『イケないマネジメント術 童貞スタッフの風俗日記』店長役・北代高士さんインタビュー「役者は一本一本、すべて全力勝負」そして風俗店の裏側を描くドラマの裏側

バイトをクビになった童貞青年が見つけた仕事は、風俗店の店員。全く未知の世界で失敗して、苦労しながらも少しずつ成長していく。『イケないマネジメント術 童貞スタッフの風俗日記』は、なかなか見られない風俗店の裏側がリアルにわかるショートドラマ。若手俳優メインのキャスティングの中で、強面の店長役で存在感を発揮しているのが、北代高士さん。任侠作品の大ヒットシリーズ『日本統一』で10年に渡りレギュラーを務めて、昨年スタートした主演シリーズ『CONNECT 覇者への道』でも緊張感みなぎる演技を見せている。そんなシャープな存在感の北代さんだが、今が旬のコンテンツともいえる配信ショートドラマでは、「イケないマネジメント術 童貞スタッフの風俗日誌」や「北斗探偵事務所」シリーズなどにも積極的に出演している。出演の理由、現場エピソード、そして素顔など、北代さんにインタビューした。

写真/熊谷義久 文/モノ・マガジン編集部

――北代さんは大阪の出身で、高校時代は野球部だったんですよね、

はい。高校野球の「この試合に負けたらすべて終わり!」という、一試合にかける熱い思いが大好きで、野球に打ち込んでいたんです。一方で、芸術に力を入れている高校だったこともあって、文化祭とか学校行事が好きだったんです。それで『美女と野獣』の野獣役に推薦されて、やることになって。1500人ぐらいの大ホールでした。

――いきなり主役ですか。

初体験でした。で、終わった後の拍手喝采が圧倒的で「なんだこれは」と。ものすごい高揚感でした。客席は地元のかたも大勢で、感動で泣いているかたがいたり。演じた自分も凄く楽しくて、「こんな世界があるのか」って衝撃でした。もう帰ってすぐ、「進路を決めた。役者になる」って親に言って。で、「役者ってどうやってなるんだ」って調べたら、日本大学芸術学部と大阪芸術大学を知って。それからは野球から180度転換して猛勉強です。1日10時間の受験勉強に打ち込みまして、日本大学芸術学部演劇学科に合格したんです。

――多くの俳優や監督を輩出している、いわゆる「日芸」ですね。

多いですね。僕の同期は俳優では中村倫也、監督では藤井道人がいます。揃って何か作品をやれたらっていうのは、やっぱり思います。藤井は「ミック」ってニックネームで呼んでて、『新聞記者』(2019年)で、彼がアカデミー賞の最優秀作品賞を獲った時には「おめでとう。同期がこんなに頑張ってて、俺も励みになるわ」ってメッセージを送りました。「死ぬほどお祝いが来てるだろ? 返信いらないよ」って送ったんですが、ちゃんと返信をくれました。

――デビュー作はミュージカル『テニスの王子様』(2008年)の橘桔平役ですね。

本格デビューはそうなります。ミュージカル『テニスの王子様』には今も、ものすごく感謝してます。学生時代の出演で、まだ世間知らずでしたが、業界のいい面も、厳しい面も教えてくれたのはミュージカル『テニスの王子様』だなと。オーディションだったんです。事務所には仮所属の身だったんですが、これに受かったおかげで本所属になれた面もあって。『テニス』には恩返ししなきゃと、ずっと思ってます。

――大学と両立は大変だったでしょうね。

地方のホテルで卒業論文を書きながら公演に出たこともありました。あまり出席できない講義もあったんですが、ある教授が、「芸能活動が忙しくなると学校に来ない学生が多い中、君はよく頑張って出席してた。学科の代表もやっていたし」(演劇学科の学生代表として活動)って認めてくださって。卒業できた時には、学生時代によく行った江古田の居酒屋「かぐら」で、「卒業できました」「お疲れさま」って、教授に祝杯を付き合っていただいて。

――その頃から、自分は役者でやっていけるって確信はありましたか?

