内外で快挙続々!『ゴジラ-1.0』山崎貴監督インタビュー完全版<前編>:特撮ばんざい!第41回


『シン・ゴジラ』の衝撃から7年。新たなる日本のゴジラ映画を作り上げる、この大役を務めたのは、数々のヒット作を手がけ、日本のVFX映画の第一人者でもある山崎貴監督。最新のVFXによって描かれるゴジラの脅威と、山崎監督の持ち味である人間ドラマが交差する『ゴジラ-1.0』は、国内興収60億円を突破しただけでなく、世界興収160億円も記録し、世界中から熱烈な歓迎を受けた。今回は、日米アカデミー賞の発表で盛り上がる中、昨年の映画公開直前に収録された「ネタバレ解禁インタビュー」の完全版をWEB公開します。

取材・文 タカハシヒョウリ

後編はこちら

『−1.0』が作り出す新たなるゴジラ像

ゴジラのモックアップ。撮影現場では、カメラアングルの位置決めなどにモックアップを活用した。

――今作では「超再生能力」や「展開される背ビレ」などの新要素がゴジラに加わっていますね。

山崎:ゴジラの再生能力は設定として元々あると思うんですけど、今までは画としてハッキリ見せていなかったんですよね。デジタルなら映像で見せられるし、今回これはやってみようと。それと「なぜ(『ゴジラ-1.0』の)ゴジラが生まれたのか」という部分で、「呉爾羅という生き物が核の火で焼かれて、普通なら死んでしまうはずが物凄い再生能力を持っていたために生き延び、再生能力が暴走した結果ゴジラになった」というのが裏設定としてあるんですね。なので、その再生能力を画として見せておきたいなと。

背ビレに関しては、今回劇中で何度も熱線を吐くわけじゃないので、熱線を吐く前に「儀式」をしたかったんです。「これから大変なことが起こるぞ」というイメージを見せたかった。もう一つは、「核兵器のメタファー」でもあります。核兵器って核物質がギュッと圧縮されることで爆発する仕組みなので、ゴジラでも背ビレがギュッと集まって熱線を吐くというのをやりたかったんです。

新たなるゴジラの恐怖

――冒頭に登場する小型のゴジラと、『ジュラシック・ワールド』を彷彿とさせるような演出も印象的でした。

山崎:大戸島の伝承の生物が漢字の「呉爾羅」、後半に登場するのがカタカナの「ゴジラ」という風に名称を区別しています。発音すると一緒になっちゃうんですけど(笑)。呉爾羅は進化の過程で異常に強い再生能力を獲得した生き物で、そのために今まで生き延びてきたんです。

大戸島のシーンは、神木隆之介さん演じる敷島が撃てない理由付けをちゃんとしないとただの卑怯者になってしまうので、「これは撃てないかも……」と思えるような「恐怖」を表現しないといけない。逃げようのない恐怖感というのを見せたかったので、1シーン1カットで人々が襲われていくという形にしましょうと。これが大変で、後でエライ目にあいましたけど(笑)。

――後半に登場するゴジラに対して、冒頭の呉爾羅は生物的に動き回り、静と動の対比になっていますね。

山崎:そうですね。大戸島の段階では、まだ「生物」なんですよ。日本の怪獣というのは「獣」の部分と「神様」の部分があって、後半では「神様」の部分が強くなるので、最初は「獣」の部分を見せようと。実は冒頭の呉爾羅は生物的な筋肉のシミュレートをしていて、ゴジラになってからは筋肉のシミュレートをあえてやっていないんです。『ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦』の時に筋肉のシミュレートをやってみたんですけど、複雑なことをするとゴジラっぽくなくなるんですよ。「生物」感が出過ぎると「神様」感が減っちゃうんですね。なので、冒頭で持てる生物表現技術の全てを使って、後半でそれを断ち切るという引き算をすることで、「違ったモノ」になっちゃったんだっていうのを見せたいと思いました。

――ゴジラが登場する前に、深海魚が浮き上がってくるという「予兆」の表現も印象的でした。

山崎:あれは本当にあることらしいんですよ。巨大な生物に追われて、逃げようとした深海魚が圧力差で胃袋が出て浮かび上がっちゃうという事が良くあるらしいんです。ダイオウイカが出る時には、深海魚が浮くとか。ゴジラみたいなとんでもなくデカい物がいるので、深海魚が必死に逃げようとして浮かび上がっちゃったということです。あの予兆があることで、嫌なことが起こりそうな感じが出るかなと。

白昼の銀座にゴジラ出現!

