パンダぢゃなくアザラシなのよ
長澤まさみサンの「ありかも!」で知名度を上げているBYD。同社がリリースするセダンに日本自動車輸入組合(JAIA)の大試乗会でシートをゲットしたのでご報告。
BYDは1995年に創立された中国の企業で、バッテリー分野では世界有数のメーカーとして知られる。スマホなどの携帯電話分野では同社のバッテリーはシェアNo.1というエレキテルなメーカーなのだ。そんなBYDが自動車分野に進出したのは2003年。ATTO3やドルフィンに続いて日本に上陸したのが今回のSEAL(以下シール)になる。
車名は「アザラシ」を意味し、BYDのいわゆる海洋生物シリーズに分類される。学術的には電気類多扉科、といった感じか。ドルフィンなど愛くるしいイメージだったので、セダンはパンダになるかと勝手に予想していた筆者の予想は大きく外れてしまった。いやいやもしかしたら大型のSUVに(しつこい)・・・。
試乗車はオーロラホワイトのAWDモデル。流麗なボディシルエットはアルファロメオやアウディのそれを手がけたデザイナーによるモノで、フロントバンパー下部の両サイドには波の波紋をイメージしたという。単純な筆者はそれを聞いて、なるほどどことなくヨーロピアンな雰囲気の中に東洋感が混ざってる、気がした。


クルマの3サイズは全長4800mm、全幅1875mmとやや大きめなクルマだが、日本の道路事情ではまだ扱いやすそうなギリギリの範囲ではないだろうか。車幅が1900mmを越えるとそれなりに気を使うし、全長が5m近くなると駐車場事情も関係してくる、そういった考えだと最大公約数サイズだと思う。
セダンだけあってオトナ向け??
ドアを開けるとその開閉音にムムムっとなる。ドイツ車っぽい剛性感なのだ。確かにヨーロッパでのカテゴリーはDセグメント。メルセデスのCクラスや3シリーズなどがライバルとなる。同じ土俵で勝負するため、こういった細かいところも抜かりはない。
ドルフィンの若々しい印象とはまるで逆のベクトルで、スエード調の素材に囲まれる豪勢なインテリア。「セダンを選ぶことはオトナになることなのね」的に頷けてしまいそうな雰囲気なのだ。シートの出来も想像以上に良くヒーターはもちろんベンチレーションも標準装備。
インパネセンターには、お約束のタテにもヨコにもなる15.6インチサイズの大型ディスプレイが厳かに座している。ナビゲーション使用中はタテの方が便利かと想像した。またこのディスプレイからは回生ブレーキの強さを含めたクルマの設定はもちろん、エアコンなどの各種操作が可能。インパネ下にはスマホのQi規格、いわゆる置くだけ充電に対応した充電器が左右1つずつ用意されている。



後席はかなり広い。足元スペースは十分に確保されていて、これは万能選手か! と思えてしまう。余談だがホイールベースは3m近くある。また後部が傾斜するボディラインだが、頭上の窮屈さを感じないのは、パノラミックガラスルーフの恩恵。なおこのガラスルーフ、紫外線カット率は99%、可視光線透過率4.2%というから眩しさも抑えれており、なかなかに侮れない実力の持ち主。

これだけ落ち着いた雰囲気のインテリアでキラリと個性を醸し出す逸品がオーディオだ。1977年にデンマークで創業したディナウディオのオーディオスピーカーを12個採用する。センターディスプレイからサウンドのカスタマイズも可能なので自分流に楽しめる。

ありかも、は本当だった!
シールのラインナップは文字通り後輪駆動のRWDと4輪駆動のAWDの2つ。バッテリー容量は両者とも82.56kWhで変わらないけれど、モーターの少ないRWDの方が当然航続距離は長く640km。フロントにもモーターを置くAWDは575kmになっている。AWDでもフロントフード下にはトランクスペースが用意されているのは嬉しい。

EVの方程式通りバッテリーは床下に。もちろん同ブランドが誇るブレードバッテリーがボディの一部分として敷き詰められており、剛性にも貢献。またバッテリー温度管理システムは日本製の急速充電器にも相性がいいという。そしてクルマの電気を自宅に使えるV2hにも対応するが、中には相性の悪い機器もあるというので、このあたりは確認しておきたいところ。
試乗車は前述の通りAWDモデル。そのシステム最高出力は約530PSと強大。したがって街中から高速を流しても余裕綽々。ちなみに530PSの最高出力をよくよく調べてみたらポルシェ・タイカンのエントリーモデルよりも高出力だった! 交通量も減りシフト斜め下のドライブモードをスポーツに。見せてもらおう、シールの加速とやらを! 脳内で有名なセリフが思い浮かぶ。

周囲の安全と速度表示、パトカーを確認して巡航速度からほんの数秒、いやコンマ何秒かキックダウンしたままにすればまさにワープ。視界が歪みそうなイキオイなのだ。速さのモノサシとして使われる0-100km/h加速は3.8秒と驚速っぷり。
筆者が感じた乗り心地は街中では癒しの柔らかさ。低重心の恩恵もあり、どっしりとしているのだが高速では場面的にはこの柔らかさがうーむと感じる時もあった。
クネッタ道に入るとこの柔らかさがチョードよく感じられ、クルマの姿勢変化を自分でコントロールする楽しさも。ただしクルマのキャラクターなのかシールにはパドルシフト、いやパドルスイッチは装備されないので回生ブレーキの減衰力を何段階と細かに調整はできない。しかし回生ブレーキの効きは「強」と「スタンダード」の2つは用意されている。
最後に短時間の試乗だったのでオートドライブは未使用だが、長距離メーンならば使うことでかなり楽に距離を伸ばせそうだと想像できる。
と、ここまでは筆者が2月の試乗会で感じた印象だが、10月には試乗したAWDモデルがアップデートされた。それは機械式油圧ダンパーから電子制御式サスペンションになったことが一番大きなニュース。それでいてお値段据え置きとこのご時世になんとも嬉しい響き。
電子制御サスは数値上では60km/hの連続起伏路面走行時における振動遮断率は96%の低減、100km/hからの急制動時のピッチング抑制は36.7%、100km/hでレーンチェンジした時のロールは39.7%低減されたというから、日常の乗り心地や操縦安定性の向上は確実にあるはず。
また同ブランドはジャパンモビリティショー2025で日本向けに特化した軽規格EV、ラッコ(2026年発売予定)を発表するなど日本市場に力を入れている。ウィンカーレバーの位置も右側に設置するなど輸入車でありながらも市場ファーストで攻勢をかける。

話はシールに戻る。補助金などを使えば電子制御サスも付いたこのサイズのセダンで、500万円前後と大変お求めやすくなる。そんなことを考えると、クルマ自体は価格以上の魅力。確かに「ありかも、BYD!」なのだ。

SEAL AWD
| 価格 | 572万円〜 |
| 全長 × 全幅 × 全高 | 4800 × 1875 × 1460(mm) |
| フロントモーター最高出力 | 217PS |
| フロントモーター最大トルク | 310Nm |
| リアモーター最高出力 | 312PS |
| リアモーター最大トルク | 360Nm |
| 一充電走行距離 | 575km |


































