特撮ばんざい!:第26回
『ウルトラマンブレーザー』第9話「オトノホシ」出演 東儀秀樹さんインタビュー(前編)


『ウルトラマンブレーザー』第9話「オトノホシ」で、57年ぶりに再登場を果たした人気怪獣ガラモン。また、それを操るセミ人間ことツクシ役を演じたのが雅楽師の東儀秀樹さんで、キャスティングもまた大きく注目を集めた。ツクシの同胞のチッチ役で出演したご子息・東儀典親さんと共に、『ウルトラQ』の思い出や「オトノホシ」出演に際しての様々なエピソードを語っていただいた。WEB版では、完全版として前後編で対談の全容を公開します。

取材・文/トヨタトモヒサ

「オトノホシ」あらすじ/室内楽のコンサートのチケットを受け取ったSKaRDのアンリ隊員。送り主は親交あるチェリストのツクシからであった。同じ頃、隕石からガラモンが出現。それを操る謎の怪音波、アンリの脳裏をよぎったものは……。

ウルトラマンブレーザー第Q話「オトノホシ」より『風の出逢い』
YouTubeチャンネル「東儀典親togi norichika」

東儀秀樹さんと典親さんの演奏を聴きながら読むこともできます!

東儀秀樹&典親親子が観た『ウルトラQ』の思い出

ロケの合間のオフショット。左から白須今さん、堤博明さん、セミ人間、東儀秀樹さん、東儀典親さん。

――まずは、ウルトラマンシリーズの思い出からお聞かせください。

東儀秀樹さん(以下、秀樹) 僕は幼少期を海外で過ごしていたこともあり、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』は観ていたけど、最初の『ウルトラQ』は、リアルタイムで観てないんです。

東儀典親さん(以下、典親) 僕が小学校の頃に父と一緒にDVDで観ました。

秀樹 いや、すごくよくできていますよね。当時、どこまでリアルに見せられるか挑戦していた、特撮の技術的な関心はもちろん、作品としても、大人でも十分楽しめる内容で、色々な感動が詰まってる。それに、モノクロだから、色に対する想像力も駆り立てられますね。

典親 『Q』は家にDVDがあって全話観たんですけど、「ガラモンの逆襲」の最後、任務に失敗したセミ人間が仲間の円盤に焼き殺されるのが、すごく考えさせられるものがあって。小学生なりにすごく面白かった印象があります。

秀樹 それを「ああやって仲間に処刑されてしまうんだ」と、地球人が見ているところで終わるでしょう。そこがまた番組を観ている側とすごくリンクするんですよね。

『ウルトラQ』(1966)のセミ人間。「ガラモンの逆襲」に登場。

映像と音楽が完全に同期した「チルソナイト創世紀」作曲秘話

――今回、出演のオファーを受けられた際のお気持ちは?

秀樹 『マン』や『セブン』を観た自分の子どもの頃の記憶と、息子と一緒に『Q』を観た際のワクワクが全て重なって、すごく嬉しかったですよ。そうやって、親子で楽しんでいた作品だけど、最初はやっぱり「なんで僕が?」とは思いました。でも、僕自身は、こうしたギャップが好きでね。今もX(旧twitter)で、ガラモンの真似をした動画をアップしたり(笑)、人を面白がらせるのが好きだし、何よりウルトラマンに雅楽師が出るなんて面白いじゃないですか。そういう空気が堪らないんです。それと、監督の越知靖(こし・とものぶ)さんが、学生の頃に僕のコンサートを観て以来のファンだそうで、いつか大人になって、僕と一緒に仕事がしたかったとお聞きしました。その情熱もさることながら、色々な人の夢に巻き込まれて行く楽しさは、格別ものがあるだろうなと思いましたね。

――今回は、劇中音楽を手掛けることも含めてのオファーだったのでしょうか?