いやいや、ないです。今も怖いですよ。役者って、それこそ怪我ひとつで、あっという間に仕事がなくなりますからね。いつ何が起きるかわからないじゃないですか。だからこそ、ひとつひとつの現場を大切にしなきゃって。

これは『日本統一』の監督で、病気から復帰した方の言葉ですが、「病気を経験してからは、どの作品も、これが人生最後の現場かもしれないと思って取り組んでいる」と言われてて。僕もいつも最後の現場のつもりで、全力で悔いがないようにやろう、と。

それと15年ぐらい前にある演出家さんに言われて、ずっと残ってる言葉があって。

――どんな言葉ですか。

ある舞台で、若手の役者たちを前に、「君たちそれぞれ、役者を目指したきっかけがあるだろう? 動機は全員違うけど、何かを見て心を動かされて、今ここで役者をやっているんだよな? 今度は、見た人が何かになりたいと思う舞台をやろうじゃないか」っておっしゃったんですね。

そして「なんでもいい。舞台を見て『役者になりたい』でも、時代劇を見て『殺陣をやりたい』でも、病院ドラマで『医者になりたい』でもいい。お客さんが何百人か見てくれて、その中のたったひとりでも、何かを目指すきっかけになる芝居ができたらいいよね」といった話をされて。

「俳優には、誰かの人生を変える可能性がある、人の心を動かせる仕事なんだ。だから一生懸命に作品を作って、ひとりでも何かを目指すきっかけになるようにベストを尽くそう。見た人の心に何かを届けよう」って話をされて、「ああ、そうか、そうだな」って。すみません、口下手で上手く話せないですけど、ずっと残っているんです。

――その言葉が力になっているということですか。

そう、そうです。「しんどいな、ラクしたいな」という時に、その言葉がこう、ふっと頭によぎって。で、「ここでもうちょっと頑張ったら、誰かに何かを届けられるかもしれない」と思うと、もう一歩前に進める原動力になります。
それと同じくらい力になるのが、ファンの皆さんです。ファンレターで、ものすごく細かい部分を見ていただけて感激したり。めちゃくちゃエネルギーが湧いて頑張れます。

――今まで多くの作品にご出演されていますが、転機になった作品は何でしょうか。

やはり『日本統一』シリーズは、ありがたい作品との出会いでした。侠和会の坂口丈治。10年も同じ役をやらせてもらえる機会ってなかなかないじゃないですか。「Vシネマ」という枠を越えて、『統一』というひとつのジャンルみたいになって、地上波でドラマ化もされて。気付けば10年、そんなに長くやらせていただけるとは、考えてもなかったですから。

さっきの話に繋がるんですが、「ただ1本1本、思いっきりやるぞ」って続けた結果です。昼間に舞台が1日2公演あって、夜は『日本統一』の撮影という時期もあって。さすがに「しんどいな」ってときもあったけど、ずっと頑張ってきてよかったって感じますね。

――『日本統一』は、重鎮も含めて先輩方が多く出演されていますが、共演や交流はいかがですか?

「この先輩方がいてくれてよかった」っていうのは常々思っています。主役の本宮泰風さんと山口祥行さん、小沢仁志さんと小沢和義さんのご兄弟。公私ともに、様々なことを学ばせてもらってます。

――どんな学びがあるんですか。

たとえば、現場の作り方ですね。主役って、芝居をやるだけじゃなくて、現場全体を引っ張っていく存在なんです。『日本統一』でそれを知ったし、肌で感じたし。先輩4人は、おひとりずつ方向性やキャラクターは違っても、それぞれ現場を引っ張っていく存在であることは共通しています。いわゆる座長的な。当たり前ですが、自分なんてまだまだだなって、学ばせていただいています。

――2024年からスタートした『CONNECT 覇者への道』は北代さん、山本裕典さん、高岡蒼佑さんが主演です。今度はご自身も現場を引っ張る立場かと思いますが、どんなことを心がけていますか。

まだまだ見つけられないですが、とにかくもう、みんなが楽しく現場に入れるようにと。連続ものなので、その回のゲストさんが現場に入りやすいようにとか、いろいろ考えているつもりではありますが、やはり先輩たちには、まだまだ及ばないなと。そこはもう自分で感じるんで。

だからもう、役者って一生勉強ですね。現場のこともそうですし、お芝居もまだまだ勉強ですし。役者の勉強であり、人間の勉強です。ちゃんと人間を磨いていかなきゃって。いま40歳の手前で、ひとつずつ歳を重ねていきますけど、いい歳の重ね方をしていきたいなと。

――『CONNECT 覇者への道』は、ご自身の主演で、早いペースの連続作品です。これまでの作品とは気持ちの入り方は別格でしょうか。

気持ちはどの作品でも同じです。『日本統一』と同じ連続シリーズで、シリーズは見てくださるかたがいるから続けられるので、一本一本、毎回が勝負です。毎回「これが売れなかったらシリーズが終わる」というプレッシャーと不安の中で、いいものを作って受け入れてもらおうと一生懸命にやっています。だから70作を越えている『日本統一』(『日本統一72』が2026年1月7日発売)って、ものすごいシリーズですよね。

