【腕時計を読む!#13】裏ぶたに刻印がなければ兵士たちの腕にいられなかった——。

Photo/US Army, US Air Force, Australian War Museum, WPP Archives 構成/ワールドムック編集部

軍は時間と時刻を知り、計る時計を必要としてきた。それが腕時計になった瞬間から時計と人間の距離が縮まった。文字どおりに密接になった。同時に人にとっての、時計の意義が変わった。もたらされた変化は大きく深いものであったが、目で見ることだけはできないたぐいの変化だった。ただひとつ例外があった。ミリタリーウオッチだ。この時計だけが、人が時計という道具に対して、どのように向き合ってきたかを目で見えるかたちで伝えてくる。その手段が刻印だ。ミリタリーウオッチは軍が調達した腕時計であっても、使うのは個人単位。将兵一人ひとりだ。腕時計とはそういう道具だからだが、時計はあくまで政府の財産である。そこで軍は時計に刻印した。裏ぶたに刻印を施された時計は、使う者にとり身分証明になった。時計が時を計る以上の意味を持ったわけだ。刻印のある軍用時計に誇りが託されたり、語るべきストーリーが生まれてきたのは、時計に国や所属する軍、部隊の印、よりどころがあるからだ。裏ぶたに入る刻みほど精巧な装置がありうるだろうか。それがミリタリーウオッチの存在理由にもなっている。

このパイロットが腕にしているのは
タイメックス軍用時計「MIL-W-46374B」である

【ケースバックの刻印の意味するところ】

WATCH, WRIST:腕時計

GENERAL PURPOSE:一般用

MIL-W-46374B:米軍の物資調達規格(ミルスペック)番号。末尾の「B」は1975年に改定された「46374」の第2版であることを示す。

TIMEX CORP.:製造メーカー。タイメックス社製であることを示す。

NSN 6645-00-952-3767:NSN(National Stock Number:米国国防物品番号)。
6645:時計・時間計測機器
00:アメリカ合衆国で登録されたことを示す国コード
以降の数字で特定の製品を識別する。

MFG.PART NO.939-075000:メーカー(タイメックス)側の管理番号(型番)。

DLA 400-81-C-2671:コントラクト番号(契約番号)。
DLA:国防兵站局(Defense Logistics Agency)経由で調達されたことを示す。
81:1981会計年度に契約されたことを示す。

MAR 1982:「1982年3月」に製造(または支給)された個体であることを示す。

DISPOSE RAD WASTE:「放射性廃棄物として廃棄すること」という警告。文字盤の夜光塗料に放射性物質であるトリチウムが使用されているため。

U.S.:アメリカ合衆国政府の所有物であることを示す。

軍用時計がいる場所

左側のF-4Cファントムを飛ばす戦術航空団の司令官の腕には、軍から支給されたジェネラルパーパスの一般用フィールドウオッチが巻かれている。パイロットのなかには、自費でクロノグラフを購入する者もいた。右側で地図に視線を落として作業中の兵士は、「ジャングルグリーン」と呼ばれるイギリス軍のシャツを着用している。所属はオーストラリア軍である。腕時計もイギリスの軍用時計を使用している可能性が高い。

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