パリ発。メガネの国際展示会場の片隅で、日本未上陸デザインを見つける! その2


前回に引き続き、昨年10月に開催されたアイウェアの国際展示会「SILMO」で発見した、日本未上陸ブランドのwebレポートをお届けしよう。

SILMOはメガネフレームやサングラスだけでなく、レンズや工作機械、検眼機、プラスチックやメタル素材、ネジ……という具合にアイウェアにまつわる、世界中のあらゆる企業が参画する展示会。カテゴリーごとにパビリオンが分かれているので、お洒落なフレームやサングラスを扱うブランドは本来すぐ見つかるのだが。

写真&文/實川治徳

会場マップに掲載されていないアイウェアブランドを探せ!

SILMOでは、すべての企業を網羅したリストと見取り図が会場エントランスで配布されるので余程の方向音痴でない限り、お目当てのブランドに辿り着ける。ところが筆者が目指すイタリアのブランド“IN SANA(=インサナ)”のブースが一向に見つからない。事前に何度もメッセージを交換してブース番号もバッチリ聞いていたのだが、そこはフレーム素材を扱う企業や工場系でまとめられたパビリオンで、指定されたブース番号もプラスチック加工の企業を得意とする工場系の企業が……。

いったいこれはどういうこと? と焦っていると、そのブースの奥から綺麗なブルーヘアの女性が歩み寄ってきた。彼女こそがインサナのデザイナー、Silvia Frescoさんだった。聞けば受注生産のハンドメイドブランド。ごく少量のコレクションを展開しているそうで、コラボレートする企業のブースに間借りしているのだという。まるで看板のないレストラン、あるいはその裏メニューといったところか。

「私はイタリアのアイウェア産業が集まるベッルーノ(ヴェネト州)で生まれ育ちました。ミラノのIED(=ISTITUTO EUROPEO DI DESIGN=ヨーロッパデザイン学院)でインダストリアルデザインを学んだ後、変化を求めてロンドンへわたり、そこで働いたのはEU初のジェントルモンスターの旗艦店でした」

その経験が、彼女のDNAを呼び覚ますことになったようだ。

しかしこの頃は彼女の人生の中でも、もっとも暗く辛い時代だったという。

「その時代に、内なる心や涙を表現するためにサングラスのドローイングを始めたんです。当初はブランドを立ち上げる意思はまったくなかったんですけどね。ただ私の状況も日に日に悪化してしまい、家族のサポートを乞うためにもイタリアに帰国したんです。そこで父にドローイングを見せてプロトタイプを作ってもらったら、ことのほか可愛くてブランドをスタートしたんです」

そんなSilviaさんが生み出すプロダクトは独創的で、どことなく有機的なフォルムが特徴。とりわけメタルフレームにおいては、弧を描くテンプルやアシンメトリーなフロントラインなど、メタルフレーム=カチッとしたデザイン、テクニカルな構造、と思い込んでいる脳波をかき乱される。またステンレスやアルミニウムなど、それぞれの素材感を前面に出し、メタルだけでなくアセテートや3Dプリンティングによるポリアミドなどを駆使したフレームはすべて手作業で研磨される。

IN SANAとは“音の中で”を意味し、Silviaさんの人生そのものを語る言葉、そして音楽をアイウェアに昇華したもの。ポジティブさとネガティブさが複雑に絡み合った内なる感情を込めたデザインは美しく、そして毒気も備わっている。そのフレームは彼女の言霊といえるだろう。

IN SANA

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