――スピンオフ作品も数々ありますし。

そうですね。「先輩がたは、毎回このプレッシャーと戦いながら積み上げたんだな」と、10年以上続いている凄さが、さらにわかってきましたね。『CONNECT』で主演のひとりをやったから、あらためて『統一』の凄さがわかって。どっちもいつまでも続けたいというのが一番の願いです。

――北代さんは様々な大作でキャリアを積まれる一方で、配信ショートドラマ「イケないマネジメント術 童貞スタッフの風俗日誌」などにご出演されて、若手中心のキャスティングの中で意外でもあります。ご出演の経緯をお聞きできますか。

監督の谷健二さんからのオファーです。初主演の倉須洸さんを含めて、若手キャストぞろいの作品の中で、メンバーをギュッと締める役柄で出演して欲しいと。引き締めたり、引き立たせる役割を望まれてのオファーでした。

――若手のお手本になるような存在で。

そうですね。それは僕がいつも先輩がたから受けた恩恵でもあるので。まだまだ未熟ですけど、今度は自分が役に立てたら嬉しいですから。今回のモチベーションのひとつでした。

――台本を読んだときはいかがでしたか。

めちゃくちゃ面白いなと。業界の裏側が何気ないこともでもリアルだし、どの世界でも役立つことが入っていますし。困った時も視点を変えたら、案外ポジティブなほうへ状況が進んでいくとか。共感できるところがあります。

――北代さんが演じる権田は、女教師系の風俗店の店長で、無口で強面ですが、実は本人も女教師フェチで、甘いものが好きというギャップが面白いです。スイーツ好きはご自分での役作りですか?

はい。あれは台本にはなかったですね。まさにそのギャップが狙いでした。現場で空き時間に、差し入れを買いに近くのスーパーに行ったら、美味しそうな焼きプリンがあって。「店長も焼きプリン食いたいんじゃないかな」って(笑)。それで監督に提案したら、「いいですね」ってOKになって。

――何度か焼プリンを食べるシーンがありますね。

そうです。しかし「はい、ここで焼プリンいきましょう」って監督に言われても、「う~ん、ここは食わないですね」って断ったり、キャラクター作りに自分のこだわりがありました。嬉しいですね。焼きプリン注目していただけたら(笑)。

――他、どんなポイントで店長のキャラクターを作っていったでしょうか。

今回は僕がどうこうっていうよりも、主役の倉須くんに影響を与える存在になることを考えていました。

――それは劇中のことですか。それとも現場のことで。

現場でも、劇中でも両方です。店長は、倉須くんの演じる根岸に対して当たりは厳しいけれど、たぶん、心の中では、どう育てたら、店のためにも彼のためにもなるか、考えているんですね。自分がいることで、主人公からも倉須くんからも、新たな一面を引き出せたらと。そういう意識で現場に入って。

――相談に乗ったりアドバイスをしたりも?

初日に倉須くんは、かなり芝居に苦労してました。帰りたまたま一緒になったんですが、かなりへこんでいたので、いろいろ話しました。それと、店長が根岸の指を詰めるぞって迫るシーンがあって、その激しい場面でOKが出た後に、倉須くんが興奮気味に「自分の中で、しっくり来たものがありました。こういう感覚は初めてでした」と芝居に手ごたえを感じたようで。彼のその言葉だけでも、自分がこの現場に来た意味があるなって感じました。

――若手の女性キャストも多いですね。

今回はケアのことばかり考えてましたね。事務所の後輩の矢野ななかが夏恋という役で出ていますが、露出があったり、芝居として攻めなきゃいけないとか、けっこうエネルギーを使うシーンが多いですから。特に何もしませんが、遠くから見るようにしていました。

若手たちはワークショップか何かでも仲間で、関係はできあがっていて、みんなでわーって盛り上がったりしていて、僕もたまにその輪に入るけど、距離は取って、やりづらくないように、生き生きと芝居してくれたらいいなと。

――芝居にアドバイスされたりも。

たまにですね。基本、お芝居は自由にした方がいいと思うんですけど、例えば女の子たち4人で、カメラに被っちゃってるから、こんな時はみんなの顔が映るように、ちょっと下がるんだよとか。たまにピッと出て言って、ピッと下がってというのはありました。

