今やニッチでもジツは老舗なのよ
セダンが少なくなって幾星霜。タクシーでさえセダンを見つけるのも難しくなったご時世だ。しかしながら異国のセダンは今もキチンとラインナップされている。ドイツ車でしょ、とご指摘ごもっとも。でも人と被りそうだ。そんな皆様、アメリカの老舗ブランド、キャデラックはいかがです? キャデラックといえばヘンリー・マーティン・リーランドが事業を起こし、創業124年を数える世界でも有数の老舗自動車メーカーになる。なおブランド名の由来は本拠地のあるデトロイトを開拓したフランス人貴族、アントワーヌ・カディヤックからきている。
そんなキャデラックは先進性をブランドの柱としていて、今でこそ当たり前の技術となっているモノは同ブランドが先駆けて採用した。例えばセルスターターや曲面ガラス、量産車初V8エンジン搭載やV16エンジンの開発、ダブルウィッシュボーンサス、パワステなどなど。
製造における部品の互換性も創業時から進んでいて、次のようなエピソードもある。『アメリカにおける初期のモータースポーツシーンで優勝者が乗っていたのはヨーロッパ製ばかり。そこでヘンリー・マーティン・リーランドがアメ車の優秀性を証明するために1906年に3台のキャデラックをイギリスに送った。アメ車が安いだけでなく信頼できることを証明するためだ。送られたクルマは王立自動車クラブの役員が解体して波止場に放っておいた。しかしキャデラックから派遣された機械工はスパナやねじ回しといったありふれた道具だけで元通りに組み立ててみせた。王立自動車クラブの面々は組み立てられたキャデラックを500マイル(約800km)も走らせたがその間一度も故障しなかったという』。
閑話休題。そんなキャデラックのセダン、CT5に乗れる機会があった。そのデビューは2019年。2021年に日本に上陸を果たし、2026年にマイナーチェンジ。フロントまわりがリリックふうになり、縦型のテールランプも往年のテールフォンが流行った頃の「らしさ」があるモノ。


左ハンドルで進め!
日本に導入されるモデルは左ハンドルしか設定がない。筆者は左ハンドルの方が運転しやすいと感じる少数派なのだが、考えようによってはそのブレない気概が「漢」である。商品はブランドごとの違いや考え方があってこそで、それがブランドの味わいなのだ。今や万人受けを目指すモノが主流だけれど「これが我々のブランドです!」 という商品が減少傾向と考えるとキャデラックはブレないブランドなのかも。しかしあのイケイケな大統領をみると「左ハンドルの何が問題なのかね」とワガママを押し付けられているような気がしないでもない、のか?
さて、インテリアの特長的なモノはマイチェンで採用された湾曲型33インチLEDタッチスクリーンディスプレイやAKG製サウンドシステムだ。前者はなんと9K解像度を誇り、後者は15個のスピーカーを備える。なおAKGは原音に忠実な音色が特徴といわれているオーディオブランド。キャデラックがエスカレードに自動車業界で初めて採用した逸品。

キャデラックのセダンといえばショーファードリブンを思いつきそうだが、今やその役目はエスカレードが担っているようで、確かにブランド内でコレぞアメ車! なV8OHVエンジンを乗せているのは日本市場ではエスカレードだけになってしまった。しかしエスカレードより小ぶりかもしれないけれどCT5の後席は広く十分なスペースがある。加えて6:4の分割可倒式と実用性も兼ね備えている。筆者が慣れが必要と感じたのはリアにかけて傾斜のあるシルエットゆえ、後席への乗り込みは慌てるとCピラーに頭をぶつけそうになることくらいか。いやいやいや。これはキャデラックである、こういったクルマは所作美しく、ゆったりと乗り込むのが正解なのだ。

大味が懐かしい?
筆者の持つアメ車像は乗り味もハンドリングも大味傾向でゆったりなイメージなのだが、CT5は全然違う。スポーツカーみたいで鷹揚な雰囲気は少ない。車名にスポーツを冠するCT5はそのグレード通りの走りっぷり。タウンスピードでも硬めな乗り心地だ。しかし路面状況によっては60km/hを超えるあたりからいい感じになった。
エンジンは直4の2リッターターボ。「アメ車なのにぃ?」となりそうなほど良識的だ。確かに1970年には8.2リッターのV8を採用するエルドラドや2003年のコンセプトカーでは13.6リッターのV16エンジンなんというモノを搭載していたが、ソレも過去のお話。今は非常に良心的な2リッター直4をメーンに展開する。
このパワーユニットはアイドリングストップ機能に加えて低負荷時には2気筒を休止するアクティブフューエルマネジメントが組み合わされるなど環境性能も高い。ソレでも最高出力240PS、最大トルク350Nmと十分以上なスペックを誇る。

組み合わされるミッションは自社製の10AT。このATが超絶滑らかな変速で、ステアリングに設えられたパドルでギアを落として、車間でも調整しようかのぉ、と思ったら想像以上に高いギアに入っているほど。筆者の経験則では車間を調整するならば3速は落とす必要があり、ブレーキを踏んだ方が早かった。もし積極的に自分でギアを調整するのなら、当たり前かもしれないけれどMTモードにした方が確実だ。10速という多段化の化身というのもあるかもしれないけれど、その滑らかさはシフトダウン時も同じで耳を澄ましてエンジン音を聞くか、タコメーターを見ないとわからなかった。

350Nmもの最大トルクがわずか1500rpmで発生するのもアメ車らしいのだけれど常識的、いや良識的な2リッターの排気量だと場面によっては「え?」と感じられるところもあった。例えば「コレぞアメ車の真骨頂よ」と高いギアのまま踏み込んで加速したいと思っても、CT5はクルマがギアを下げてしまう。もちろんその分鋭い加速体制になるのだけれども。
ハンドリングはかなりクイック。コレがアメ車か! と思うほど。繰り返しで恐縮なのだけれど昔のアメ車は切り返しの続く道ではたくさんステアリングホイールを動かす必要があった。CT5のソレはびっくりするほどスポーティでクネッた道も得意な印象だ。
現在のCT5のラインナップはAWDのスポーツのみになる。ドライブモードはデフォルトのツアー、スポーツ、アイス・スノーの3つが基本。このAWDはドライブモードによって駆動配分を変える賢いモノ。ツアーモードで40:60、スポーツでは20:80、アイス・スノーでは50:50といった具合。スポーツモードでクネった道を抜けるとなかなかに楽しく、3500rpmあたりからはパワーの盛り上がりが感じられ、回転上げ下げも楽しい。もちろん流す時は紳士的にもなるパワーユニットでもある。
高速をはじめ定速での巡航は水を得たサカナ状態で抜群の直進安定性だった。100km/hではエンジン回転数も約1500rpm。もちろん静粛性も高く、そのためのAKG製のスピーカーなのね、と再認識。加えて筆者は幸運にも(?)強雨の中を何度か走る機会があったがAWDシステムのおかげでリラックスして運転できた。心理的余裕は大きく、この余裕は安全運転にもつながるはず。人と被らず、個性を求めるモノマガ人の皆様、アメリカンセダンもありですよ!

CT5
| 価格 | 970万円から |
| 全長 × 全幅 × 全高 | 4935 × 1895 × 1445(mm) |
| エンジン | 1997cc直列4気筒ターボ |
| 最高出力 | 240ps/5000rpm |
| 最大トルク | 350Nm/1500-4000rpm |


















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