――ゴジラの進撃ルートは、どのように決定したのでしょうか?

山崎:大きな銀座の地図の上に発砲スチロールで作ったビルを並べて、ゴジラ人形を動かしながら「日劇の前に行って、ここで電車を襲って……外堀川の上に行かないと(電車から脱出した)典子が助からないので、ここで振り返って…」という感じでルートを決めましたね。

マツダビルディング屋上倒壊シーンの撮影。実際に傾斜する仕掛けのセットで撮影し、CGの背景を合成している。下が完成シーン。

幻の兵器へのこだわり

――震電や四式戦車といった「幻の兵器」や、戦争を生き延びた戦艦など登場兵器も印象的です。

山崎:「戦争を終わらせられなかった人たち」の話なので、「戦争に出られなかった兵器」を出来るだけ出したかったんです。震電や四式といった大戦末期に開発されて実戦に間に合わなかった兵器というのを映像で見てみたかった。震電に関しては『永遠の0』などを作ってきたチームなので戦闘機はお手のものですし、四式戦車に関しては『シン・ゴジラ』の時に戦車を作った白組のタンクくん(杉山”タンク”和隆さん)っていう人がいるんですけど(笑)、「戦車のシーンを作るからタンクくん呼んできて」って。だからあのシーンは「ディレクティッド by タンクくん」です(笑)。

戦艦は、当時残っていた船で何を出せるかを考えて。長門は出したかったんですけど、(ビキニ環礁での)核実験で沈んじゃうので出せない。高雄は史実では46年に自沈させられているんですけど、ゴジラの騒ぎがあってしばらく温存されていたということで47年でもギリギリ許してもらえるかなと(笑)。雪風は出したかったので調べたら、終戦後に復員船として使われていたということなので出せるだろうと。雪風のセットが出来た時にセットチェックに行ったら、そこに雪風のブリッジ周りがそのまんまあるんですよ!中を登ると内装も丸ごと出来ていて、あれは興奮しましたね。

――幻の兵器の登場にはミリタリーファンも騒然となったと思います。

山崎:(ネットの)特定班の仕事がすごすぎて(笑)。予告編が公開されたらSNSチェックしてるスタッフから「雪風沈みました」「高雄やられました」とか次々と撃沈報告が来て(笑)。作ってる時は「1週間くらい保つかな」とか言ってたんだけど、次の日には全部特定されてましたね。

――武装解除された兵器というところが物語上でも重要になりますね。

山崎:そうですね。いわゆる「戦い」ということではなく、生き延びるために対峙しないといけない。じゃあ武装解除されたものでどうやって勝つのか、というところに映画的なダイナミズムがあると思います。

――音楽面でも『モスラ対ゴジラ』『キングコング対ゴジラ』(「SF交響ファンタジー」序盤の第1作テーマから『キングコング対ゴジラ』の曲へ繋がる構成を踏襲)からの選曲が意外でした。

山崎:ゴジラのテーマを使いたいというのはもちろんあったんですが、それだとずっとゴジラのテーマのままになっちゃうので、シーンごとに変化をつけたいと思っていました。曲調を変えるためにどのアレンジを使うかというのは佐藤(直紀)さんたち音のチームが頑張ってくれましたね。『キングコング対ゴジラ』の音楽は、中盤でちょっと可愛い感じになるんですよね。そこが大丈夫かな?と思っていたんですけど、映像で物凄いことが起きているので意外と大丈夫でしたね。

後編へつづく

山崎貴監督(右)とインタビュアー&記事構成のタカハシヒョウリさん(左)。

<<プロフィール>>

山崎貴
1964年生まれ、長野県出身。2000年『ジュブナイル』で監督デビュー。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『STAND BY ME ドラえもん』シリーズ、『永遠の0』など数多くのヒット作を監督。2019年『アルキメデスの大戦』では浜辺美波さんを、2022年『ゴーストブック おばけずかん』では神木隆之介さんを起用。
Xアカウント @nostoro

タカハシヒョウリ
ミュージシャン・作家。ロックバンド「オワリカラ」、特撮リスペクトバンド「科楽特奏隊」のボーカル・ギター、その様々なカルチャーへの偏愛と造形から執筆、番組・イベント出演など多数。
近年は、円谷プロダクション公式メディア連載やイベント出演、ポケモンカードCM音楽制作なども担当。
Xアカウント @TakahashiHyouri

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