――これまでの役柄のイメージから、「怖い方かと思ってました」と言われませんでしたか。

それはもう、プライベートでもよく言われます(笑)。いやもう倉須くんが律儀なので、衣装合わせの日は彼が先に終わったんですが、帰らずに衣装合わせ場所にわざわざ残って、終わってからも挨拶してくれたんです。こっちも挨拶はきちんとする性質なので、まじめな顔で「北代です。よろしくお願いします」って。そうしたら彼の自己紹介のあとの第一声が、「怖いですね」って。「えっ、優しくしたつもりだよ」って(笑)。

最終日には「北代さん優しかったです。ありがとうございます」とみんなに言われて、いい若手たちでしたね、本当に。

――任侠アクションとは違う若手の多い現場で、ご自分でも新鮮さはありましたか。

はい、新鮮でした。彼らが「ああしよう、こうしよう」とか「もっとこの役を面白くできないかな」って話してる姿を遠くから見てると、エモいというか、なんかいいなって。自分も若い時の気持ちを忘れてないつもりですけど、絶対この感覚を忘れちゃいけないなって、すごく思いました。

――完成した作品を観て、いかがでしたか?

事務所の後輩の矢野は、現場に入る前から、すごく緊張しているって聞いていて、相手役の倉須くんもフレッシュですし、ふたりが互いに緊張してるのが、いい意味で役柄とリンクしています。自然な初々しさが凄くいいんですよ。それと、1本3分の連続ストーリーなんですが、1時間とか、30分のドラマと違って、たった3分で次回を見たいって惹き付けるのは難しいんじゃないかって気になって、撮影中に監督とも話した部分です。そのあたりの工夫も見ていただけたらと思います。

――今日はありがとうございました。今の目標などはありますか?

さきほど日大芸術学部のお話もしましたが、「日藝賞」という卒業生から選ばれる賞があって、自分も受賞できるまで頑張りたいんですよね。それは育てていただいた何よりの恩返しだろうと。ミュージカル『テニスの王子様』も『日本統一』シリーズもそうですが、自分を育てていただいたものに感謝や恩返しがしたいんです。それを目標に、40歳からも頑張っていけたらと思います。

北代高士 きただい・たかし
1986年9月15日、大阪府出身。日本大学芸術学部演劇学科在学中にミュージカル『テニスの王子様』(橘桔平役)に出演し、学業と両立しながら本格的に役者としての活動を開始する。極道巨編シリーズ『日本統一』で侠和会直参 四代目山崎組組長 坂口丈治役で10年出演し、主演作の極道ノワール・アクション『CONNECT 覇者への道』シリーズは現在15作が配信中。ドラマゲスト出演に『放送局占拠』『絶対零度 ~情報犯罪緊急捜査~』など。
「特撮作品にも出演したい」という北代さん。かつて特撮バラエティ『ウルトラゾーン』では傑作ショートドラマ「不良怪獣ゼットン」で、ゼットンに毎回ケンカを売って倒される赤王高校のヤンキーを熱演。「『戦国鍋TV』の繋がりで演出の住田崇さんに呼ばれてノリノリでやりました」。『仮面ライダー鎧武』では曽野村役で出演。「何年も経っても特撮ファンの皆さんは作品を覚えてて応援してくれるんです。嬉しいですよね」
『イケないマネジメント術 童貞スタッフの風俗日記』
数々の映画や舞台を手掛けるセブンフィルムが挑むオリジナルショートドラマ『イケないマネジメント術 童貞スタッフの風俗日記』。実在店をモデルに、アンダーグラウンドな世界で“童貞スタッフ”の成長と恋を描く挑戦的な作品。
【出演】 倉須洸 矢野ななか 大岩世奈 北代高士
【監督】 谷健二
【脚本】 原野吉弘
【原作】 『イケないマネジメント術』兎我野 成・著 発行/セブンフィルム 発売/垣内出版
ストーリー
就職に失敗し、バイトをクビになり、 それを親にも言えず無職のまま過ごす根岸誠。 居場所も自信もなく途方に暮れていた彼が、 ふとしたきっかけから働くことになったのは、 女教師コスプレ専門の風俗店「イケてる女教師」。 恐い店長や破天荒な先輩、クセ者揃いの嬢たちに翻弄され、 慣れない仕事に悪戦苦闘しながら、 “イケないマネジメント術”を叩き込まれていく。 そんな中、風俗嬢・夏恋との出会い、 そして恋が、誠の人生を大きく動かしていく――。

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原作本
『イケないマネジメント術』兎我野 成・著 発行/セブンフィルム 発売/垣内出版

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