大変でしたが、着ぐるみのゴジラに対抗するにはCGのメリットを最大限活用しないといけない。「実在している物」っていう強さに対して、こっちはどんな武器を持っているのかを考えた時に、ゴジラとの距離が近いシチュエーションを表現できるっていうのがCGの強みだと思ったんです。

ゴジラを表現する上で重要な「動き=アニメーション」を担当したのは、数々の山崎監督作品に携わってきたCGスタジオ「CHOTOTU」。

「PCパワーが圧倒的に上がるのを待っていたんです」

水をリアルに表現した数々のシーンが今回の見せ場であり話題となった。

――その他に今作のCGカットで監督のイチオシはどこでしょうか?

山崎:水全般ですね。水っていうのは少し良くしようと思うと、データ量が物凄く増えてしまうんです。水は立体物なので、一段階良くすると8倍のデータが必要になるわけです。今までの日本の環境だとあり得ないようなデータ量になるんですけど、白組にもデジタルネイティブの社員が入ってきていて、彼らはもう僕らとは情報量の感覚が違うんですね。僕らにとっての「1テラ」って神の数字なんですけど、彼らは「1カットの波に5テラ使っちゃいました」とか平気で言うんです(笑)。僕らは1ギガのハードディスクを買った時に、「もう一生ハードディスク買わなくて済む」って思った世代ですから。『ジュブナイル』の頃は、320MBのMOをカットごとに入れ替えながら作ってましたからね。

――そうした膨大なデータ量を扱えるようになったのはPCパワーの向上によるものなんでしょうか?

山崎:PCパワーが圧倒的に上がってきているからですね。逆に言うと、PCパワーが圧倒的に上がるのを待っていたんです。『ALWAYS 続・三丁目の夕日』でゴジラにゲスト出演してもらった時に、圧倒的にPCパワーが足りないなと思ったんです。「そろそろゴジラどうですか?」というお話はチラチラ頂いていたんですが、もうちょっと待ってくれと言っていたら『シン・ゴジラ』が出てきて大変なことになったなと(笑)。ようやく技術が熟してきたので、やるんだったら今だという決心がついたんです。

ゴジラ映画を作るというのは「神事」

――結果的に今作は山崎監督の様々な作品の要素が詰まった集大成になったと感じたのですが。

山崎:それはありますね。それも、まず大命題として『シン・ゴジラ』と戦わないといけなかったんです。『シン・ゴジラ』の出来が良すぎるので、出来るだけ自分の土俵に近いところで戦わないと対抗できないなと思って、自分の得意なジャンルや要素を入れていった結果として集大成的な物になりましたね。

北米プレミアでの山崎貴監督と主演の神木隆之介さん。

――ゴジラの最期を人々が見送るシーンには、どのような想いを込めたのでしょうか?

山崎:ゴジラってアメリカの核実験によって生まれたわけで、それなのに日本に来るって物凄い不条理じゃないですか。だけど日本人にはそれを受け入れる感覚があると思っていて、それは「祟り神」なんですよね。『もののけ姫』に出てくるタタリ神(祟り神)も関係ない村に来て、めちゃくちゃにして呪いを残していく。ああいう存在を日本人は素直に受け入れている部分があると思うんです。

これは作り終わってみての感覚なんですが、ゴジラ映画を作るっていうことは「神事」なんだと思ったんです。その時々の世の中の不安を形にして、祟り神として召喚して鎮まってもらうという儀式なんだと。これは日本のゴジラ映画にしか無い感覚だと思うんです。「なぜ敬礼するのか?」っていうのも良く聞かれて、元日本海軍の兵士だから強敵を沈めた時は敬礼するんだよって説明していたんですけど、何か説明しきれてないような感じがあったんです。でも、あれは「鎮めの儀式」をしていたんだと思うと、自分の中ですごく腑に落ちました。

――ちなみに最後のシーンは『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)のオマージュにも見えましたが……。

山崎:実はあれは、なんとなく定番のゴジラの終わり方だっていうような気がしていたんですよ。GMK(『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』)を見たら「おんなじだ!」って思って(笑)。

――続編を想像させるような終わり方でもありますね。

山崎:映画が大ヒットすればそういう可能性もあると思いますし、何よりゴジラ映画を作るっていうのは面白いんです。まだ今回やれていないこともありますし、このまま他の監督に渡しちゃうよりは、もう一度くらい作れるチャンスがあったらやりたいと思いますね。そのためにも作品がヒットしてくれたらと思っています。

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山崎貴監督(右)とインタビュアー&記事構成のタカハシヒョウリさん(左)。

<<プロフィール>>

山崎貴
1964年生まれ、長野県出身。2000年『ジュブナイル』で監督デビュー。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『STAND BY ME ドラえもん』シリーズ、『永遠の0』など数多くのヒット作を監督。2019年『アルキメデスの大戦』では浜辺美波さんを、2022年『ゴーストブック おばけずかん』では神木隆之介さんを起用。
Xアカウント @nostoro

タカハシヒョウリ
ミュージシャン・作家。ロックバンド「オワリカラ」、特撮リスペクトバンド「科楽特奏隊」のボーカル・ギター、その様々なカルチャーへの偏愛と造形から執筆、番組・イベント出演など多数。
近年は、円谷プロダクション公式メディア連載やイベント出演、ポケモンカードCM音楽制作なども担当。
Xアカウント @TakahashiHyouri

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