秀樹 いや、実は円谷プロさんとしては、当初は既存のクラシックを選曲するつもりだったんです。その場で音楽を流して、演奏しているフリをする「当て振り」は、普通の俳優さんより上手くできる自信があるけど、せっかく監督も僕のファンでいてくださるんですし、「オリジナル曲という考えはなかったんですか?」と訊いたんです。そうしたところ、どうも皆さん遠慮されていたらしくてね。すぐに「僕なら簡単にできますよ」とお伝えしたところ、スタッフ一同「え、そんなことを頼んでいいんですか!?」と目がバシバシ輝き始めて(笑)。僕が演じた役柄は、「ガラモンの逆襲」で、セミ人間がチェロのケースを持っているイメージに着想を得ているわけだけど、編成も含めて、僕がチェロを弾いて生きるような曲を作らせていただくことが決まりました。

――では、実際の楽曲制作についてもうかがえればと思います。

秀樹 僕はだいたいいつもそうなんですけど、説明を受けた時点で、すぐに頭の中に曲が浮かぶんですよ。それこそ、最初に顔合わせをした2~3日後には、自分のスタジオで録ったデモを提出していました。ツクシとアンリが出会うシーンで使う爽やかな曲が欲しいと言われて作ったのが「風の出逢い」、後はメインで使われた「チルソナイト創世紀」、それから『Q』のメインテーマのアレンジですね。「風の出逢い」はすぐにイメージが浮かび、すぐにOKが出ました。

エピソード冒頭で「風の出逢い」を楽しげに演奏する4 人。その正体は……?

――『Q』のメインテーマをアレンジされる上ではいかがでしたか?

秀樹 宮内國郎さんのオリジナルも素晴らしいけど、そのままコピーするのではなく、チェリストとして、僕自身がどう楽しむかを考えてアレンジしました。今回はピアソラ(アストル・ピアソラ。アルゼンチンの作曲家)風の渋くてカッコいい感じにしてみたところ、SNSで指摘されている方がいて、分かってくれる人がいるもんだなと思いましたね。

――現代音楽調のイントロも、実にインパクトがありました。

秀樹 セミ人間たちが舞台で弾き始める最初の部分なので、何か掴みが欲しいところですよね。そこで浮かんだのが、サウンドエフェクトみたいな『Q』のタイトルバックがあるでしょう。あのイメージで、弓をひっくり返して擦るとか、ピアノの鍵盤を猫の手みたいにバンと叩くとか、そういった奏法を取り入れてみました。

『ウルトラQ』のタイトルバック。

映像をイメージすると、後ろで鳴っているべく音楽が聴こえてくる

――「チルソナイト創世紀」は、演奏時間10分にものぼる大作です。

秀樹 越監督と「ここはちょっとハツラツとした感じでスタートして欲しい」とか、「ここは粘りたいから2~3分延ばしてください」とか、タイミングの話はしましたが、ダメ出しはほとんどなかったです。僕自身はどんな注文があっても、オーダーを全うする自信がありましたし、そこも含めて非常に楽しみながら作りました。

――映像とリンクさせるために、音楽はどういった手順で作られていったのでしょうか?

秀樹 まずは自分である程度弾いたプリプロ(※仮録音)を用意して、撮影現場では、それを流して撮影しました。Shikinamiのふたり(堤博明さん、白須今さん)もしょっちゅう共演しているし、息子もデモを作った時点から一緒に聴いていて、「当て振り」と言えども、実際にその通りに弾けるから、特に問題はなかったですね。当日、撮影で使った譜面も僕が用意しました。コントラバスを弾くカナデ役の堤博明くんだけは、本職がギタリストなんだけど、エレキベースは弾いたことがあるというから、そこは、いささか強引に「ベースくらい弾けるだろう(※コントラバスは、主にジャズ領域ではベースと呼ばれる)」って(笑)。僕自身、何回かオーケストラに所属していたこともあって、コントラバスのことも一応は分かっているから、その場で彼に教えてね。後はベースを弾いているような指使いでなんとかなりました。まぁ、彼も音楽家ですから、そういうやりとりも面白がってくれましたよ。

――最終的に劇中で流れた音源というのは?

秀樹 仕上げとして、プリプロのテンポに合わせて、プロの奏者が弾き直して録音したものを使ってもらいました。その録音では、ピアノは僕が弾いています。

――画と見事にリンクしていて驚きましたが、完成映像をご覧になっていかが思われましたか?

