毎年秋、フランス・パリではアイウェアの国際展示会「SILMO」が開催されており、モードオプティークも最新号vol.56にて同展示会のレポートをお届けしたばかり。
同コーナーでは“日本未上陸”ブランドのいくつかを紹介したが、紙幅の都合上デザイナーたちが語ってくれた熱い想いの、ほんの一部しか紹介できなかった。
そこで今一度、webバージョンとしてもう一度彼らにスポットライトを当てたい。
写真&文/實川治徳
北アフリカ初のラグジュアリー・アイウェアブランド!
アフリカと聞くと野生動物たちが闊歩するサバンナやサハラ砂漠、あたりを想像する人は多いと思う。ところが地中海を挟んでヨーロッパとも近い距離にあるチュニジアを訪ねてみるとそのイメージは一変する。古くから貿易が栄え、ローマやイスラム、オスマントルコ、そしてフランスなど、さまざまな文化が混ざり合って共存・融合する異国情緒。その風土が育てたのが今回の主役“VAKAY(=ヴァカイ)”だ。
船をつくることとアイウェアをつくることの共通点
「前職では、富裕層向けのボートやヨットをデザインしていました」、と語るのはVAKAYのヘッドデザイナー、Soulaimen Ghorbelさん。日本には馴染みが薄いが、世界の富豪の中には自家用ジェット機のようにプライヴェートで船舶を所有する者も少なくない。中でもチークやマホガニーといったウッドベースのボートが醸す高級感は格別、と分厚いファン層がいるのだ。だからこそ「船を造ることとアイウェアを創ることは全然違いますが“ラグジュアリズム”という点では、僕の中の共通項です」という。
ウッド・アセテート・金。高品質レンズを加えたデザインマナー
ウッドがもつラグジュアリズムを熟知したGhorbelさんが表現するVAKAY。使用するのは赤みがかったブビンガ、褐色のウォールナット、漆黒のウェンジと、3種のウッドで、素材の色そのものをカラーバリエーションとしている。だが、もしその要素だけだったなら色彩も質感も単調になるだろう。それをVAKAYは艶やかなアセテートを上手に融合させるのである。もちろんそれはフロントにアセテート、テンプルにウッドという単調なものではない。
時にフィンを彷彿させる三角形のウッドパーツがテンプルにあしらわれたり、アセテートの中にウッドの意匠が配置されたり。そしてウッドテンプルには、ブランドのシグネチャーとして、アフリカのタトゥーを象った18Kゴールドのロゴが埋め込まれる。
またフレームのアウトラインは、スポーツカーデザインのようにピリッとスパイスが効いていて、やる気モードのスイッチを入れてくれるデザイン。レンズはその躍動感あるデザインにふさわしく、ハイクオリティの代名詞ともいうべきツァイスが標準装備されている。アクティブかつハイエンドなデザインと、見るための高機能を兼備している、という点でも既存のウッドフレームとは一線を画している、と言えるだろう。
チュニジア発のアイウェアブランド、という意義
さてこのVAKAYはインダストリアルデザインやエンジニアリングなど、さまざまな世界で活躍してきたチームによって、2012年にプロジェクトがスタートした。実はそれまで同国にはアイウェアづくりの環境が一切なかった。そこで彼らは、それぞれが培ってきたノウハウを出し合い、ブランドの方向性や製品開発、生産プロセスをゼロから構築するとともに、伝統的な手工業を取り入れて独自のメソッドを構築した。
彼らの挑戦によって切り拓かれたアフリカのアイウェア産業が、今後どんな発展を遂げていくのか。そんな未来予想図を担う第一人者としても、VAKAYは注目を浴びるに値する存在、と言えるだろう。