
ここでは、前回紹介した8台のフィルムコンパクトカメラのなかから、柊さんが「とくにお気に入りです」と語った4台で撮影した作品を紹介します。各カメラの特徴はもとより、購入時の注意点やエピソードも要チェック!
写真・文/柊サナカ

柊サナカ
Sanaka Hiiragi
第11回「このミステリーがすごい!」大賞、隠し玉でデビュー。小説家としても、カメラ系ライターとしても活動中。写真やカメラの最新情報から写真文化の楽しさとその魅力を発信するPCTで、機材紹介やカメラにまつわる映画エッセイなどを週刊連載。
クラシックカメラにはまるきっかけとなった1台、それがローライ35T

キャンプに行った先で海を見ました。小型で軽量のローライ35Tは旅の必需品です。最近、オートフォーカスが可能な新型のローライ35AFが発売されましたが、こちらのローライ35Tはピントが目測式です。撮りたい物までの距離を測って、3mなら3mのところにピントリングを合わせます(わたしの場合は大体3mかな? と適当です)。全部自分で合わせなければならないフルマニュアルのカメラですが、撮る楽しみがあり、飽きません。内蔵の露出計が断線していることもあるので、買うときには確認を。少し作法があり、無理に操作すると壊れる箇所があるので、買うときは中古カメラ店の店舗で、使い方を聞くのがおすすめです。わたしが持っているのはテッサーというレンズがついたものですが、他にもゾナー、トリオターなどのレンズがあり、どれも描写が違うのでレンズ違いで集める人も多くいます。機械式のため、オーバーホールをしながら末永く使えます。

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完全に日常に溶け込むカメラ……という感じがお気に入りポイント

リコーGRのシリーズが大好きです。GRは、ただの道をなんとなく写しただけでも、自分の目で見るよりも確実に美しい世界が写っている気がします。このGR1は、夫がもともと結婚前に買っていたカメラで、長くしまっていたため、中のモルト(光が入らないようにするためのスポンジのようなもの)がネトネトになっていました。古いカメラでは往々にしてそういうことがありますので、購入の際は中もしっかりチェックしていただきたい。発売が1996年とあって、液晶部分が消えかけているものも多くあります。わたしのGR1もそろそろ数字が怪しいです。露出はプログラム露出か絞り優先AEですから、現像して真っ黒とか真っ白だったという悲しい失敗がないのはありがたい。最初に全部フィルムを自動で巻き取って、撮れた部分からパトローネに収めていく方式なので、途中で裏蓋を開けてしまったとしても、撮れた写真は無事だという安全仕様。スナップに最適です。

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レンズが格納されるギミックにも胸キュンの “街角スナップの相棒”

レンズキャップがいらないタイプのコンパクトカメラ、コンタックスTです。前の板を下ろすと、連動してレンズが中からせり出てくるんです。値上がりし続けているコンタックスT2よりは値段が控えめ。数が少ないのか、あまり店頭では見かけません。ピント合わせは二重像を合わせるタイプで、撮りたい物にきっちり合わせられるのが良いところ。この写真は、渋谷のBunkamuraで、美術館で写真展を見たあと、(いい写真展だったな……)と思い返しながら外に出ようとして撮った1枚です。差し込んでくる光がとても綺麗で、絞り優先オートまかせで撮影しました。こんなふうに、光の洪水みたいに撮れたのは予想外でした。フィルムカメラにはそういった、現像後にはじめてわかる1枚があるのも、面白さのひとつだと思います。f8に絞りを合わせておけば、街角スナップはコンタックスTに任せて大丈夫という安心感があるのもいいですね。透明感のある写りに、きっと驚くことでしょう。

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摩訶不思議な立体写真が撮れるのもロボット小僧のような見た目もグッド

“ステレオ写真” をご存じですか? 2枚の写真を寄り目にしたりして重ねて見ると、立体に見えるという写真です。目が良くなるという触れ込みで、少し前にも立体写真のムックが流行りましたよね。このステレオロッカは、ステレオ写真が撮れます。左の写真もちゃんと立体に見えますので、読者の皆さまも寄り目にして試してみてください。ステレオロッカのフィルムは、巻物のようになっているブローニーフィルムを使います。正方形の中に、2枚1組、計2組の写真が写るというわけです。いかにも特殊な写真のように思えますが、ネガ自体は6×6の正方形と同じなので、街の普通のDPE店でもたいてい対応できます。ロボット小僧のような感じの、変わった見た目をしているので、出すと「カワイイ!」と話題になりますし、撮れた写真も4枚1組で、なかなか変わっていて面白いです。遠近感があるほうが立体視したときに面白いので、そういう場所を探して歩き回るのもまた一興です。