秀樹 これだけ長い曲だと、全部合わせても、編集する段になって「音楽のこの部分がインパクトあるので切り取ってこっちに使っちゃえ」なんていうことが往々にしてあるんですよ。でも、今回は、そういうことは一切なく、長い曲を完璧に合わせて、実際に演奏した通りに使ってもらえました。

――クライマックス、コンサートホールの場面では、最後にチェロの独奏になるのが、音楽的にも聴かせどころだったと思います。

秀樹 ツクシは、本当に音楽が大好きだけれど、母星からの指令を受けている。とても重い葛藤を背負っているわけで、その心模様を独奏チェロで表現できたらと思いました。チェロは音域が低過ぎず高過ぎず、そういったある種の切なさを伝えるためには打ってつけの楽器だし、このソロパートもほとんど瞬間的に生まれました。別に考えて考え抜いたわけじゃないし、特に修正もなかったです。意図して曲を作ろうとはせず、そういう映像をイメージすると、後ろで鳴っているべく音楽が聴こえてくる。単にそれを形にしただけなんです。

――では、ここに関しても、曲を作られた東儀さんとしては、狙い通りだったと。

秀樹 ええ。あそこも実に上手くリンクしていましたね。ヴァイオリン、コントラバス、そして、ピアノの3人が次々とアンリに向かって行き、最後、ツクシの独奏になるのは、台本にも書いてあったし、それを踏まえて作曲していました。でも、具体的にどこの瞬間で撃たれるかまでは聞いてなくて、撮影では、最後まで弾き通していたんですよ。だから「演奏を止める瞬間を撮らなくていいのかな?」なんて思っていたけど、実際の映像では、会場の建物を映してバン!と銃撃音を付けていて、「なるほど」と。僕らはオンエア当日まで、どういう映像で音楽が使われるか分かってなかったけど、越監督がとても大事に音楽を使ってくれていました。

典親 「チルソナイト創世紀」のためにCMをわざわざ最初のほうにまとめてくださったんだと思います。

秀樹 そう。オンエアを観ながら、「やけにCMが多いけど、どういうことだろう?」と思っていて(笑)。しかもアースガロンの登場と共に音楽が流れるのも、オンエア当日、知ったんです。

典親 僕は第1話から全部観ていたし、台本も読んでいたので、なんとなく、この曲の頭でアースガロンが登場するんだろうなと思っていました(笑)。

秀樹 息子のほうがよく分かっているね。「やっぱり、そうだったのか」と思いましたよ(笑)。

――後編では、セミ人間役を演じる上でのお話をうかがえればと思います。

(つづく)

東儀秀樹(とうぎ・ひでき)
東儀典親(とうぎ・のりちか)

1959年、奈良時代から続く楽家に生まれる。幼少期よりロック、クラシック、ジャズ等あらゆるジャンルの音楽を吸収し、宮内庁式部職楽部の楽生科で雅楽を学ぶ。1986~96年まで在籍した宮内庁学部では、主に篳篥(ひちりき)を担当。96年にアルバム『東儀秀樹』でデビューし、雅楽の持ち味を生かした独自の曲の創作活動を展開。なお、息子・典親は昭和好きで、『快獣ブースカ』の大ファン。近年は親子で共演する機会も多い。

取材・執筆
トヨタトモヒサ
フリーライター。WEBや雑誌、Blu-ray、CD、映画パンフなど、主に特撮界隈で活動中。趣味は日本人が手掛けたクラシック作品鑑賞と北海道旅行(魅力を伝える仕事がしたい)。解説書の取材・執筆・構成を担当した「ウルトラマンレグロス Blu-ray(&DVD)」が11月22日、「ウルトラマンブレーザー Blu-ray BOX I」(いずれもバンダイナムコフィルムワークス)が12月22日発売。また、取材を担当した「後藤正行 TSUBURAYA ARTWORKS -GENERATOR」(ホビージャパン)が11月30日発売。

【似すぎ!東儀秀樹さんのガラモンものまね】

【インタビューに登場のソフビ】

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